November 12, 2015 / 4:12 AM / 4 years ago

コラム:ドル125円は「売り」か=上野泰也氏

[東京 12日] - 筆者が予想した通り、9月と10月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げを見送った。10月米雇用統計が強い内容になったことなどから考えて、年内最後となる12月のFOMCでの利上げが、現時点では「当確」と言ってもよさそうな状況である。

特に意味合いが大きかったのは、10月の時間当たり賃金(民間部門)が9セント増えて25.20ドル(前月比プラス0.4%)になったことだ。前年同月比はプラス2.5%に加速し、2009年9月から15年9月まで6年以上にわたって形成してきた同プラス1.7―2.3%のレンジを上抜けた。

グローバル化やIT化といった構造要因から下押しされているため、以前のように前年同月比プラス3%台以上での推移を続けることは今後も考えにくいものの、賃金面から将来のインフレ率加速が期待できそうだというエビデンス(利上げを実施する根拠)を1つ、FOMCが手にした形になった。

だが、今回の局面では米利上げは1年間で2回程度までの非常にスローなペースにとどまる可能性が高い。しかも、米国の内外で経済・マーケット情勢が急変するようだと、利上げ路線は「一時停止」ボタンが押されるだろう(そのまま利上げ局面が終わってしまうことも考えられる)。したがって、米国の利上げ着手という材料を足場にして為替相場が円安ドル高に動く余地は自ずと限られる。

<次回の追加緩和で円安加速は期待薄>

ドル円の足元の位置どころについてどう認識すべきか。筆者の見解をこの機会に整理しておくと、以下の通りである。

まず、米住宅バブル崩壊後の「リスクオフ」の円高局面と、その後の「リスクオン」の円安局面というワンサイクルは、すでに終了した。すなわち、1ドル=124.14円(2007年6月22日)に始まり、75.32円(11年10月31日)と76.03円(12年2月1日)という2つの円高ピーク(ドル円の大底)を経て、02年6月以来13年ぶりの円安水準である125.86円(15年6月5日)に至る一連の流れだ。円安ドル高が進む大きな流れは基本的にはすでに終わっており、現在はトレンドレス(あるいは次の方向感を探る時間帯)となっている。

次のポイントとしては、すでに述べたように、米国の利上げ回数は限られる可能性が高く、ドルの上値は重いということだ。ドル高の悪影響などから米国の景気・企業収益の「足場が弱い」上に、世界経済の構造変化や国際商品市況の下落ゆえに、差し迫ったインフレ懸念は皆無とも言える状況である。

米国経済にとってドル高の行き過ぎは明らかにネガティブであり、当局者はそのことを十分認識している。むしろ、無理な利上げ継続とドル高の行き過ぎによって米国の景気・物価が押し下げられて、利上げを続ける根拠がなくなる、さらには利下げ観測や量的緩和第4弾(QE4)観測が浮上するといった、米国経済「自滅シナリオ」が警戒される状況である。

したがって、足元において2―3円幅で進行した円安ドル高はトレンドを形成するには至らず、短命に終わるだろうというのが、筆者の見方である。

一方、日本側でも、円安の行き過ぎによる家計や中小企業・地方企業への悪影響が、安倍政権の認識するところとなっている。2016年7月に重要な選挙である参院選が控える(衆院選とのダブル選の可能性も意識される)中で、仮に円安ドル高が125円を再度超えそうになれば、政府の要人などから「口先介入」的な円安けん制発言が出てきて、円安には歯止めがかかると見込まれる。あるいは、そうした発言が出てくることを強く警戒して市場が125円トライを自重することも十分考えられる。

また、日銀は10月30日の金融政策決定会合で、景気・物価のシナリオを下方修正した上で、そこからさらに下振れるリスクを展望レポートで明確に認めつつも、これとセットで金融政策に「必要な調整」を加える(追加緩和に動く)ことはしなかった。

日銀が掲げてきた2%の「物価安定の目標」の早期達成というコミットメントはもはや形骸化したのではないかという強い疑義が生じたわけだ。だが、筆者を含め、日銀はいずれ追加緩和に追い込まれるだろうとの見方をする市場関係者は少なくない。このため、ドル円は現在も、タイミングは不明確だが日銀が追加緩和に将来動く可能性を、ある程度織り込みながら推移している。

したがって、今後実際に追加緩和があった場合でも、市場に対しては2014年10月の追加緩和時のような大きなサプライズにはならないと見込まれる。

<中国要因による円安ドル高余地も限定的>

では、米国以外の海外要因で円安が加速することはないのか。振り返れば、8月11日からの中国人民元切り下げに際し、自由に売買できない人民元の代わりとして、あるいはアジア通貨全般を売る動きの一環として円を売る動きが強まり、ドル円が125円台を回復する場面があった。

だが、人民元切り下げが世界の市場に引き起こした波紋のあまりの大きさゆえに、中国当局は(おそらく当初の計画を変更して)人民元の下落にストップをかけた。その後、習近平国家主席を含む中国の当局者は、人民元大幅切り下げ説を強く否定し、元相場は安定を維持するとコミットしている。つまり、このルートを再び経由しての円安ドル高の余地模索は考えにくい。

念のために言い添えれば、先ほどトレンドレス化と述べた通り、筆者は円高ドル安に一気に反転すると見ているわけではない。確かに、為替相場の長期的な均衡水準を表す目安の1つとされる、企業物価(生産者物価)ベースの購買力平価で見れば、円安ドル高方向のかい離幅は足元で過去最大に近い水準になっている。このことからすれば、ドル円は今後、円高ドル安の方向にいつ動いてもおかしくない。

しかし一方で、日本の貿易統計が輸出数量の構造的な伸び悩みを背景に赤字基調からいまだに抜け出せていないこと、円高ドル安がある程度進んだ場面では年金マネーなどによるとみられる円売りドル買いが強まりやすいことなど、円高シナリオにブレーキをかける要因も複数意識される。また、すでに述べた日銀の追加緩和観測も、円高ドル安が進む場面では、そうした見方が強まることを通じてブレーキ役になるとみられる。

以上のような思考展開を経た上で、筆者は機関投資家の方々に対し、ドル円が125円に近づく場面があれば利益確定の円買いドル売りに動く良い機会になるのではないかと、引き続きアドバイスしている。

*上野泰也氏は、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト。会計検査院を経て、1988年富士銀行に入行。為替ディーラーとして勤務した後、為替、資金、債券各セクションにてマーケットエコノミストを歴任。2000年から現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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