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コラム:プーチン氏の核兵器使用はあるか、西側との神経戦の行方=上野泰也氏

[東京 19日] - 米国のバイデン大統領は10月11日のCNNテレビのインタビューで、ロシアのプーチン大統領が戦術核兵器を使用する可能性について問われ「彼がそうするとは思わない」と返答した。

 米国のバイデン大統領は10月11日のCNNテレビのインタビューで、ロシアのプーチン大統領(写真)が戦術核兵器を使用する可能性について問われ「彼がそうするとは思わない」と返答した。カザフスタンのアスタナで14日代表撮影(2022年 ロイター)

だが、このインタビューより前、6日に行った演説では「戦術核や生物・化学兵器の使用を語るとき、彼(プーチン大統領)は冗談を言っていない」「この道を進めば、(1962年の)キューバ危機以来、初めて核兵器の脅威に直面する」と、バイデン大統領は警告していた。 

この「冗談ではない」発言が米国の内外で波紋を呼んだことを考慮し、5日後のインタビューではトーンダウンしたのだろう。

ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は16日、核兵器使用の可能性を示唆しているロシアに対し、北大西洋条約機構(NATO)の同盟国やパートナー、中国やインドを含む国際社会が協力して、核兵器の使用を考えてはならないという断固としたメッセージをロシアに送る義務があると述べた。

<ロシアの本音>

一方、ロシアの同盟国側ではベラルーシのルカシェンコ大統領が14日、ロシアは必要に応じて核兵器を含むあらゆる種類の兵器を使用することができるとしつつ、最も重要なことはロシアを窮地に追い込まないことだと述べ、ウクライナや西側諸国に警告を発した。

自国の軍隊が守勢に回っている上に兵器や兵員が不足しており、国内では部分動員令への反発が広がるなど、プーチン大統領は徐々に立場が苦しくなっている。

ウクライナと停戦協議を行う可能性にもたびたび言及しているが、クリミア半島を含め領土面で一歩も譲るつもりはないのがウクライナの立場である。ウクライナとロシアが早期に停戦に向かう可能性は低く、戦線がこう着しやすい冬場を越えて、戦争はさらに長期化する見込みである。

では、この戦争の今後に関するシナリオには、どのようなものがあるだろうか──。

ロシアが核兵器使用の可能性をちらつかせているのはブラフであり、実際に使用するつもりは少なくとも現時点ではないと筆者はみている。だが、それに反して核兵器が使われるケースも含めて、今後の展開として考えられるものを整理すると、以下のようになる。

<いくつかのシナリオ>

1)メインシナリオ このまま戦争状態が長期化する。戦況は一進一退、もしくは戦線がこう着。

2)サブシナリオ 双方でえん戦気分が広がり、折り合いがつきにくい領土問題などはいったん棚上げにして、ある程度までウクライナに有利な条件で停戦する(ただし和平協定の締結は展望できず)。

3)リスクシナリオA 戦況が一段と不利になったロシアが戦術核兵器をウクライナで使用して局面打開を図る。西側で核を保有する3カ国のうち、フランスのマクロン大統領は核兵器によるロシアへの反撃を否定する発言を行ったが、米英の対応は未知数。NATOや欧州連合(EU)の高官から関連する発言がいくつか出てきている。仮に第3次世界大戦がぼっ発し、それが核戦争にまで至る場合、世界経済は極度に悪化し、金融市場は機能停止に陥るとみられる。

4)リスクシナリオB 軍によるクーデターなど何らかの理由からプーチン政権が崩壊し、ロシアのハト派的な新政権とウクライナとの間で停戦協議が妥結。和平協定成立の展望も開ける。

5)リスクシナリオC 軍によるクーデターなど何らかの理由からプーチン政権が崩壊した後、ウクライナ問題でより強硬姿勢をとる政権が誕生し、戦術核兵器をウクライナで使用して局面打開を図る(それ以降に想定される展開はリスクシナリオAと同じ)。

<相互確証破壊は有効か>

米ソ冷戦時代に言われた概念に「相互確証破壊(MAD)」がある。学生時代に国際関係論などの講義の中で出てきたことを思い出す人もいるだろう。わかりやすく言えば、一方の陣営が核兵器で攻撃すると、もう一方が破壊を免れた核兵器で確実に反撃してくることがお互いわかっている。だから、抑止効果が働いて核戦争は起こらないというロジックである。

今回の局面で先行きのシナリオライティングを難しくしているのは、ウクライナはNATOの加盟国ではない(NATOの集団安全保障の対象外)ことである。ロシアがウクライナで核兵器を用いる場合でも、それはNATOの域外で起こった出来事であり、原則的には核兵器でNATOがロシアに反撃する必要はない。核兵器にせよ通常兵器にせよ、NATOがロシアを攻撃すれば、それは第3次世界大戦を引き起こすことを意味する。

その一方で、専制主義陣営に属するロシアの武力攻撃という暴虐から民主主義の国であるウクライナを守るという意味で、米欧などによる武器を含むウクライナ支援は、政治的にきわめて重要でシンボリックな意味合いを有している。したがって、ウクライナが核攻撃を受ける場合にそれを座視することは、基本的に許されないと言える。

そうした難しい事情があることから、NATO高官の発言は一定のあいまいさを帯びたものになっている。

匿名のNATO高官は10月12日、ロシアが核兵器を使用すれば「ほぼ確実に多くの同盟国のほか、潜在的にはNATO自体の物理的な対応が引き起こされる」と警告。ロシアは「過去に例のない結果」に直面するとした。

ストルテンベルグNATO事務総長は翌13日の記者会見で「プーチン氏の核のレトリックは危険で無謀だ。ロシアがウクライナに対して何らかの核兵器を使用すれば、深刻な結果を招く」「こうした事態に対するNATOの具体的な対応については述べないが、極めて重要な一線を越えたことになり、紛争の本質が根本的に変わる」「使用されるのが小規模な核兵器だったとしても、ウクライナ戦争の本質を変える極めて重大な動きになる」といったせりふで、ロシアに対し強く警告した。

ただし、NATOの核抑止力の基本的な目的は平和を維持し、同盟国に対する強制を防ぐことだと指摘した同氏は、NATOが核兵器を使用せざるを得なくなるような状況は「極めてまれ」だとの見方も示した。

よほどのことがない限り、NATOとしては核兵器を使いたくないという姿勢がにじみ出ている。ロシアに対抗して核兵器使用に踏み切ってしまうと、へたをすれば世界の多くの地域の破滅につながりかねないからだろう。

この間、EUのボレル外交安全保障上級代表(外相)は13日、ロシアがウクライナに核兵器を使用すれば、核兵器による対応ではない(通常兵器による対応を指すとみられる)ものの、ロシア軍を壊滅させるような軍事面での強力な対応を米欧はとることになるだろうと述べて、ロシアをけん制した。

「NATOは核兵器による反撃を行わない」とプーチン大統領が確信すれば、戦況が極めて不利な局面でロシアがウクライナに戦術核兵器を使用する誘因は大きくなる。

しかし、仮に使用してしまうと、おそらく通常兵器でNATOがロシアに大規模な攻撃を行うため、第3次世界大戦になる。

NATOから大規模な攻撃を受けたロシアは窮地に追い込まれ、プーチン大統領は核兵器によるNATOへの反撃をおそらく実行に移すだろう。

すると、結局は地球規模の核戦争になってしまい、われわれは為替などマーケットの動向を予想しているどころではなくなる。まず、自分が生き残ることが最優先課題になるからである。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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