March 9, 2018 / 6:11 AM / 5 months ago

コラム:出口を語れない黒田日銀、将来の波乱「増幅」の恐れ=永井靖敏氏

[東京 9日] - 黒田東彦日銀総裁の1期目としては最後となる日銀金融政策決定会合(3月8―9日)が終わった。トランプ米大統領の鉄鋼・アルミニウム輸入制限を巡る駆け引きや、米朝首脳会談を5月までに実施するとした突然の発表に、市場の関心が奪われる形になった。

日銀の金融政策は現在、凪(なぎ)の状態にある。黒田総裁は2013年4月に就任後、量的・質的金融緩和の導入に始まり、買い入れ規模拡大、マイナス金利の導入、イールドカーブ・コントロールの採用など、2016年秋までは積極的に行動したが、その後は様子見姿勢を維持している。やがて出口に向かう必要があるが、しばらくは模索さえできない状況になっている。

<1期目の通信簿>

1期目の黒田総裁の金融政策を振り返ると、行動力については、高く評価できる。タイミング、規模という点でサプライズを伴う政策を打ち出しただけではなく、三層構造の当座預金付利、長期金利コントロールなど、巧妙な政策手段を生み出した。2%の「物価安定の目標」の達成を目指すという与えられた課題に対して、全力を尽くした様子がうかがえる。

成果については、評価が分かれる。一部で「物価安定の目標」を達成できなかったことを理由に低く評価する向きもあるが、それは的外れだろう。金融政策は、コストとベネフィットを比較考量して行う必要がある。黒田総裁は、ベネフィットを上回るコストを投入し、結果として金融政策の限界を実証したと筆者はみている。

もちろん、黒田総裁は、「物価安定の目標」に向けたモメンタムは維持していると主張している。どちらの見方が正しいかは、今後の物価動向次第で、現段階では結論を出すことができない。

市場との対話という点では、評価の対象になるのはこれからだ。緩和局面では、サプライズを伴う政策発動が許される。サプライズがさらなる緩和期待を誘うことで、金融緩和効果を増幅させる効果があるためだ。トランプ米大統領がサプライズを伴う形で米朝首脳会談の実施を発表したのも、政治手腕に対する国民の期待を高める狙いがあったと思われる。

ただ、引き締め局面では、市場の波乱を避けるため、市場との対話が重視される。この点は、黒田総裁も十分認識している模様で、2日の衆院での所信表明で、2期目の出口戦略に関する福田昭夫議員からの質問に対し、「出口に差し掛かったところで出口戦略についての議論を進め、必要な市場とのコミュニケーションを図る」と述べた。

<2期目の課題>

この発言が、「19年度頃ごろ出口を検討」と報じられ、市場の波乱を招いた。部分的に切り取った報道機関が批判されているが、これまで市場との対話を怠ってきた代償という面もありそうだ。黒田総裁が「出口に関する議論は時期尚早」として、情報開示を拒絶してきたことが、市場の過剰反応を招きやすい状況につながったためだ。

市場との対話については、出口について先行している米連邦準備理事会(FRB)が参考になろう。FRBは、2011年6月に「政策正常化の原則と計画」を公表し、2014年1月に資産購入の減額(テーパリング)を開始した。確かに、2013年5月のバーナンキFRB議長(当時)発言が、市場の混乱(テーパー・タントラム)を誘ったように、FRBの手法が完璧だったとはいえないが、資産購入の減額は円滑に行うことができた。

日銀もFRBのように、出口の計画と実施の時期を分離することが望まれる。出口に差し掛かったところで議論の様子を明らかにすると、市場の思惑を招き、市場との対話が失敗する恐れがある。

日銀は、出口に関する議論を示さない理由として、議論すべき時の経済、物価、市場動向が不透明なことを挙げており、出口での波乱は避けることはできると主張している。ただ、現行の政策運営は極めて異常で、長期化するのにつれて、出口で起こり得る波乱の度合いも大きくなると考えられる。

<2019年春に分かれ道>

黒田総裁が2期目に入った後、出口に向けて方向転換をすることを期待したいが、今のところその兆しはない。安倍晋三首相も現状維持の政策運営を望んでいる模様で、このことは副総裁人事からも読み取れる。

副総裁に日銀出身者と学者を配する現在の構図を維持し、中曽宏副総裁の後任に現執行部の中核である雨宮正佳理事の内部昇格を決め、岩田規久男副総裁の後任にリフレ派経済学者の若田部昌澄早稲田大学教授を指名した。

日銀は、2019年春頃までに動かなければ、長期にわたり動けない状況にある。2019年10月の消費税増税の実施が予定されていること、2020年以降は東京オリンピック関連需要の一巡による景気下押し圧力が加わることを念頭に置く必要があるためだ。

黒田総裁の1期目は壮大な政策実験の期間、2期目は収束(できれば収穫)の期間と位置付けたいが、様子見の期間になってしまう可能性の方が大きいと筆者はみている。

*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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