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コラム:日欧中銀が匂わせる「マイナス金利深掘り」、現実味はあるか=上野泰也氏

[東京 25日] - 日銀と欧州中央銀行(ECB)の金融政策の枠組みには、似通った部分がある。それは、マイナス金利深掘りという金利面での追加緩和カードが存在していることをアピールし続け、それを織り込んだフォワードガイダンスも掲げていることである。

 2月25日、日銀と欧州中央銀行(ECB)の金融政策の枠組みには、似通った部分がある。それは、マイナス金利深掘りという金利面での追加緩和カードが存在していることをアピールし続け、それを織り込んだフォワードガイダンスも掲げていることである。上野泰也氏のコラム。写真は独フランクフルトのECB本部前。2011年12月撮影(2021年 ロイター/Ralph Orlowski)

ECBの主要政策金利は、平時であれば主軸になるレポ金利(固定金利主要リファイナンスオペ金利)0%、翌日物金利の変動幅(コリドー)の上限を規定する限界貸出ファシリティー金利0.25%、下限を規定する預金ファシリティー金利はマイナス0.5%という体系になっている。

現在は量的緩和が行われ、短期金融市場に滞留する余剰資金が大きな規模になっているため、預金ファシリティー金利が及ぼす影響力が格段に大きく、翌日物金利はマイナス圏で推移している。

そして、ECBは2019年7月の理事会で、主要政策金利の先行きの水準にコミットしているフォワードガイダンスについて、据え置く金利水準の表現を、それまでの「現行水準」から「現行水準もしくはそれを下回る水準」へと書き換えた。

ECBは為替相場に目標を設定しているわけではないが、ユーロ/ドル相場に代表される為替の動きは、ユーロ圏内の物価動向に大きな影響を及ぼすファクターである。

仮に、市場からECBの手元の追加緩和カードは枯渇したとみなされたり、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和にECBは後れをとっていると受け止められたりすると、ユーロが買い進まれて、ユーロ圏の経済に対してECBが利上げに動いたのと同じような影響が及びかねない。したがって、ECBはマイナス金利深掘りというカードが存在していることを、市場に対して相当神経質にかつ念押し的にアピールし続ける必要がある。

また、そうしたECBによる一種のデモンストレーション的なメッセージ発信は、ECBが「丸裸」になってしまったわけではないという体裁を取り繕い、世の中で不安心理や無用の臆測を招いたりしないよう配慮しているということでもあろう。

そうしたECBの動きを事実上後追いしているのが、日銀である。日銀の戦後の歴史において、為替の円高進行はいわば「天敵」のようなものであり、その到来は何としても避けたいという思いが、現在でも強いと推測される。

日銀は2018年7月の金融政策決定会合で、政策金利のフォワードガイダンスを導入した。その内容は「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の極めて低い長短金利の水準を維持することを想定している」である。

この段階では、日銀が短期および長期の政策金利について、現行水準維持をコミットするにとどまっていた。だが、ECBが上記の動きを見せた後、2019年10月末の金融政策決定会合で「政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれるおそれに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」という新たなフォワードガイダンスを導入。マイナス金利には現在のマイナス0.1%から深掘りする余地があるという認識を、あえて盛り込んだ。

コロナ禍により物価のモメンタムが損なわれた後に、金利のフォワードガイダンスはさらに書き換えられており、現在では「政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」という表現になっているが、「または、それを下回る水準」という部分は同じである。

日銀関係者が非伝統的な金融緩和手法の先駆者・開拓者であることを自負する場面もあるのだが、金利のフォワードガイダンスについて言えば、日銀はECBの後塵を拝している形である。

そのECBの関連で、複数の当局者をもとにブルームバーグが1月下旬、1つのニュースを配信した。市場がマイナス金利深掘りの可能性をほとんど織り込んでいない状況についてECBは協議し、その可能性を強調する必要があるという点で一致したというのである。

ECB当局者らは現時点で、近い将来のマイナス金利深掘り実施を考えているわけではないものの、経済を巡る不確実性が大きくユーロ相場が比較的高い時期に、投資家は利下げの可能性を排除すべきではないという、関係者の発言も報じられた。

実際、オランダ中銀のクノット総裁がほぼ同じタイミングで、マイナス金利には深掘りの余地があると言明していた。

こうしたECBによる一種のメッセージ戦略は、すでに述べた通り、為替市場におけるユーロ高へのけん制や、自らの信認確保に狙いがあるとみるのが順当だろう。

では、日銀はどうするのかと思っていたところ、2月に入って動きがあった。日銀は今年3月の金融政策決定会合をめどに、「物価安定の目標」である2%を実現するためのより効果的で持続的な金融緩和の点検の結果を公表することにしている。その関連で、2月10日夜に時事通信とブルームバーグが相次いで、この点検ではマイナス金利深掘りの余地があることを「明確化」することが検討されると報じたのである。

現時点でマイナス金利深掘りが必要だと日銀がみているわけではないものの、新たな金融危機や急激な円高進行といった「もしもの場合」に備えた追加緩和カードがきちんと用意されていることを、今のうちから市場にアピールしておこうという話のようであり、ECBとそっくりである。

金融機関収益などに及ぼす弊害・副作用が大きいことから、ユーロ圏でも日本でも、マイナス金利深掘りという追加緩和カードは、その存在を市場に見せておくことに意義があるとしても、破れかぶれの対応が必要にでもならない限り、実際に発動できるカードではないだろう。

したがって、ECBや日銀によるマイナス金利深掘りカードの存在アピールが、為替相場を大きく動かす材料になっていくとは考えにくい。ドル/円相場は足元で、100─110円という筆者が以前から想定しているレンジの真ん中あたりで推移している。今後も方向感の出にくい値動きが続きそうである。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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