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2023年の展望:日米金融政策「ベクトル逆転」が呼ぶ円高、110円も=上野泰也氏

[東京 3日] - 2022年の金融市場を最も大きく揺さぶったのは、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする米欧の中央銀行の金融政策だった。

2022年の金融市場を最も大きく揺さぶったのは、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする米欧の中央銀行の金融政策だった。上野泰也氏のコラム。(2023年 ロイター/Shohei Miyano)

供給ショックによる物価上昇率加速は一時的だという当初の認識の誤りに気付いたFRBは、ハト派からタカ派へとスタンスを大きく転換。利上げのスタートで完全に出遅れたことが負い目になる中、通常の0.25%ポイントよりも大きな幅で、利上げを積み重ねた。

もっとも、22年の終盤になると、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅が0.5%ポイントにとどまるなど、利上げの「ペースダウン」が世界のあちこちで見られるようになった。

「ペースダウン」の次に来るのは、普通に考えれば、利上げの「停止」である。

利上げが今回の局面におけるターミナルレート(最終到達点)に達して「停止」した後は、金融引き締め効果の実体経済への浸透度合い、具体的には、賃金・物価の伸び率がどこまで鈍化するか、並行して景気(特に失業率)がどこまで悪化するかを最新のデータで確認していく「様子見」のステージになる。台形になぞらえれば、上底にあたる時間帯である。

何人ものFOMC出席者は、少なくとも23年中には利下げをするつもりはないというメッセージを発信している。石油危機当時の経験を念頭に、時期尚早の利下げ転換は歴史の教訓を顧みない大きな誤りになり得ると、パウエルFRB議長らは考えているようである。

とは言え、利下げへの転換が遅過ぎることも、景気の落ち込みを深くすることを通じて、FRBの大きな失敗につながり得る。2022年12月の利上げ幅縮小の前触れ的に11月のFOMC声明文に明記された通り、金融政策を運営するにあたっては、利上げの「累積効果」と「ラグ(時間差)」を見逃すことができない。

これまで速いペースで重ねてきた利上げの効果が景気・物価に及ぶのは、これからである。伝統的に言われてきた12─18カ月よりも現在はラグがやや短いとしても、ラグ自体が消えてなくなるわけではない。

自動車の運転に例えて言うと、ヘッドライトはつけているものの前方の視界不良のまま、暗闇の道路上に何がありそうなのかを経済指標など過去のデータやモデル式、アネクドートなどから推測して見通しを立てた上で、それに沿って前方に走行するわけである。

<最後の利上げから最初の利下げ、過去は8カ月半>

11月までは通常の3倍や2倍のスピードで走ってきてきたわけだが、12月には(おそらく23年2月にもさらに)減速して、行く先に現れる落とし穴にはまることのないよう注意深く、FRBは前進するわけである。世界の他の多くの中央銀行も、そうした行動パターンをとりつつある。

米国の場合、過去4回の局面における「最後の利上げ」から「最初の利下げ」までのインターバルは、平均して8カ月半である。このパターンを単純にあてはめるなら、23年2月の利上げが最後とみる場合、最初の利下げは同年11月のFOMCで起こり得る。利上げがあと1回多くなって23年3月の利上げが最後なら、同年12月のFOMCで最初の利下げとなる。近い将来の利上げの停止を前提に、23年秋から年末の利下げを金融市場が織り込むことに、違和感はない。

もっとも、FRBとしては、金融市場がそうした利下げの織り込みをすることに対しては、いら立ちを覚えざるを得ないだろう。なぜなら、早期の利下げ転換を織り込んで長期金利が低下したり、株価が上昇したりすれば、金融環境が緩んでしまい、FRBがもくろんでいる金融引き締め効果の経済への十分な浸透が行われなくなってしまうからである。

そこで、FRBサイドから金融市場に対しては、タカ派的なトークが頻繁に発せられることになる。22年夏以降のそうしたメッセージ発信はおそらく、23年前半も続けられることだろう。

<上がる米実質金利>

ところが、そのFRBとしても、物価上昇率や期待インフレ率が順調に低下する、そのことによって実質金利が上昇してくると、タカ派トークを前面に出すのが難しくなる。

なぜなら、理論的には実質金利上昇によって、金融引き締め効果が増大するからである。すでに述べた通り、利上げの「累積効果」と「ラグ」を十分認識しながら走行を続けているFRBとしては、インフレ面の変動を受けて速度が自然に上昇する場合には、一国の経済を預かるドライバーとして、速度を落とす方向で調整を加える必要が生じる。

モノの価格を押し上げてきたエネルギーや穀物など国際商品の市況は、上昇局面が終了し、下落局面に転じている。一時330ポイントに迫っていたロイター/ジェフリーズCRB指数は、足元で280ポイントを下回っている。

また、賃貸住宅の需給がひっ迫する中、サービス分野におけるインフレの主役になってきた家賃は、米クリーブランド連銀が12月に公表を開始した新しい家賃指数の動きから考えて、公式の消費者物価統計上では23年4-6月期に上昇率がピークになり、翌7-9月期から前年同月比プラス幅を顕著に縮小する公算が大きい。

家賃を除いたサービスの価格は、人件費の動向に左右される度合いが大きいわけだが、景気がさらに減速してくれば労働需給のひっ迫度合いが緩和して、賃金上昇率は鈍化するだろう。

コロナ禍をきっかけにしたシニア層の早期退職志向は大きくは変わらないだろうが、仮に海外からの移民流入の間口が広がるようなら、対面型サービス業における雇用需給のひっ迫は解消されやすくなる。

<円高のかぎ握る日銀ピボットの行方>

ドル/円相場は2022年に、一時151.94円まで円安ドル高・円安に動いた。そうした動きは、FRBと日銀の金融政策の「ベクトルの違い」に着目して、いわば「一点集中型」的に相場変動が加速する中で実現した、確たる足場を伴っていない水準と言えるだろう。

さまざまな変数をもとにシンクタンクが重回帰して算出した水準や、物価上昇率格差をもとに試算した購買力平価からは、あまりにもかけ離れた水準である。一時130円台までドル/円がドル安・円高方向へ急速に揺り戻したことに、違和感はない。

2023年のドル/円相場を考える上での最大の焦点は、日米中央銀行の金融政策のベクトルの変化を為替市場のプレーヤーがどのように予想して、売買を進めるかである。

2022年後半には「Fedピボット」という言葉が、金融市場のテーマを示すものとして、しばしば聞かれた。米国でFedと呼ばれているFRBが、いつ利上げから利下げへと方向転換(ピボット)するのかを推し量った上で米国の長期債や株式を買う動きが、2度にわたって盛り上がった。

その後、12月には「BOJピボット」という言葉が登場した。BOJ(日銀)が異次元緩和一辺倒から金融政策の正常化、すなわち金融引き締め方向へと方向転換するとみて売買を行う必要が出てきたという含意である。

最終的には経済情勢や日本政府(当面は岸田文雄内閣)の意向次第なのだが、FRBが2023年に利下げに転じる一方で、総裁・副総裁交代後の新体制の日銀が金融政策の正常化を志向するのではないかと市場参加者が警戒して、売買を行う場面が生じ得る。

その場合、日米中銀の金融政策の「ベクトルの違い」は、2022年に急激なドル高・円安の原動力になった時期のそれからは、真逆になる。市場ではすでに、120─125円へのドル安・円高進行を、2023年について予想する向きが増えている。展開次第では110円程度までのさらなる円高進行もあり得ると、筆者は予想している。

編集:田巻一彦

*12月27日までの情報に基づいています。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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