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コラム:骨太方針に映る現役世代負担増の近未来=永井靖敏氏
2017年6月12日 / 09:34 / 5ヶ月後

コラム:骨太方針に映る現役世代負担増の近未来=永井靖敏氏

[東京 12日] - 毎年恒例の「骨太の方針」と「成長戦略」が9日、閣議決定された。経済財政運営の基本方針である骨太方針は経済財政諮問会議が、成長戦略は日本経済再生本部の下に設置された未来投資会議がそれぞれ議論し策定した。

これまで成長戦略の立案は産業競争力会議が担ってきたが、未来投資会議はそれを引き継ぐ形で発足。成長戦略の正式名称も今回、日本再興戦略から未来投資戦略に変更された。

骨太方針や成長戦略のキャッチフレーズは年を追うごとに過激化している。2013年は脱デフレ・経済再生、2014年は好循環拡大、2015年は生産性革命、2016年は第4次産業革命を用いた。今年は、「Society 5.0の実現」。人類がこれまで歩んできた「狩猟」「農耕」「工業」「情報」に次ぐ第5の新たな社会を、日本が世界に先駆けて実現するのだという。

あまりにも雄大な目標であり、来年はキャッチフレーズの選定に苦労するのでは、という余計な心配を筆者はしている。

<消費増税再延期への布石か>

市場の関心は、キャッチフレーズではなく、財政健全化目標の行方だろう。2020年度までに基礎的財政収支を黒字化するという目標実現に向けた、政府の姿勢に変化があるかどうかに集中しているようだ。

黒字化目標の達成は、2019年10月に予定されている消費税増税を実施しても、極めて困難な状況にある。2018年度から2020年度にかけての実質成長率が2%前後になるという、楽観的な景気見通しを前提に置いても、2020年度の基礎的財政収支は8.3兆円の赤字になる(内閣府による試算)。黒字化目標は実現性が乏しいことから、やがて修正されるとの見方が市場のコンセンサスになっている。

こうした中、今回の骨太方針では、黒字化目標に加え、「債務残高対GDP(国内総生産)比の安定的な引き下げを目指す」との一文が追加されたことが話題を呼んでいる。黒字化目標自体は前回のまま踏襲したことから、麻生太郎副総理・財務相は、財政再建を目指す姿勢に変化はないとしている。だが、目標を達成できない場合は、目標修正の地ならしのための一文だったと評価されることになるだろう。

今回、こうした地ならしになり得る表現を加えたのは、2019年に予定される消費税増税を再延期する布石かもしれない、と筆者はみている。安倍政権は、2015年10月に予定した消費税増税を2017年4月に延期し、その後2019年10月に再延期した。いずれも経済状況が理由だが、2019年は、オリンピック関連の公共投資が一巡することで、景気は減速局面に入る可能性がある。

安倍政権のシナリオ通り、生産性革命が起こり、経済成長率が飛躍的に加速しない限り、再延期は避けられそうにない雰囲気になっている。

<政府が前提崩せば日銀の信認低下に直結>

追加された表現の解釈は人によって分かれるが、財政健全化に向けて努力する姿勢を維持した点は評価できる。一部で、景気浮揚のためには(あるいは「物価安定の目標」を達成するためには)、一時的に財政健全化目標を放棄し、積極的な財政政策を打ち出すべきと主張する向きもあった。

だが、政府が財政健全化に消極的な姿勢を示せば、財政運営の持続性に疑念が高まり、日銀の政策運営にも少なからぬ影響が出る恐れがある。2013年1月に発表した共同声明で、政府と日銀は、デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のため、政府は「持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」と明記した。すなわち、日銀が金融緩和策の一環で行っている国債大量買い入れは、政府の財政健全化努力を前提にしており、政府がその前提を崩すと、日銀は梯子(はしご)を外された形になる。

日銀が大量に国債を保有していることは、財政不安が日銀の信認低下に結びつくことを意味する。信認が低下した場合の政策運営効果については見方が分かれるが、長期金利の水準を制御できなくなる可能性もあり得るだろう。

<現役世代にのしかかる「こども保険」>

政府は今回、財政健全化目標は維持したが、具体策という点では課題が残る。特に社会保障制度問題は避けて通れない話で、5月18日の経済産業省産業構造審議会総会で配布された資料が示すように、制度のあり方を根本から議論し直す必要があると筆者は考えている。

ただ、骨太方針の最終案では、素案段階で示された薬価引き下げの表現が削除された。社会保障費削減の第1歩と言われる薬価引き下げでつまずいたことから、社会保障制度改革の難しさが読み取れる。

今回の骨太方針では、幼児教育・保育の早期無償化が盛り込まれた点も注目される。内閣府の試算によると、無償化には1.2兆円の公費が必要で、骨太方針には、財源として「財政の効率化、税、新たな社会保険方式の活用」などを検討すると記載された。

新たな社会保険は、自民党の小泉進次郎衆議院議員らが提案した「こども保険」のことで、具体的な方針は年末までに決めると報じられている。「財政の効率化、税」は現実味に欠けるため、「こども保険」が導入される可能性が高そうだ。

幼児教育・保育の早期無償化については、所得再配分機能があることなどから、望ましい政策だと筆者はみている。教育投資の拡充は、機会の平等に資すると当時に、長期的に日本の潜在成長率押し上げにつながる。

だが、日本の税・社会保障制度は、現役世代よりも引退世代に有利に働くという資金配分上の問題を抱えている。そして「こども保険」は、資金配分上の問題を一段と深刻化させる可能性が高い。政治的に消費税増税が困難な中、現役世代の負担を増やす政策が今後も続きそうだ。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:山口香子、麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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