June 8, 2018 / 2:09 AM / 6 months ago

コラム:テクノロジーとETF、共鳴するブームの落とし穴=重見吉徳氏

重見吉徳 JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト

 6月8日、JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏は、テクノロジー株式とETFは互いの神輿を担ぎ合うかのようにブームに発展してきたとみられ、そのフィードバック・ループの逆回転には注意が必要だと指摘。写真は株価チャートのイメージ画と米ドル紙幣、ボスニア・ヘルツェゴビナで2016年11月撮影(2018年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 8日] - 前回のコラムでは、現在の金融市場を支える「7つのブーム」を示した。改めてお伝えすれば、それらは、流動性、生産効率化、合併・買収(M&A)、自社株買い、レバレッジ、テクノロジー、上場投資信託(ETF)を巡るブームであり、前回は、そのうち前者5つに関して整理をした上で、それぞれが直面しつつある壁について検討した。

本稿は後編として、最後の2つ、「テクノロジー・ブーム」と「ETFブーム」を取り上げる。これら2つはそれぞれに問題を抱えるが、より大きな問題はこの2つの間に「正のフィードバック・ループ」が生じているという点である。互いが互いの神輿(みこし)を担ぐかのように、ブームにまで発展してきたとみられる。このフィードバック・ループが逆回転するときには、十分な注意が必要だ。

データを追う前に、このフィードバック・ループを簡単に説明しておこう。それは、次のようなものである。

●例えばコストの観点で、アクティブファンド(バリュー株式)が解約され、株式市場に連動するETFに資金がシフトすると(=ETFブーム)、時価総額の大きいテクノロジー株式(グロース株式)が市場全体をアウトパフォームする(=テクノロジー・ブームに拍車を掛ける)

●例えば流動性や将来への期待などで、テクノロジー株式に資金が流入すると(=テクノロジー・ブーム)、テクノロジー株式が市場全体を、ETFがアクティブファンドをアウトパフォームする(=ETFブームに拍車を掛ける)

このような相互循環が、「テクノロジー・ブーム」と「ETFブーム」の間に起きていることをまず押さえておきたい。

<データで見るフィードバック・ループ>

直近5月末時点で、S&P総合500種指数の時価総額全体のうち、情報技術セクターとインターネット小売セクター(以下、「テクノロジー株式」)が占める割合は30.0%であり、2000年8月(33.6%)以来の高水準に達している。

ETFとの関連で考える上では、テクノロジー株式の時価総額が指数全体に占める割合(以下、「テクノロジー株式のウエート」)の変動をつぶさに追うことが第1歩だ。

テクノロジー株式のウエートは、下に掲載した図の通り、ITバブル崩壊で急低下し、2001年から2008年までは16―17%を中心に変動した。その後、2009年から2014年までは、米連邦準備理事会(FRB)によるフォワードガイダンスや量的金融緩和によって長期金利の低位安定が続く中、(テクノロジー企業の多くが属する)グロース株式優位の相場となり、テクノロジー株式のウエートは、その変動の中心が20%まで引き上がった。さらに2014年終盤からは、原油価格の大幅下落を受け、エネルギー・セクターを追いやり、2016年末には23%付近に達した。

問題はここからである。テクノロジー株式のウエートは、上記の通り、直近が30.0%だから、2017年から直近までのわずか1年半足らずの期間に、7%ポイントもの上昇を見せている。ただし、マーケット環境はその間に大きく変化した。

FRBはバランスシートの正常化に着手し、原油価格も反転を見せ、S&P総合500種指数はそれまでの急上昇から一転、今年1月末に大幅下落に見舞われ、その後も低調なままだ。こうした変化にもかかわらず、テクノロジー株式のウエートは、以前よりもハイペースな上昇を続けてきた。

他方、米国のETF市場がブームとなったのも、テクノロジー株式へのウエートが大きく引き上がった2017年以降である。

米国投資信託協会(ICI)のデータによれば、2013年から2016年までの株式ETF(国際株式を含む)への累積資金純流入額は、ほぼ線形に(=同じペースで)伸びており、52週換算の資金流入額は約1700億ドルである。

2017年以降も、株式ETFへの資金流入額は線形だが、その傾きは大幅に切り上がっており、2017年から2018年5月までの資金流入額は52週換算で約3000億ドルに上る。

そして、2013年から直近までの累積資金純流入額を見ると、株式ETF(国際株式を含む)は約1兆1000億ドルのプラスである一方、株式ミューチュアル・ファンド(投資信託、国際株式を含む)は約3600億ドルのマイナスである。

<アクティブ運用からの資金流出が影響か>

時価総額ベースの主要な株価指数に連動するETFを買うということは、時価総額の大きいテクノロジー株式をオーバーウエートする効果がある。

直観的には、指数連動のETFにいくら大量の資金が流れても、買い付けタイミングでの各銘柄のウエート(時価総額比率)で資金が配分されるため、買い付け後もセクターや銘柄のウエートは変化しないように思える。

しかし、ETFが買われる裏側で、アクティブ運用が解約されていれば、状況は異なる。伝統的なアクティブ運用はバリュー株式(割安株式)である一方、テクノロジー株式はグロース株式(割高株式)であるため、伝統的なアクティブファンドは、テクノロジー株式をアンダーウエートしている。

結果として、投資資金が、アクティブファンドからETFにシフトするときには、(アクティブファンドが持っていた)テクノロジー株式のアンダーウエートが解消され(このときにテクノロジー株がオーバーウエートされる)、テクノロジー株式やグロース株式が、指数全体やバリュー株式をアウトパフォームする。

フィードバック・ループゆえに、その始まりはどこからでもよいのだが、例えば「アクティブ運用が低調」「ETFは手数料が低い」という喧伝がなされて、アクティブファンドからETFに資金が流れたり、低金利政策や資本還元による「カネ余り」の下で、機関投資家の大規模な資金が流動性の高い大型銘柄(テクノロジー株式)に入ったり、自社株買いがこれらの株価をさらに押し上げたりすることなどが、フィードバック・ループが始まったり、強化されたりするきっかけとして挙げられるだろう。

<テクノロジー企業が直面する壁>

まずは、時価総額の壁があるだろう。すでに述べた通り、S&P総合500種指数の時価総額全体のうち、テクノロジー株式(情報技術セクターとインターネット小売セクター)が占める割合は、直近時点で30.0%であり、2000年8月(33.6%)以来の高水準に達している。しかも、このうちの半分近くを、フェイスブック、アップル、アマゾン・ドット・コム、ネットフリックス、グーグル(アルファベット)の5銘柄(いわゆるFAANG)だけで占める(13.0%)。

次に「10年の壁」がある。世界株式の代表的な指数であるMSCIオール・カントリー・インデックスを見ると、2017年末時点では上位10銘柄で指数全体の9.7%を占めるが、そのうち7銘柄がテクノロジー株式である。

この指数で、1998年から2007年の各年末時点の時価総額上位10銘柄を追うと、その10年後(2008年から2017年)も上位10銘柄に残ったのは平均すると3.7銘柄であり、指数をアウトパフォームしたのは平均すると2.1銘柄に限られる。

この経験則に従えば、昨年末時点で投資資金の9.7%(=世界株式指数の9.7%)を投じている上位10銘柄のうち7.9銘柄は市場に負けることになる。

個別で考えると、デジタル広告やデータ販売に依存する一部のテクノロジー企業は、規制の壁にぶつかりつつある。こうしたテクノロジー企業は、その社会的な存在が大きくなり過ぎている恐れがある。先の時価総額比率でもその存在感が分かるが、現状は「デジタル独占」とも呼ばれ、一部のテクノロジー企業は、スマートフォンの使用履歴のトラッキング(追跡)によって、趣味や嗜好の傾向のみならず、起床や就寝の時刻や場所、誰と誰が一緒に住んでいるかも把握しているとされる。

欧州連合(EU)は、5月25日から「一般データ保護規則(GDPR)」を施行し、企業による個人情報の取り扱いに規制をかけた。これは、他の地域の先駆けとなる可能性があるし、デジタル広告やデータ販売に依存するテクノロジー企業の業績拡大余地を制限する恐れもある。

過去には1992年12月に米環境保護局(EPA)が、たばこの煙を発がん性物質と認定し、2015年7月にオバマ大統領(当時)がバイオテクノロジーの規制見直しの覚書を出したことで、それぞれの株式セクターが市場全体をアンダーパフォームするきっかけとなっている。

次に、インターネット小売業は、マクロ経済の壁にぶつかる。例えば、アマゾンの小売事業は、店舗型企業から売上高や利益を奪っているが、やがては、あらゆる小売企業がEコマース(電子商取引)に参入する。たとえそのときアマゾンが、価格競争力によって他の小売企業を駆逐して独占企業になり、最近のように会員制サービスの会費を大幅に値上げしたり、あるいは個別の商品を値上げしたりしても、家計は消費金額を増やせるわけではない。それは所得の伸びに制約される。これがEコマースの巨人やM&Aそのものの限界である。

また、スマートフォンは、一般家計の購買力低下という壁にぶつかりつつある。その象徴が、アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)X(テン)」の販売低迷だろう。前編でも述べたが、企業が新製品の価格を引き上げるとしても、一般家計は生産移転や自動化によって、いわばこれらの製品の生産ラインから外されている。やがて、売上高の鈍化がマージンの拡大を相殺することになる。

<ETFが直面する壁>

ETFや時価総額に連動する運用が直面する壁とは、己自身だろう。

存在が大きくなり過ぎることで自身に対する規制の圧力を生み出しているテクノロジー企業と同様に、自身を喧伝して自身が膨れ上がる過程で、時価総額比率が高まって限界が近づいてきたテクノロジー株式セクターをさらにオーバーウエートし、自身の存在を危険にさらしている。

また、テクノロジー株式への偏りを考えれば、「ETFは分散がなされている」という主張はもはや幻想に近い。

売りと買いのマーケットを作り、資本配分を効率にすべく努め、資本市場が存在するためのコストを負担しているのはアクティブファンドであり、ETFは金融市場のフリーライダーである。「ETFはコストが低い」という主張は、資本市場の維持費用を応分負担していない事実を自ら強調しているだけだが、そのことに気付かない投資家を自身へと誘導する結果、自身と資本市場を脅かしている。

確かに、買い付け手数料や信託報酬は、長期の資産運用の少なからぬ足かせとなるが、それは社会的に必要かつ、平等に負担されるべきコストであることを認知させる必要があるし、まして「アクティブ対パッシブ」という観点から、手数料率の多寡が資産形成に及ぼす影響を示すことは、アンフェアかつ、ミスリーディングである。

<7つのブームが終わるタイミングときっかけ>

ブームの重要な経験則は、ひとことで言えば「もうはまだなり」だ。筆者には、タイミングもきっかけも分からないが、7つもブームがあるならば、準備万端である。金融引き締めさえ続けば、ブームは終わりを迎えるだろう。

本稿では、テクノロジー株式とETFを取り上げた。前者については、システム売買が行うモメンタムトレードの逆回転も大きなリスクだろう。上がっている銘柄を買い、下がっている銘柄を売るというモメンタムトレードの存在感が高まっているとされる。一度、テクノロジー株式がアンダーパフォームを始めれば、下げが下げを生むリスクがある。

一方、ETFでは、債券指数に連動するETFが、金融市場全体に下げをもたらすリスクがある。例えばハイイールド債券市場は、金融規制の影響によって投資銀行が在庫を抱えられないために、その流動性が以前よりもさらに低くなっているが、それらを束ねたETFは流動性が高いと思われている。この論理は、高リスクのローンを束ねてトリプルA格を生み出した証券化ブームの発想を想起させる。

リスクはいたるところにある。日本の個人投資家は十分な注意が必要だろう。

――前編:金融市場支える「7つのブーム」に迫る壁

重見吉徳 JPモルガン・アセット・マネジメント グローバル・マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供)

*重見吉徳氏は、J.P.モルガン・アセット・マネジメントの日本におけるグローバル・マーケット・ストラテジストで、エグゼクティブ・ディレクター。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了後、農林中央金庫にて、外国証券・外国為替・デリバティブ等の会計・決済事務および外国債券・デリバティブ等の投資業務に従事。その後、野村アセットマネジメントの東京・シンガポール両拠点において、グローバル債券の運用およびプロダクトマネジメントに従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年3月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

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