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コラム:「日本人の生活意識」が予感させる低成長と為替の行方=上野泰也氏

[東京 27日] - 普通の人々が見せる動きが、「市場のプロ」と呼ばれる人々よりもはるかに的確に、相場の当面の動きを見通していることがある。

 1月27日、普通の人々が見せる動きが、「市場のプロ」と呼ばれる人々よりもはるかに的確に、相場の当面の動きを見通していることがある。上野泰也氏のコラム。写真は22日、東京都で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

9%台の金利はピークだと見抜いた人々が長信銀の発行する利付金融債・ワイドの購入のため、何時間も並んだ1990年の「ワイド騒動」は、その典型だろう。

為替の世界でも、ドル安・円高がある程度進むと、ドル建て外貨預金の預け入れが増えるようである。今年初めにかけて一時102円台まで円高が進んだ場面でも、そうしたマネーの流れがあったと人づてに聞いた。

このコラムでも何度も書いてきたことだが、ドル/円はボックス圏で推移する可能性が極めて高い通貨ペアである。過去数年に実際そうだったし、今年もそうなるだろう。

米ドルと日本円は、ともに「リスクオフ」時に逃避的に買われる通貨だという点で、同類である。しかも、新型コロナウイルス危機に直面した米連邦準備理事会(FRB)がゼロ金利復帰や量的緩和再開を決めた上で、日銀と同じように、大量の国債購入による長期金利の上昇抑制を行っている。

日米ともにインフレ目標は2%であり、FRBも日銀も目標からの上振れ(超過達成)を目指している。もともと同じグループに属していた通貨が、金融政策や金利水準の面でも似通ってしまい、差別化が一段と難しくなった。

要するに、米国と日本のいずれかのみにあてはまる極端にポジティブあるいはネガティブな材料が出てこない限り、100─110円というドル/円のコアレンジから逸脱するのは非常に困難だということである。

ここでは、データを入手しやすい日本人の意識について、直近の調査結果を踏まえつつ、もう少し解説を加えておきたい。使用するのは、日銀が四半期ごとに実施している「生活意識に関するアンケート調査」の昨年12月分である。

この調査には、日本という国の経済成長力の今後について尋ねた設問がある。日本の歴代政権は、生産性向上などを通じた潜在成長力の引き上げを模索してきた。菅義偉政権も例外ではなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉なども聞かれる。

「長い目で見たとき、日本経済の成長力について、どう思いますか」という設問への回答で、成長力が高まるだろうという庶民の意見が増加してくると、(そうした直感めいたものが正しいという前提で言えば)自然利子率さらには市場金利も高くなっていき、為替相場に対しては円高要因になると考えられる。

そこで回答分布を見ると、「より高い成長が見込める」が2.5%にとどまったのに対し、「より低い成長しか見込めない」が56.2%で過半数。中間項である「現状並みの成長が見込める」が39.9%になった。「より高い成長が見込める」から「より低い成長しか見込めない」を差し引いて計算される「経済成長力DI」はマイナス53.7である。過去のデータを見ると、18年12月調査から今回までマイナス50台で推移してきており、ここにきて何か大きな変化が生じたわけではない。

一般の人々の物価観・物価見通しについても見ておくと、1年後の物価について何パーセント程度変化すると思うかという設問への回答で、中央値はプラス2.0%。前回9月調査と同じであり、その前の6月調査のプラス3.0%からは下がっている。

また、5年後の物価は現在と比べて毎年、平均何パーセント程度変化すると思うかという設問への回答で、中央値はプラス2.0%。こちらは昨年6月および9月調査と同じ数字である。なお、消費者物価指数の具体的な水準にふだんから親しんでいない一般の人々は、この手のアンケートに対しては、生活防衛を意識しながら高めの数字で回答しがちだという、「くせ」のようなものがある。

一般の人々が考える物価見通しの数字が上昇してくるようだと、日銀が掲げる「物価安定の目標」2%が達成される確率がある程度高まってきたと判断することが可能だろう。だが、上記で見た通り、そうした兆候はない。

一方、物価見通しが下がってくるようなら、日銀が「ない袖を振らされる」形で何らかの追加緩和に動かざるを得なくなるかもしれない。しかし、そうした兆候もない。したがって、日銀の金融政策変更という角度から、ドル/円相場が揺さぶられる可能性は乏しい。

日銀は現在、金融緩和長期化を前提に、緩和手法の持続性や効果を高める工夫ができないかを点検しており、3月の次回金融政策決定会合をめどに結論を出す方針である。だが、点検が大きな政策変更につながって為替相場を揺さぶる可能性は乏しい。

この調査には、日銀への信頼度を尋ねている設問もある。「日本銀行を信頼していますか」というストレートな問いかけに対する回答の分布は、「信頼している」44.9%、「どちらとも言えない」46.9%、「信頼していない」7.3%になった。同じ設問があった6月調査では、それぞれ42.2%、47.3%、9.0%だったので、統計上の誤差を考えずに数字をそのまま受け止めるなら、日銀への信頼度は、わずかであるが上がったことになる。

仮に、日銀への信頼度が大きく下がるようなら、それは日本銀行券、要するに日本円という通貨への信頼度の低下につながる。考え方としては、他の通貨への資本逃避(キャピタルフライト)およびそこからくる悪い意味での円安進行が警戒される状況になってくる。だが、実際にはそうした流れに入っているわけではなく、人々は日本円を信用して用いている。

以上、日銀が実施したアンケートの一部をチェックして人々の意識の変化を探ってみたわけだが、ドル/円の大きな変動につながる要素は見出されなかった。

また、ドル/円に影響することがしばしばある米国の10年物国債利回りは徐々に水準を切り上げていたが、FRBが時期尚早の量的緩和縮小(テーパリング)には動きそうにないことを確認した上で、1.18%でピークをつけて低下してきている。

もっとも、その水準位置どころが大きくシフトした変わったわけではなく、昨年以降のレンジ内での動きにすぎない。

いろいろ考えてみても、ドル/円はレンジ色の強い展開を今後も続けそうだという結論は動かない。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

編集:田巻一彦

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