January 23, 2018 / 5:14 AM / a year ago

コラム:日銀が主役に戻る日、鍵握る春闘と米インフレ=永井靖敏氏

[東京 23日] - 2018年の初回となる日銀金融政策決定会合(1月22―23日)を無難に終えたことで、市場の関心が、金融政策から離れている姿が一段と鮮明になった。

2017年の金融政策を改めて振り返ると、無風の年だったといえる。2016年に、マイナス金利の導入、「総括的な検証」の実施、イールドカーブ・コントロールの採用など多くのテーマを提供したのと対照的だ。

2017年11月の黒田東彦日銀総裁の「リバーサル・レート」発言や、今月9日の日銀のオペ減額にエコノミストや市場の注目が集まったのも、話題不足が原因だとみるべきかもしれない。

<日銀総裁人事前に動きなし>

今回の会合も、現状維持が市場のコンセンサスとなっていた。2%の「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持されていると主張する中、追加緩和を行う理由はない。

展望レポートで、予想物価上昇率に関する表現を「弱含みの局面が続いている」から「横ばい圏内で推移している」に上方修正したことから、目標達成に向けた自信が高まりつつある様子もうかがえる。審議委員の交代に伴い、現行の政策運営に対する日銀内部の反対理由が、緩和縮小から緩和拡大に変化したが、日銀の現体制はすでに十分な政策対応を行ったとした判断を維持している。

日銀が正副総裁人事を控えていることも、動けない要因になっているようだ。追加緩和を実施すると、これまでの政策運営の失敗を認めることになる。逆に、緩和解除の方向線上にある政策を早まって実施すると、解除の意図がなくても、相場の波乱を招くことが9日のオペで実証された。

日銀としては、今後も、現行の政策運営を継続できる体制を維持したいはずだ。そのためには、政府との協力関係をアピールしつつ、これまでの政策運営の無謬(むびゅう)性を強調し、相場の波乱を極力避けることに注力する必要がある。

市場が「日銀は動かない」と確信していることが、日本の長期金利の変動幅縮小につながっている。米長期金利上昇の影響は受けているが、日本の長期金利はイールドカーブ・コントロールの枠組みの範囲内に収まっている。

<春闘とデフレ脱却宣言が波乱要因に>

ただし、市場の確信がいつまでも続くとは限らない。筆者は、日銀は年内動かないと予想しているが、市場の確信が一時的にせよ揺らぐ可能性はあると考えている。

総裁人事以外のイベントとして注目しているのは、春闘だ。2018年の集中回答日は3月14日。安倍晋三首相が企業に対して3%の賃上げを要請する中、経団連は16日に発表した「経営労働政策特別委員会報告」で、「『3%賃上げ』の社会的期待を意識しながら、自社の収益に見合った前向きな検討が望まれる」と明記。政府の賃上げ要請を盛り込む異例の対応を示した。

振り返れば2017年は、「年収ベースの賃上げを前向きに検討」とするのにとどめ、恒久的なコスト増につながるベースアップ(ベア)には慎重な姿勢を示していた。

2%の「物価安定の目標」を達成するには、ベアは不可欠だ。政府は、4年連続でベアを実現した点を強調しているが、0.4%程度にとどまっており、まだ加速感は出ていない。加速感が出ると、やがて「物価安定の目標」は達成できるとの見方が浮上し、日銀の出口に向けた動きを市場が意識する可能性がある。

また、政府が「デフレ脱却宣言」を行うと、市場の、金融政策に対する見方が変化する可能性がある。日銀の2%の「物価安定の目標」と全く別物だが、「デフレ脱却宣言」前に、日銀が出口を探ることは政治的に困難であるため、事実上の、金融緩和解除の必要条件になっているためだ。

「デフレ脱却宣言」については、すでに地ならしが行われている。内閣府は2017年11月に、消費者物価指数、国内総生産(GDP)デフレータ、GDPギャップ、単位労働コストのデフレ脱却4要件の全ての指標がプラスになったことを踏まえ、「デフレ脱却に向けた局面変化がみられる」との認識を示した。1月18日に発表した日本経済レポート(ミニ白書)では、「長期にわたる景気回復によりデフレ脱却に向け局面変化が着実にみられている」と指摘している。

実際に「デフレ脱却宣言」を行うには、再びデフレに戻ることはないという判断が必要になる。明確な判断基準がないことから、「デフレ脱却宣言」には、政治的な裁量が入る余地がある。春闘を控えた今、政府としては、インフレ期待を引き上げることで、賃上げを後押したい状況になる。

だからといって、内閣府が「期待に働きかける」ことを目的に「デフレ脱却宣言」を行うことはないだろう。ミニ白書で、「GDPギャップの上昇から半年程度のラグを伴って消費者物価も上昇する傾向がみられる」とする一方、「デフレが長期化したことにより、賃金や価格設定の行動様式が慎重化した」ことを理由に、GDPギャップの物価押し上げ効果は限定的としているためだ。

逆に言うと、ラグを確認した後、「デフレ脱却宣言」をする可能性があり、その後は、市場の出口に関する思惑が高まりやすくなる。

<米インフレが上ぶれするリスク>

このほか、海外の動向にも注目する必要がありそうだ。筆者は、年内にも米国の低インフレの構造が崩れることで、日銀の出口に向けた議論が活発化する可能性があると考えている。

米国で、失業率の低下にもかかわらず、賃金が伸び悩んでいる状況が長期化していることについて、構造変化が生じたためだと指摘する向きがある。情報通信技術の高度化、貧富の差の拡大、貿易量の拡大など、さまざまな要因が指摘されている。世界経済の連動性が高まる中、雇用が流動化している米国でさえ賃金が伸び悩んでいることが、日本の賃金・物価上昇シナリオを描きにくくしている。

ただ、米国で失業率と賃金の関係が崩れたのは、2014年以降で、それ以前は、ラグを伴いながらも、失業率の低下が賃金上昇加速に結び付いていた。関係が崩れた理由について見方が分かれているが、ドルの上昇が主因だと筆者は考えている。

ドルの実質実効為替レートは、2014年年初から2015年秋ごろまで急速に上昇した。要素価格均衡化定理によると、ドル高は、貿易財だけでなく、賃金や地価などの生産要素価格の引き下げ要因になる。米企業の多くが世界展開する中、ドル高は海外アウトソーシングコストの低下につながるため、これまで以上に賃金上昇抑制要因になった可能性がある。

すでにドル高の動きは一巡している。筆者の見方が正しければ、今後、米国で賃金の伸びが加速し、物価が上ぶれするリスクがある。今年は、米欧に続き、日本も出口に向かうと考える市場参加者が徐々に増えるかもしれない。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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