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コラム:見えてきた「金利上昇でドル高」の限界、ディスインフレの厚い壁=上野泰也氏

[東京 24日] - 日米欧の中央銀行はいずれも金融緩和姿勢を堅持し、引き締めにはまだまだ動きそうにないことが、3月の一連の会合を経て、改めて確認された。このことから考えて、主要3通貨の為替相場が金利動向を主な材料にして、いずれか一方向に大きく動いていくのは、しばらく難しそうである。

 日米欧の中央銀行はいずれも金融緩和姿勢を堅持し、引き締めにはまだまだ動きそうにないことが、3月の一連の会合を経て、改めて確認された。このことから考えて、主要3通貨の為替相場が金利動向を主な材料にして、いずれか一方向に大きく動いていくのは、しばらく難しそうである。上野泰也氏のコラム。写真はソウルで2011年9月撮影(2021年 ロイター/Lee Jae-Won)

ドル/円相場は、米長期金利の急上昇(日米金利差の急拡大)を原動力にして、3月15日に一時109.36円になった。だが、大きな節目である110円をトライするには至らず、ドル高・円安はそこで止まった。米10年債利回りは18日に一時1.75%をつけるまで売り込まれたものの、為替のプレーヤーはそれより少し早いタイミングで、この「米長期金利上昇でドル高」をテーマとする相場から降りたようである。

その主な理由は、筆者の見るところ、米10年債利回りの上昇がこの先も続いて2%を大きく超えていくシナリオの実現可能性は小さいと、冷静に読んだからだろう。

パウエル議長率いる米連邦準備理事会(FRB)の指導部は、責務である「最大雇用」と「物価安定」の2つをしっかり達成するため、物価については目標として掲げる2%を緩やかに超える水準までの上昇を許容することで、過去の目標比下振れを「埋め合わせる」戦略を取る姿勢を明確にしている。

パウエル議長が記者会見で明言した通り、FRBはこれからは、予測をもとに先回りして(予防的に)動くのではなく、実際のデータが出てくるまでじっくり待つスタンスを取る見込みである。金融政策の効果が実体経済に及ぶまでにはラグ(時間差)があるが、そのことを十分に認識した上で、いわばバックミラーや真下の道路状況を見ながら、自動車を慎重に運転していくというわけである。

そこまでFRBが「待ち」の姿勢を取ることができる背後には、グローバル化とデジタル化という、構造的に物価の上昇を抑制する要因がある。1970年代のような「インフレの時代」はとうの昔に終わっており、ディスインフレさらにはデフレが、中央銀行にとっての最大の難敵である時代が到来している。

そうした中でFRBとしては、景気過熱や資産バブルも覚悟の上で、物価上昇率をなんとか持ち上げて、人々が抱く期待インフレ率を2%という水準につなぎとめようとしているわけである。

こうした腹をくくったFRBの新しいやり方に、市場の側はまだ慣れていない。以前と同じ、「景気回復を示す経済指標が増えてきたなら、半ば条件反射的に早いタイミングの利上げ開始を織り込む」というパターンで米債券市場参加者は行動し、その結果として長期金利が上昇したと言える。

そして、そのような古典的なパターンで売買を行う際に、バイデン政権による大型の追加経済対策、新型コロナウイルスに有効とみられるワクチン接種の進ちょく、原油など国際商品市況の上昇が、引き合いに出された。

だが、財政政策による景気刺激効果は基本的には一過性であり、短期集中でお金をばらまいた場合は、その後に断層が生じる「崖」の問題が出てくる。ワクチン接種に関しては、共和党支持者のかなりの部分が接種に消極的だという調査結果が出ている。ある程度まで接種率が上昇したところで頭打ち感が強まり、市場で失望が広がるのではないかと、筆者は予想している。

また、国際商品の高騰については、米国株上昇を受けて市場全体が「リスクオン」に傾いた中でのマネーゲームという側面があり、持続性に疑問がある。それでも米長期金利が一段と上昇していく場合には、何が起きると考えられるだろうか。

1つは、ハイテク株を中心とする米国株の再度の不安定化である。時期尚早の金利上昇が景気回復を阻害するリスクの増大が意識されるだろう。投資対象として米国債の魅力が増す一方、米国株の魅力は低下したという見方が広がることも十分想定される。

もう1つは、しびれを切らしたFRBが長期金利上昇の抑制に本腰を入れる可能性である。景気回復・物価上昇を織り込む方向の市場の動きを尊重して、FRBは長期金利上昇を静観してきた。だが、そうした対応では事態が著しく悪化しかねないと判断する場合、市場が織り込んだ早期利上げ観測をこれまで以上に強く否定するメッセージを発信したり、長期・超長期ゾーンの金利上昇を押さえ込む目的で「ツイストオペ」の議論を始めたりするかもしれない。

上記の2つはいずれも、米長期金利低下や「リスクオフ」ムードの広がりを通じて、ドル/円をドル安・円高方向へと動かす材料になる。筆者は引き続き、ドル/円は100─110円前後のボックス圏の中で推移し続けると予測している。現在は110円に近いところにいるものの、そこから110円を超えて円安が進んでいくとは見ていない。その理由は、すでに述べた通りである。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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編集:田巻一彦

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