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コラム:世界市場に金融引き締め織り込みモード、ポーランド利上げで拍車か=上野泰也氏

[東京 27日] - ポーランドと言えば、「法の支配」をめぐる欧州委員会との対立激化がホットな話題であり、同国の欧州連合(EU)からの離脱を言い表す「ポレグジット」という造語も登場している。復興基金からポーランドへの資金配分を止めるという強硬手段を取るとるべきと主張するオランダのような国もあるが、ポーランドのモラウィエツキ政権はひるんでいない。

ポーランド関連で筆者が最近、最も衝撃を受けたのは、10月6日にポーランド国立銀行(NBP、中央銀行)が突如として利上げを決めたことである。上野泰也氏のコラム。写真はポーランドズロチ紙幣。ワルシャワで2011年1月撮影(2021年 ロイター/Kacper Pempel)

もっとも、ポーランド国民のEU残留希望は強く、「ポレグジット」には至らないだろう。独首相としての任期が10月26日に終了して首相代行になったメルケル氏が、妥協を促していることも見逃せない。

<ポーランド中銀、突然の利上げ>

この国の関連で筆者が最近、最も衝撃を受けたのは、10月6日にポーランド国立銀行(NBP、中央銀行)が突如として利上げを決めたことである。主要政策金利(レファレンスレート)は0.4%引き上げられて0.5%になった。また、預金準備率が0.5%から2.0%に引き上げられた。声明文は「中期的にインフレ率を目標まで低下させるため」の利上げであるとした。

この利上げが行われる前までは、NBPのハト派スタンスは際立っていた。9月8日に主要政策金利を過去最低の0.1%に据え置いた際の声明で、NBPは「一時的な物価上昇をもたらしているいくつかの要因が弱まった後、2022年にはインフレ率は低下する見通しだ」と強調。

ロイターは「(ポーランド)中銀は、現在見られているインフレ加速は一時的で、燃料価格動向など金融政策の影響を受けない要因によるものだとの見解を繰り返し示している」「こうしたハト派スタンスは、すでに引き締めサイクルを開始したチェコやハンガリーの中銀とは対照的だ」と報じていた。

ポーランドのインフレ率は、9月には前年同月比プラス5.8%に加速している。同国のインフレ目標はプラス2.5%で、上下に1%ポイントの許容変動範囲が設定されている。足元のインフレ率は許容上限を大きく超えているわけだが、これには前年同月の指数水準が低いことからくるテクニカルな押し上げ効果(ベース効果)や、エネルギー価格高騰・供給制約のような基本的には一過性とみられる要因が寄与している。

さらに、金融政策を発動した場合にその効果が実体経済に及ぶまでのラグ(時間差)も考慮に入れると、足元の数字に短絡的に反応して利上げを実施するのは、エコノミストの視点からは妥当な政策運営であるとは言い難い。

<市場に疑心暗鬼>

にもかかわらずNBPが急に動いた背景には、諸方面からの「圧」があったのではないかと、筆者は推測している。生活に密着した品々が値上がりする中で、蓄積されていく庶民の不満。NBPが「何もしないでいる」ことは望ましくないという識者などからの批判。中東欧の国々が利上げを重ねていく中での孤立感だ(NBPが利上げに動く1日前には、ルーマニア中銀が新たに利上げに踏み切っていた)。

そうした中でグラピンスキNBP総裁は、心が折れたのかもしれない。10月6日の時点で、もはや逃げ切れないと覚悟を決めたのだろう。声明文は、高いインフレ率が想定以上に長期化する恐れがあると指摘。インフレ期待の上方シフトをけん制する狙いで利上げに動いたことをにじませた。

高インフレでも中央銀行が「動かない」ことへの批判に反論した最近の例としては、米国のサンフランシスコ地区連銀のデイリー総裁の発言がある。同総裁は10月22日のオンライン会合で「忍耐強く、動かずにいることは、眠っているのとは異なる」と発言。現時点で利上げを行っても、世界的なサプライチェーンを巡る問題(半導体不足、一部産業での人手不足、港湾作業など物流の停滞など)が解決するわけではなく、むしろ来年の経済成長が阻害されてしまい、生産と雇用の双方が犠牲になる恐れがあるとの見解を示した。

デイリー総裁の主張は正論である。だが、実際の政策運営がその通りに動いて行くとは限らない。ポーランドのように「圧」に突然屈する実例もある。G7(主要7カ国)メンバーの中では、英国のイングランド銀行が、サプライサイド主導のインフレに対して利上げは無力だとベイリー総裁が吐露したにもかかわらず、年内に利上げする可能性が非常に高くなっている。

ポーランド(さらにはおそらく英国)のような実例を見てしまった市場参加者が、程度の差はあるにせよ、疑心暗鬼にかられるのも無理はない。

オーストラリア準備銀行(RBA)はかなりハト派であり、賃金上昇率の弱さから考えて24年より前に利上げすることはないだろうという見方を前面に出している。だが、市場はそれよりも前にRBAが利上げを開始することを織り込んだ。隣のニュージーランドがタカ派に傾斜して利上げをすでに始めたことも、影響を及ぼしている。

米連邦準備理事会(FRB)についても、量的緩和縮小(テーパリング)を年内に開始して22年半ばくらいに終えるというところまでは、見通しとして確度がかなり高いが、そこから1四半期くらいのうちに利上げが始まることを織り込むという非常に前傾した動きを、市場は見せている。

こうした市場の疑心暗鬼が解消するには、インフレ率が目に見えて鈍化してくることが必要になるが、その時期は22年1-3月期以降にずれ込む見通しである。

<中銀前傾なら景気腰折れリスク>

ここでトリッキーなのは、「圧」に屈して中央銀行が前倒しで利上げを開始し、回数を重ねれば重ねるほど、景気が腰折れする(連れて物価上昇率は急速に鈍化する)可能性が高まっていくことである。

国債のイールドカーブ(利回り曲線)で言えば、5年債や2年債を中心とする中期ゾーンが膨らむ一方で、景気・物価動向の先読みをする30年債や10年債の利回りは上がりにくくなり、利上げの織り込みが重なり過ぎると逆に下がっていくという構図である。

ドル/円相場について言えば、米国債のイールドカーブが上記のような動きになった場合に、どのゾーンの動きに着目して売買がなされるのかは、やや微妙な問題である。米利上げ観測の強まり・日米金利差拡大をテーマにした「いけいけどんどん」的な相場展開なら、中期ゾーンへの注目度が高いだろう。114円台後半まで動いた先般の状況は、その実際の例である。

だが、急ピッチの利上げによる景気・企業業績への悪影響を不安視して米国株が下落するならば、長期・超長期ゾーンの利回り変動への注目度が一段と増すはずである。

いずれにせよ、FRBによる来年の複数回の利上げまで織り込みにいった動きからは、行き過ぎ感がぬぐえない。筆者が予想していた水準を超えて円安・ドル高が進行したものの、115円には届かずに、動きは一巡したとみている。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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