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コラム:ハリケーンの爪痕、米利上げ要因に=永井靖敏氏
2017年9月8日 / 04:36 / 2ヶ月前

コラム:ハリケーンの爪痕、米利上げ要因に=永井靖敏氏

[東京 8日] - 大型ハリケーンが米国経済を揺さぶっている。テキサス州やルイジアナ州を襲った「ハービー」が甚大な被害を与えたばかりなのに、今度はハリケーンの勢力で最大のカテゴリー5に分類される「イルマ」がフロリダ州に接近、さらに大西洋上で新たに発生した「ホセ」も脅威になりつつある。

現時点でハリケーンの被害額を特定することは難しい。6日に発表された地区連銀経済報告(ベージュブック)でも、ハービーの影響に関する特記事項を掲載したが、「ダラスやアトランタ地区の湾岸地域の経済活動に幅広い混乱をもたらした」とするのにとどめ、「全体の影響度合いを計測するのは時期尚早」としている。

<失業保険新規申請件数が急増>

こうした中、ハリケーンの影響を示す最初の米経済指標が7日発表された。9月2日に終わる週の失業保険統計で、新規申請件数は29.8万件と、8月25日に終わる週の23.6万件を大幅に上回った。

米労働省は、テキサス州とルイジアナ州にハリケーンの影響が出たとし、テキサス州については前週比5.2万件増加したと発表している。この数字だけでは影響は小さいようにみえるが、失業保険を申請する余裕がなかった人が相当数いたと考えられるため、現時点で判断することはできない。本格的に影響が出るのは、来週発表される統計からになりそうだ。

ハリケーンが経済指標に与えるタイミングをみる点で、2005年に上陸したハリケーン「カトリーナ」が参考になる。カトリーナは8月25日にフロリダ州に上陸した後、29日にルイジアナ州に再上陸した。ハービーは8月25日にテキサス州に上陸し、30日にルイジアナ州に再上陸したので、日付がほぼ一致する。

米労働省は当時、ハリケーンが理由で失業保険を新規に申請した件数を別途発表していた。2005年9月3日に終わる週は2万件にとどまったが、10日に終わる週は9.1万件へと急増した。17日に終わる週に10.8万件のピークをつけ、その後減少傾向をたどったものの、12月17日に終わる週まで押し上げ要因となった。失業保険統計で、ハリケーンが雇用に与えた影響を判断できるまでには、かなりの時間がかかりそうだ。

雇用統計でも、直ちに状況を把握するのは難しそうだ。10月6日に発表される9月の雇用統計に注目したいが、2005年9月の非農業雇用者数は速報段階で前月比3.5万人減少したが、翌月には0.8万人減に、翌々月には1.7万人増に上方修正されている。その後、遡及改定され、現時点は6.7万人増という数値が公式統計だ。

速報値が下ぶれした背景には、例外的な集計方法を採用したことがある。非農業雇用者数の基礎統計である事業所調査は、企業から提出される給与支払い名簿を集計して作成する。通常未着分は「前月と同じ」として扱うが、当時は例外的に「企業活動が停止し、給与・手当てが支払われなかった」と仮定して集計した。このため、その後の上方修正自体は予想されていたが、リアルタイムで雇用の動きが読めないという点で、今回と共通点がある。

<インフレ的な現象招くハリケーン>

こうした状況でも、米連邦準備理事会(FRB)は、適切な金融政策を行うことが求められる。2005年当時の金融政策を振り返ると、2003年6月から2006年6月にかけ、フェデラルファンド(FF)レートの誘導水準を1%から5.25%まで、緩やかなペースでの引き上げが行われていた局面だった。

市場では、カトリーナの襲来により、9月20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは見送られるとの見方も浮上したが、オルソンFRB理事(当時)が、誘導水準据え置きを主張して反対票を投じただけで、他のメンバーは利上げに賛成し、FFレートの誘導水準は3.5%から3.75%へ引き上げられた。

当時のFOMC声明文を読むと、「カトリーナは短期的には影響があるが、長期的には問題ない」という内容だった。FRBはFOMC前も、市場で浮上した利上げ見送り観測を打ち消すことに注力した。

ハト派と位置付けられていた当時のイエレン・サンフランシスコ地区連銀総裁(現FRB議長)が「まだ影響を評価する初期の段階」「FOMCにはオープンマインドで望む」と利上げ継続を示唆する発言をした他、モスコウ・シカゴ地区連銀総裁(当時)は「ハリケーンの被害の影響でインフレ心理が悪化した場合は対処が必要になる」と、景気よりも物価への影響に注目した発言が行われた。

当時とは経済状況が異なること、ハービーの被害がカトリーナを上回る可能性があることを念頭に置く必要はあるが、一般論としてハリケーンは生産能力の低下を招き、その後の復興需要が見込まれるという点で、インフレ的な現象である。このため、政策対応としては、金融引き締めと財政出動というポリシーミックスで望むべきだ。

最近のFRB高官の発言をみても、ハービーの影響について、5日にブレイナードFRB理事は「年内残りの期間の経済見通しに関する不確実性を高める」とした一方、「年末までには回復する可能性が高い」と指摘した。カプラン・ダラス地区連銀総裁も、ハービーは7―9月の実質成長率を押し下げるが、10―12月には回復するだろうと発言している。

7日には、ジョージ・カンザスシティー地区連銀総裁も「ハリケーンが米経済に与える影響は短期的」と発言し、ダドリー・ニューヨーク連銀総裁はハリケーンの被害でインフレ率が若干押し上げられる可能性を指摘している。

2005年9月時点では、利上げは4%程度で一巡するとの見方が一般的で、5.25%まで引き上げられると予想したエコノミストや市場参加者はほとんどいなかった。ハリケーンだけが原因ではないが、結果として予想以上の利上げが行われた。

市場では現在、ハリケーンによって利上げは一段と困難になったとみる向きもあるが、FRBは過去のケースを踏まえ、従来の想定よりも利上げが必要になったと判断していると思われる。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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