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コラム:財政再建を軽視する日本政治の帰結=斉藤洋二氏
October 25, 2017 / 3:40 AM / 2 months ago

コラム:財政再建を軽視する日本政治の帰結=斉藤洋二氏

[東京 25日] - 22日投開票の衆院選は、報道各社がほぼ予想した通りの結果となり、自民・公明両党が改憲発議に必要な3分の2の議席を獲得し、安倍晋三政権は大きなフリーハンドを得た。

とはいえ、比例区における与党の獲得議席数は公示前と比べ微減しており、国民の積極的な支持を得たとは言い難い。小選挙区においても、野党分裂で反政権票が割れたことが与党に有利に作用したことは明白だ。

要するに、この選挙結果は野党側の「敵失」、特に希望の党を立ち上げた小池百合子代表(東京都知事)と、同党に相乗りを図った前原誠司・民進党代表の2人による「オウンゴール」がもたらした部分が大きいと言えよう。

もちろん、立憲民主党が善戦し野党第1党になったことは、「リベラル」を自認する人たちが反安倍政権の旗印のもとに集った結果だ。安倍政権が今後進める改憲など諸問題に立ちふさがってはチェック機能を果たしていく役回りが期待される。

ただし、米国の民主党やドイツの社会民主党(SPD)などの海外のリベラル政党と比べれば、日本の自称「リベラル」は中道左派よりもさらに左寄りに見える。それだけに、二大政党制の一翼を担う政治勢力に成長できるのか否かは当面その本質を見極める必要がありそうだ。

ともかく11月1日に発足する第4次安倍内閣は、従来路線を踏襲しつつ、公約の実現に向けてこれまで以上にスピーディーかつ強気に動いてくることが予想される。つまり、経済面では拡張的な政策によってデフレ脱却を急ぐとともに、政治・外交面では2020年に向けて自衛隊の明記を含めた憲法改正や北朝鮮への圧力強化が進められていくことになりそうだ。

<財政問題を直視しないモラルハザード>

こうしたなか、軽視ないしは置き去りにされている感が強い重大テーマが、財政再建だ。周知の通り、日本の公的債務残高は国内総生産(GDP)比で約250%に達するなど主要国の中でも群を抜いて高い水準にある。

しかし、今回の選挙に際しては、消費増税の凍結・中止や使途変更が語られる一方、痛みを伴う財政健全化策の必要性はほとんど本質的に議論されることはなかった。選挙という大衆迎合とリップサービスの応酬のなかではやむを得ないとはいえ、その姿はまさに日本の政治がモラルハザードに陥っていると感じさせた。

そもそも5%から10%への消費増税については、社会保障と税の一体改革に関する民自公の三党合意の柱として、2012年に民主党の野田佳彦首相(当時)と自民党の谷垣禎一総裁(同)、公明党の山口那津男代表が決断したものだ。

2014年4月に5%から8%へ、2015年10月に10%へ引き上げることが法律で定められたが、2段階目の引き上げは2度も先延ばしされてきた。そして、2019年10月に3度目のトライが行われることが決定している。

しかし、安倍首相は消費増税の使途を見直し、税収増分の一部を教育無償化などに回すことをすでに表明している。現役世代のためと言えば聞こえは良いが、実際には財政健全化に充てるはずだった割合が減るわけで、後代へのつけ回しとの誹(そし)りを免れないだろう。

また、2019年春ごろまでに景気が減速したり、軽減税率問題が再び紛糾したりする場合には、3度目の延期が模索される可能性も否めない。安倍首相は「リーマン・ショック級の危機がない限り予定通り行う」と繰り返し述べているが、リーマン・ショック級が何を意味するのかも不透明だ。

安倍首相は日本が議長国を務めた2016年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で突如、リーマン・ショックに言及して危機感を表明したものの、翌6月には「現時点でリーマン・ショック級の事態は発生してない」とし、むしろ内需を腰折れさせるリスクを強調し、2度目の消費増税延期を表明した。2019年に向けて、景気が減速するようなことがあれば、同様の思考の経路をたどる可能性は十分あり得るだろう。

<アベノミクスの帰結はインフレ税か>

振り返れば2010年6月、カナダのトロントで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議において、日本政府(当時は民主党の菅直人首相)は国際公約として、先に閣議決定していた基礎的財政収支(PB)に関する目標を掲げた。具体的には、2015年度までに2010年度と比べてPB赤字の対GDP比を半減し、2020年度までにPB黒字化を果たすというものだった。

G20トロント・サミットの首脳宣言は、「先進国は2013年までに少なくとも赤字を半減させ、2016年までに政府債務の対GDP比を安定又は低下させる財政計画にコミットした」と明記したが、財政状況が厳しい日本は例外的に緩い目標設定で国際的な理解を得ることができたわけだ。

にもかかわらず、その結果は、2015年度の半減目標こそクリアできたものの、その翌年度は再び拡大、2020年度の黒字化目標については次なる期限が定まらぬまま先送りされた。日本政府の財政再建に対するスタンスが先進国基準から遠くかけ離れていることを示してしまった。今後、財政再建に向けて経済成長による税収増頼みだけで良いはずはなく、PBに関する新たな目標策定が急務である。

何より心配なのは、財政再建が後回しにされ、教育無償化などによる個人消費底上げという迂遠(うえん)な景気刺激が図られる可能性がある点だ。こうした政府の放漫な財政政策を可能としているのが日銀の低金利政策である。

安倍政権の再スタートに伴って政府と日銀の協調関係が堅持されることから、来年4月に任期満了を迎える黒田東彦日銀総裁の後任人事がどうなろうとも、量的金融緩和策は継続される可能性が高い。従って、日銀はこれまでと同様に長期国債の大量購入を進めることで、金利の低め誘導を継続して、国債発行コストの圧縮に貢献することになる。

その結果、5月に500兆円を突破した日銀の総資産はさらに膨れ上がり、早晩、日本のGDP規模を超え、日銀の財務状況や政治からの独立性に関する懸念が一段と高まっていくことが予想される。それでも政府が日銀による財政ファイナンスの甘い罠から脱することができなければ、財政運営の放漫化はさらに進み、政府・日銀はまさに二人三脚の政策運営によって「悪いインフレ」の芽をどんどん育てていくことになってしまうだろう。

低インフレが続く現状ではにわかに想像し難いが、これからも増税や歳出削減などの痛みを避け続けるとすれば、アベノミクスの帰結はやはりインフレによる実質的な課税と公的債務圧縮(インフレ・タックス)となるのだろうか。

*斉藤洋二氏は、ネクスト経済研究所代表。1974年、一橋大学経済学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。為替業務に従事。88年、日本生命保険に入社し、為替・債券・株式など国内・国際投資を担当、フランス現地法人社長に。対外的には、公益財団法人国際金融情報センターで経済調査・ODA業務に従事し、財務省関税・外国為替等審議会委員を歴任。2011年10月より現職。近著に「日本経済の非合理な予測 学者の予想はなぜ外れるのか」(ATパブリケーション刊)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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