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コラム:「さっさと上げて長く引っ張る」FRBの戦略、裏目に出たら円高に=上野泰也氏

[東京 13日] - 「金利相場」色が相変わらず濃いドル/円相場の先行きを考える上で、米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)の利上げがどこまで行われ、ピーク水準にとどまる期間がどこまで長くなるのか(利下げに転じるのはいつなのか)は、非常に重要なファクターである。

 「金利相場」色が相変わらず濃いドル/円相場の先行きを考える上で、米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)の利上げがどこまで行われ、ピーク水準にとどまる期間がどこまで長くなるのか(利下げに転じるのはいつなのか)は、非常に重要なファクターである。写真はFRB本部。ワシントンで2015年9月撮影(2022年 ロイター/Kevin Lamarque)

筆者は、FRBの利上げは今年12月まで行われ、フェデラルファンド(FF)レート誘導レンジの今回利上げ局面におけるピーク水準(いわゆるターミナルレート)は3.75─4.0%になるとみている。

その水準で、FRBはできるだけ長く引っ張ろうとするものの、過去の利上げ終了から利下げ開始までの平均インターバルに沿う形で23年9月には利下げに転じるだろうというのが、筆者の描いているシナリオである。

<タカ派発言目立つFRB>

だが、物価上昇圧力が根強いとみるタカ派の米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の中には、メスター・クリーブランド連銀総裁(今年のFOMCで投票権を保有)のように、FFレートは23年初めまでに4%を少し上回る水準へと引き上げ、そこで据え置く必要があると主張している向きもある。

9月9日には、やはりタカ派の一員であるウォラー理事が、メスター総裁に半分だけ加勢。「少なくとも来年初めまで利上げを行う必要がある」と述べつつも、ターミナルレートが4%を上回るか下回るかについては経済指標とその意味合い次第とした。

6月FOMCの時点ではウォラー理事は、政策金利のピークを4%近くとすることを支持していたものの、現在では、インフレが今年中に緩和せず、あるいは一段と上昇する場合には政策金利は4%を十分上回る必要がある一方、インフレが突然低下するなら4%を下回る可能性があるとしていた。

この間、今回の金融引き締め局面でFRBの動きをリードしてきたブラード・セントルイス連銀総裁は9月9日、今年の年末時点でFFレートが3.75─4.0%に上昇することを支持する立場に変わりはないとしつつ、23年の政策金利の道筋に関する自身の見解は何ら決定していないと述べるにとどめた。状況次第では23年初めにさらに利上げすることに含みを持たせたとも言える。

6月FOMC時点の「ドットチャート」(FRB理事・地区連銀総裁による将来の政策金利水準の見通し)、およびその後に出てきた当局者の発言内容からうかがい知ることができるのは、今後の政策金利運営に関する彼らの基本戦略が「より高い水準でより長く(higher for longer)」に傾いたということだろう。

相応に高い一定の水準まで利上げを続けた後、その水準でしばらく据え置く時間帯を設けて、金融引き締め効果の十分な浸透を図る。人々の期待インフレ率への働きかけについて言えば、2%目標にアンカーされた状態をじっくりと作り上げる狙いである。

ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁は8月30日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのウェブキャストのインタビューで「実質金利を中立に近づけるだけでなく、需要と供給を一致させるために、(3.5%を)幾分上回る水準に(FFレートを)引き上げる必要があるというのが私の基本的な見解だ」としつつ、インフレ率がFRBの目標である2%に回帰するまでに数年かかる可能性があるため「制限的な政策が当面必要となる」「インフレを低下させるために政策を適切な位置に持っていき、それを維持することが重要だ」との考えを強調した。

バーキン・リッチモンド連銀総裁は9月6日の英紙フィナンシャルタイムズのインタビューで、政策金利が「経済活動が抑制される水準」まで上がった後は、その水準を「高インフレが収まりつつあると確信を持てるまで」続ける必要があるとの考えを示した。

わかりやすく言うと「さっさと利上げして、その水準で長く引っ張る」のが、FRBがいま採用しているとみられる利上げ戦略である。

政策金利が天井圏にとどまる中で、仮に景気の落ち込みがきつくなる予兆が生じたり、インフレ率の低下が急ピッチで進んだり、FRBの金融引き締めを主因に米国の内外いずれかで金融システムに大きな波風が立つ場合には、機動的に利下げを実施することもできるというわけである。

<気になるカナダの先行事例>

しかし、経済は生き物と言われる。中央銀行が描く景気や物価の見通しがそのまま現実になる保証はない。それどころか、そうした予想は外れて当たり前というのが、実態に近い。

筆者の見るところ、今のFRBは米国の景気の底堅さについて、雇用面を含めてやや自信過剰のようである。そうした自信をぐらつかせる経済指標が出てくる場合には、FRBから出てくるメッセージに彼らの迷いが微妙に反映されるようになり、為替市場ではタカ派姿勢がぐらつき始めたと受け止められて、ドル売り・円買いの材料になるだろう。

米国の隣国であり、金融政策の連動性も高いカナダでは、9日発表の8月雇用者数が前月比3万9700人減になった。3カ月連続の減少で、カナダ銀行による利上げの影響で景気が減速しつつある兆候が示されたとみられる。

一方、8月の賃金は前年比5.6%上昇で、7月の5.4%から伸びが加速した。ロイターは配信記事に「カナダ銀行(中央銀行)が利上げを休止する可能性は低いとみられている」「エコノミストらは、賃金上昇圧力がインフレ加速につながる可能性を踏まえ、中銀は利上げ姿勢を維持する可能性が高いと指摘した」と記した。同時に「市場では10月の50ベーシスポイント(bp)利上げ予想が後退し、25bp利上げ予想に傾いた」と指摘した。

似たようなことが米国でもいずれ起きれば、FRBの利上げ局面終了・利下げ転換観測に結び付き、ドル/円をドル安・円高の方向に大きく動かすだろう。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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