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コラム:米欧信用不安で連動する米2年債とドル/円、夏場125円が視野に=上野泰也氏

[東京 30日] - 米中堅銀行の経営破綻が明らかになった時点では、金融面の不安心理増大が米国内だけにとどまる問題ではないかとみられていた。

 米中堅銀行の経営破綻が明らかになった時点では、金融面の不安心理増大が米国内だけにとどまる問題ではないかとみられていた。だが、そうはならなかった。上野泰也氏のコラム。写真はドルと円のイメージ。2011年8月、都内で撮影(2023年 ロイター/Yuriko Nakao)

だが、そうはならなかった。米住宅バブル崩壊後の前回金融危機における証券化商品のような触媒が今回は見当たらないにもかかわらず、大西洋を越えて不安心理は飛び火し、スイス大手銀の救済買収劇や欧州銀行株の下落につながった。

銀行預金の取り付け騒ぎ(bank run)には、いつどこで始まるかがわからない怖さがある。しかも、誰もがSNSへの投稿を通じて情報発信者になり得る時代が到来している。フェイクを含めて情報が伝播するスピードは、1990年代の比ではない。

<信用不安と中銀スタンス、強まる不透明感>

ミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁が3月26日に述べた通り、今回の信用不安が沈静化するまでには「いくらか時間がかかる」とみられる。

米連邦準備理事会(FRB)は0.25%ポイント、欧州中央銀行(ECB)は0.5%ポイント、それぞれ3月に追加利上げを行った。いずれも2月と同じ引き上げ幅であり、金融不安という大きなリスク要因の浮上は、米欧の利上げ路線に影響を及ぼさなかったと誤解する向きがあるかもしれない。

しかし、実際は3月の追加利上げが決まるまでには、緊張感を帯びた議論があったようである。

ロイターの報道によると、3月16日のECB理事会では主に0.5%ポイント利上げ続行と金利据え置き(利上げ見送り)の選択肢が協議の対象になり、市場の一部にあった0.25%ポイントに幅を縮小しての利上げは議論されなかった。「全か無か」の二者択一になる中、経営不安に陥ったスイス大手銀行が同国の中央銀行から大規模な流動性支援を取り付けて金融市場の混乱がいったん沈静化したことが決め手になり、利上げが決まったという。

ただし、ECBとしては、これで安心するわけにはいかない。記者会見したラガルド総裁は「金融安定を巡る緊張が需要に影響し、そうでなければ金融政策で対応していた課題の一部を実際に片づけてしまう可能性はある」と述べつつ、5月4日の次回理事会で政策金利をどうするのかについて、事前のコミットメントを一切行わなかった。信用面の状況推移をにらみつつ、フリーハンドでECBが対処できる余地を、しっかり確保したと言える。

また、3月22日に結果が公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)は、声明文の第2段落で「米国の金融システムは健全で強じんだ」と断りつつも「最近の展開は家計・企業の信用状況のタイト化につながり、経済活動・雇用・物価を圧迫する可能性が高い」「こうした影響の程度は不確実だ」と明記した。

記者会見したパウエルFRB議長は、今回の信用不安問題が「長引けば長引くほど、与信環境の引き締まりなどが進む可能性がある」と、警戒感を表明。「会合前の数日間に利上げ停止の可能性も議論した上で、今回の決定に至った」「この金融市場のひっ迫は、利上げと同じ効果、あるいはそれ以上の効果があることは確かだ」と述べた。基本的な考え方はラガルドECB総裁と同じである。

次回のFOMCは5月2─3日に開催される。3月のFOMCは声明文の第3段落で「時間をかけてインフレ率を2%に戻すべく、十分に制約的な金融政策スタンスを維持するため」に続く文章を、昨年12月の「(フェデラルファンドレート)目標レンジの進行中の引き上げが適切だろうとFOMCはみている」から、「いくらかの追加的な政策引き締めが適切かもしれないとFOMCはみている」に差し替えて、トーンダウンした。

FOMC参加者による最新の金利見通し「ドットチャート」と考え合わせると、5月以降の追加の利上げは、0.25%ポイント幅であと1回以内であり、利上げは3月で打ち止めになった可能性もあると解される。

ユーロ圏についても米国についても、5月の次回会合で追加利上げはあるのか、利上げの終着点(ターミナルレート)は何%なのか、利下げに転じるのはいつなのかは判然としない。このため、債券市場も為替市場も気迷い状態に陥り、相場の振れが大きくなっている。

<米2年債利回り低下の意味>

米債券市場では2年債利回りが、シリコンバレーの中堅銀行の経営不安が浮上するより前の3月8日時点で、一時5.08%まで上昇していた。

ところが、信用不安で「リスクオフ」ムードが強まると、年内の利下げ複数回を織り込む形で利回りは急低下。24日には一時3.55%まで低下した。3月中のピークとボトムの差は150ベーシスポイントを超えた。

現在、4.75─5.0%になっているフェデラルファンド(FF)レート誘導水準と対比すると、市場の金利観が激しく上下動したことがよくわかる。

そうした長期金利の振れに概ね連動して、3月のドル/円相場もまた、不安定な足取りになった。米利上げ再加速観測を背景に、8日には一時137.90円をつける場面があり、市場の一部では140円説が聞かれた。

だが、信用不安問題が急浮上すると相場はドル安・円高方向へ急速に反転。24日には一時129.65円で取引された。米2年債利回りと連動した推移である。

では、米2年債利回りは今後どのように動き、ドル/円はどのように追随するのか。経済を人体に例えると「循環器系」に相当する金融システムが、米国や欧州でこの先どのようなコンディションになり、それが実体経済に対してどこまで影響するとFRBやECBが判断するのかがカギを握っており、現時点では確定的なことは言えない。

2007─08年を中心とする前回金融危機の教訓をもとに規制監督体制を採り、各国の当局が金融システムの安定維持を図ってきていることからすれば、景気の腰折れを招くほどの急激な状況悪化までは想定しにくい。

その一方で、FRBやECBの政策によって、金利と量の両面から実体経済・金融システムにかかる負荷が急速に増してきた中で、きしみ(あるいは亀裂)が生じており、仮に利上げを続行するのであれば金融面のリスクがそれだけ増すことも否めない事実だろう。

いずれにせよ、米欧の利上げ局面は終盤だと判断される。すでに述べた通り、FRBの場合は結果的に3月で打ち止めになった可能性もある。

FRBのタカ派姿勢とドル金利上昇を最大の原動力にしてきた昨年10月までのドル高・円安局面は、大きな流れとしてすでに反転しており、断続的にドルが買い戻されても上値は重いだろう。夏場までの125円到達は十分視野に入っていると、筆者はみている。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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