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コラム:米物価鈍化で6月利上げ見送りは本当か=永井靖敏氏
2017年5月15日 / 07:09 / 6ヶ月後

コラム:米物価鈍化で6月利上げ見送りは本当か=永井靖敏氏

[東京 15日] - 米労働省が12日発表した4月の消費者物価指数で、食品とエネルギーを除くコア指数が低めの数値になったことを受けて、これまでの物価上昇基調が変化した可能性が浮上している。

市場では依然、「6月利上げあり」との見方が優勢だが、同時に発表された4月の米小売売上高も予想平均を下回ったこともあり、「6月利上げなし」とみる向きも出つつある。

<現時点で経済見通し修正の必要性は低い>

ただ、筆者は依然、6月13―14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、リーマン・ショック後の正常化局面では2015年12月、16年12月、17年3月に続く4度目の利上げが決定されると予想している。

3月の利上げで、連邦準備理事会(FRB)は利上げペースを、昨年の年1回から、四半期1回に速めた。これまでFOMC声明文で、「フェデラルファンド(FF)金利の実際の道筋は、今後入手するデータがもたらす経済見通し次第」と記載し続けている。状況変化に対応して、政策運営は柔軟に行う姿勢を強調しているようにもみえるが、ペースの変更は経済見通しの修正を伴うと読むこともできる。

1―3月の実質成長率は低い数値になったが、5月のFOMC声明文で、「減速は一時的である可能性が高い」と指摘している。4月の小売売上高は予想平均を下回ったが、3月分が上方修正されたことを考慮すると、弱いとはいえない。

新聞などでは、百貨店の不振が報じられているが、小売統計でネット販売を含む非店舗販売をみると、4月は前月比1.4%増、前年比12.1%増と好調を維持している。これまでFRBは、市場との対話を重視し、景気に対する見方を丁寧に説明してきた。現時点で、FRBが経済見通しを変更するほどの材料はないと筆者はみている。

確かに、金融政策が、景気に対して中立的な水準に十分近づいているのなら、経済指標を受けて、政策運営を微調整する必要がある。自然利子率(景気に対して中立的なFFレートの水準)をリアルタイムで計測することが難しいため、データをにらみながら、ファインチューニングすべきだ。

もっとも、現在の金融政策を「引き続き緩和的」とFRBは説明している。「インフレ率は中期的に2%程度近辺で安定する」という見通しの中、FRBとしては利上げペースの変更を極力避けたいはずだ。

また、雇用の最大化と物価の安定を目指すFRBにとって、景気については実質成長率や小売売上高よりも、雇用が重要である。4月の非農業雇用者数は前月比20万人以上増加した。このため、6月のFOMC前に発表される5月の非農業雇用者数が仮に下ぶれしても、トレンドの変化と判断することはできないだろう。

雇用の増加を受け、4月の失業率は4.4%と、2007年5月以来の低い水準に達している。FRBは、雇用の最大化という目標をほぼ達成できたと判断しているだろう。

<物価基調変化の判断は時期尚早>

問題は、物価の基調変化の有無だ。4月のコア消費者物価指数は前月比0.1%の上昇だが、税金引き上げの影響で同4.2%上昇したタバコを除くと前月比横ばいになる。3月の前月割れに続く弱い数値で、前年比でみると、4月は1.9%上昇と、昨年8月のピーク2.3%上昇から伸びが鈍化している。

4月は、物価の基調を示す中位消費者物価指数が前年比2.37%上昇と、3月の2.51%上昇から伸びが鈍化した点も気掛かりだ。3月のコア消費者物価指数は、2010年3月以来の前月割れになった点が注目されたが、中位消費者物価は2月の2.52%上昇からわずかな伸び鈍化にとどまり、物価の基調変化を確認することはできなかった。

ただし、FRBは、物価の基調変化を前提とした政策対応はしないと筆者は予想している。4月はタバコの値上げという特殊要因があるが、最近は無線電話サービスの価格下落という特殊要因がある。

4月の消費者物価指数を項目別でみると、無線電話サービスは前月比1.7%下落と、3月の7.0%下落に続き、大幅に落ち込んでいる。消費者物価指数での無線電話サービスのウエートは、タバコの2倍以上あり、物価の方向性に少なからぬ影響を与えている。前年比でみると、4月は12.9%下落と、コア消費者物価指数を0.3%ポイント押し下げている。つまり、昨年8月からのコア消費者物価指数の伸び鈍化は、無線電話サービス価格下落でほとんど説明することができる。

無線電話サービス価格下落の理由は、景気の低迷ではなく、個別業界の価格戦略と考えられる。足元の下落ペースが極めて速いことから、早晩反発しよう。過去も、一時的に大幅に価格を引き下げた後、値上げに転じたことがある。中位物価指数の伸び鈍化は気掛かりだが、FRBが目標に設定している2%の水準を十分超えている。このため、FRBが利上げを躊躇(ちゅうちょ)する理由にはならないだろう。

5月の消費者物価指数は、6月FOMCの2日目(14日)に発表される。FOMC声明文の物価に関する表現には影響を与えるが、利上げ実施という政策判断には影響を与えないと筆者は予想している。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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