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コラム:米金利のツイストフラット、ドル高ポジションに暗い影=上野泰也氏

[東京 29日] - ドル/円相場は6月24日の東京市場で一時111.11円までドル高・円安に動いた。16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に明らかになった米連邦準備理事会(FRB)理事および地区連銀総裁による最新の政策金利見通し(いわゆる「ドットチャート」)で、23年末までに利上げが開始されると見込む人が過半数になり、地区連銀総裁の一部からは22年終盤の利上げを想定する声も出てきた。こうした一連の出来事によってドル金利の先高観が強まり、ドル高の原動力となったのである。

 日米金利差の観点からは、日本の国債利回りがあまり動かない中で、米国の2年国債利回りが一時0.28%まで上昇し、5年国債年債利回りが再び1%ラインに近づくなど、政策金利の先行き見通しを敏感に反映する中期ゾーンで米国債が売られ、結果として日米金利差が拡大したことが、為替市場を動かした。写真はソウルで2011年9月撮影(2021年 ロイター/Lee Jae-Won)

日米金利差の観点からは、日本の国債利回りがあまり動かない中で、米国の2年国債利回りが一時0.28%まで上昇し、5年国債年債利回りが再び1%ラインに近づくなど、政策金利の先行き見通しを敏感に反映する中期ゾーンで米国債が売られ、結果として日米金利差が拡大したことが、為替市場を動かしたと言える。

<ツイストフラットの発生>

けれども、ここで1つ見逃し得ないのは、米国債のイールドカーブ(利回り曲線)の形状が、上記の局面でフラット化(平たん化)した点である。債券市場だけでなく為替市場の関係者も、この事実が持っている意味合いを十分に理解して咀嚼(そしゃく)する必要があろう。

具体的には、ブラード・セントルイス連銀総裁が22年終盤にも利上げ開始があり得るとインタビューで述べた6月18日、米5年国債利回りが一時0.96%まで上昇する一方、米30年国債利回りが2月以来の水準である2%ちょうどまで一時低下し、米10年国債利回りが1.44%まで低下する場面があった。さらに週明け21日には、米30年国債が1.93%、米10年国債が1.35%まで、一時買い進まれた。

中期ゾーンの金利が上昇しつつ、長期・超長期ゾーンの金利が低下することにより、イールドカーブがフラット化する変化を「ツイストフラット」という。ツイストというのは英語で「ひねる」という意味であり、ダンスの種類にもある。これは政策当局者にとって、必ずしも良い兆候ではない。

すでに触れた通り、中期ゾーンの金利はこの先数年間の政策金利見通しをビビッドに反映して動く傾向がある。利上げ開始時期の見通しが前倒しになれば、さらには利上げが重ねられるペースが従来の想定よりも速くなると予想され、イールドカーブのうち「ベリー(お腹)」と呼ばれる中期ゾーンの金利水準は持ち上がりやすくなる。

その一方で、そうした利上げによって先行きの景気が減速する、さらにはそれと同時に先行き予想されるインフレ率が従来の想定よりも低くなると市場が判断すれば、長期・超長期ゾーンの金利は低下する。

FOMCがタカ派に傾斜して市場を驚かせた後に起こった米国債イールドカーブの「ツイストフラット」化は、上記のような債券市場参加者の思考を反映した結果である。

<今から見える米利上げの終着点>

さらに言うと、利上げ観測を伴いながらのイールドカーブのフラット化は、景気の先行きにわずかなりともダウンサイドリスクが出てきたことを示唆すると言える。

米調査機関・コンファレンスボードが毎月発表している米国の景気先行指数(LEI)は、米10年国債利回りからフェデラルファンド(FF)レートを差し引いた数値である長短金利差を1つの要素としている。イールドカーブがスティープ化(急傾斜化)すれば景気の先行きにポジティブな度合いが増し、フラット化すればそうした度合いが減り、数字がマイナスになればネガティブという算定がなされている。

この長短金利差は、4月時点で1.57%だった。足元では、実効FFレートが0.10%、米10年国債利回りが1.5%前後であり、4月よりも縮小している。

まだ、1%以上あるから十分ではないかという声も出てきそうだが、実はそうでもない。0.25%ポイントずつ4回利上げすれば、その時に景気・物価の腰折れ的なリセッション(景気後退局面)入りを米債券市場がイメージすると、長短金利水準は容易に逆転し得ると筆者はみている。「逆イールド」の出現は、債券市場によるリセッション警告のシグナルである。

まだ、1回もFRBが利上げをしていない段階で上記のような思考展開を行うのは早過ぎるのではないかという見方もあろうが、いずれにせよ、利上げ前倒し観測に対する米債券市場のリアクションは、FRBにとって必ずしも芳しいものではなく、彼らが中立水準とみている2.5%に届かないうちに米国の次の利上げ局面は「ターミナルレート」(終着点の金利水準)に行き着いてしまうだろうと、筆者はみている。

ここで、釈然としない思いを抱く人も少なくないだろう。そうした「ひねり」が効いた米国債の値動きの中から、なぜ、為替市場は「ドットチャート」および中期ゾーンの米国債動向だけを材料にしてドル買いに動いたのだろうか。

日本から米国へのマネーフローを考える場合、中期ゾーンの米国債だけが買われていくという展開は考えにくい。しかも、このゾーンの米国債価格は足元で軟調、すなわち売りが持ち込まれやすい地合いになっており、積極的に手を出しにくい面がある。

むしろ、日欧との比較で金利水準の相対的な高さが目立つ米10年国債や米30年国債の方に買いが引き続き集まりやすいとみておくのが順当だろう。

そのように考えると、FOMC後に盛り上がった米国の早期利上げ説を材料にしながらドルをさまざまな通貨に対して買い進める動きは、持続性が伴いにくいという理解になる。

<22年に米財政の崖>

また、22年の終盤にも利上げという想定を口にする地区連銀総裁は、財政政策面からの景気への影響が、22年から「大盤振る舞い」の反動でネガティブになるという「財政の崖」の問題を見落としているのではないか。

そうした時期に利上げも重ねるというポリシーミックスは、よほど景気の腰が強い上に、FRBが掲げるインフレ目標である2%の超過達成が十二分に見通せる状況にならなければ、正当化されないだろう。

さらに言えば、ワクチン接種で先行したものの足元で事態が悪化している英国やイスラエルなどの後を追う形で、デルタ型(インド型)の変異ウイルスが米国でも近い将来に猛威を振るい始める可能性が高いと、筆者は予想している。

実際にそうなれば、強気に傾き過ぎた米国の景気・物価見通しは下方修正を余儀なくされ、利上げ時期を大きく前倒しした想定はもはや維持できなくなり、ドルは売り戻される可能性が高い。

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

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