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コラム:ジャクソンホールで相場の潮目変わるか=永井靖敏氏
2017年8月23日 / 03:48 / 3ヶ月前

コラム:ジャクソンホールで相場の潮目変わるか=永井靖敏氏

[東京 23日] - 主要国の中央銀行や財務省の幹部、名だたるエコノミストらが参加して経済政策を討議する米ジャクソンホール会議が8月24―26日に開催される。

ジャクソンホール会議はカンザスシティー地区連銀がワイオミング州ジャクソンホールで毎年主催している経済シンポジウムの通称で、市場関係者の注目度は高い。2010年と2012年には、当時、米連邦準備理事会(FRB)議長だったバーナンキ氏がそれぞれ量的緩和第2弾(QE2)と第3弾(QE3)の実施につながる発言をした。

加えて、2016年は、ノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ・米プリンストン大学教授が「物価水準の財政理論(FTPL)」に関する講演を行ったことでも有名になった。講演自体は目新しい話ではなかったが、後に浜田宏一内閣官房参与が「目から鱗(うろこ)が落ちた」と絶賛したことで、FTPLが改めてスポットライトを浴びるきっかけになった。今年も、シンポジウムが予期せぬ話題を提供する可能性もありそうだ。

<日銀の「周回遅れ」が浮き彫りに>

今年のシンポジウムのテーマは「ダイナミックな世界経済の促進」。プログラムが公開されるのは8月24日だが、すでにドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁と黒田東彦日銀総裁が出席することに加えて、イエレンFRB議長が25日に金融の安定をテーマに講演を行うことが発表されている。

これまでのテーマを振り返ると、一昨年は「インフレの力学と金融政策」、昨年は「将来に向けた弾力性のある金融政策の枠組み策定」で、中央銀行の主な関心事が、金融政策による物価の押し上げから、金融政策の持続性にシフトしたことが読み取れる。今年は、緩和的な金融政策から脱却した後の姿に関心が移った模様で、日銀の周回遅れの状態が浮き彫りになっている。

当然のことながら、毎年テーマに沿った講演が行われる。昨年は、黒田総裁が「マイナス金利付き量的・質的金融緩和による予想物価上昇率のリアンカリング」、クーレECB理事が「ECBの危機後の政策運営の枠組み」、イエレンFRB議長が「FRBの金融政策のツールキット:過去、現在、未来」と題した講演を行った。

昨年は、マイナス金利に関する評価が対照的で、黒田総裁が「大きな自由度を獲得した」と主張したのに対し、クーレ理事がマイナス金利の下限について、現金保有との裁定により引き下げが無効になる「物理的下限」の手前に、副作用が効用を上回る「経済的下限」が存在することを指摘。マイナス金利の深掘りの副作用を意識した政策運営の必要性に言及した。イエレンFRB議長は、マイナス金利をツールキットの中から外すことで、将来的にも導入に後ろ向きであることを示唆した。

<バブルの様相を呈す米債市場に言及も>

今年は、「ダイナミックな世界経済の促進」というテーマから推察するに、金融政策という枠を超えて、中長期的な経済問題が議論の対象になると思われる。黒田総裁は、すでに金融政策については十分な対応を行ったと説明した上で、成長戦略による生産性の押し上げの必要性を主張しそうだ。ドラギ総裁は、統合通貨ユーロの有益性、さらなる深化の重要性、自由貿易や労働力の移動の意義などに言及すると思われる。

イエレン議長は、資産価格上昇への対処法など、景気拡大を持続的にする政策運営の考え方や、場合によっては、金融規制のあり方などを議題に盛り込む可能性もありそうだ。一部の市場参加者が期待している、当面の金融政策に関するインプリケーションは、ないかもしれない。

ただし、シンポジウムが相場に影響を与えないとまでは言い切れない。特に米国については、市場とFRBの間で、景気の見方が大きくかい離した状況が続いている。すなわち、市場は、年内の利上げは困難で、来年末までを視野に入れても計1―2回の利上げしかできないとみているのに対し、FRB高官の多くは、来年末まで4回の利上げが適切となるペースで景気が回復すると予想している。

米長期金利が低い水準で推移している主因は、これまで低下傾向にあったためだと筆者はみている。買いが買いを呼ぶという意味では、バブルに近い状況であり、グリーンスパン元FRB議長も今月、米系メディアのインタビューで、米債券市場について「どのような基準からみても、実質長期金利はあまりにも低すぎるため、持続不可能だ」とバブルの可能性を指摘した。

イエレン議長からは、元議長のような過激な意見は出ないと思われるが、FRBはバランスシート正常化というイベントを控えている。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、10月から正常化に向けた動きを開始することを正式に発表するとの見方が市場に十分織り込まれているため、実際に正常化に踏み切っても、長期金利への影響は限定的との見方がコンセンサスになっている。ただし、正常化開始後、長期金利が上昇して、実体経済に悪影響を及ぼすと、結果として、正常化は失敗だったと評価される恐れがある。

各中銀のトップが、中長期的な経済問題に目を向けた場合、解決可能という結論を導き出そう。市場が真に受けない可能性を排除することはできないが、少なくともイエレン議長は、バブルの様相を呈してきた米債券市場の「ガス抜き」を狙う発言を行うだろう。ジャクソンホール会議が、相場の動きを変えるきっかけになる可能性もありそうだ。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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