November 28, 2019 / 7:27 AM / 14 days ago

コラム:米中摩擦緩和なら、中長期的な円安も=亀岡裕次氏

[東京 28日] - 米国が今年10月15日からの対中関税引き上げを延期すると発表して以降、米中通商合意への期待が高まっている。ただ、トランプ大統領は、第1段階合意は近いとする一方で、米国にとって良い合意となる必要があるために保留しているとも発言している。香港問題が合意の支障となるリスクも含め、米中通商協議の行方は未だ不透明で、予断を許さない。

11月28日、米国が今年10月15日からの対中関税引き上げを延期すると発表して以降、米中通商合意への期待が高まっている。写真は日米の国旗とドル円相場の推移グラフ。都内で2017年1月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

過去にも米中通商合意が近いとされたことはあったが、結局は協議が決裂してきた。2月24日に米国は2000億ドル相当の対中輸入品に対する追加関税第3弾の税率引き上げを延期すると発表した後、4月4日にはトランプ大統領が米中通商協議は「4週間以内に合意も」と述べ、30日には大統領首席補佐官が「2週間以内に決着の公算大」とした。ところが、5月5日に大統領は関税第3弾の税率を10%から25%に引き上げると警告し、10日に引き上げた。

<今回は米中通商合意に至る可能性>

しかしながら、米国はこれまでのように対中協議を決裂させるわけにはいかないだろう。来年に米大統領選挙を控えたトランプ大統領としては、支持率アップのために通商政策の「成果」をアピールしたいと考えているはずだ。

中国は、米国産農産物の輸入拡大、金融サービスの市場開放、通貨政策の透明化などを行う見返りとして、米国が発動済み対中追加関税の一部撤回を要求しているとみられる。米国が12月15日に予定している追加関税第4弾の残りの発動を見送るだけでは、中国は合意しないはずだ。一方、トランプ大統領は中国との関税の応酬により減少した米農産物輸出を回復させたいだろうし、中国が輸入拡大を約束通りに履行するための方策を取るなら、発動済み関税の一部撤回に応じる可能性はあるだろう。

関税撤回で合意したいものの米国の過大な要求には応えがたい中国と、中国の対応が不十分として関税撤回を小幅にとどめようとする米国の交渉が、妥協点を巡り難航しているのだろうが、合意の可能性はありそうだ。米中協議決裂と追加関税発動の流れが一変して好転すれば、通商政策の不透明感が薄らぐため、リスクオフの円高圧力が後退し、リスクオンの円安圧力が台頭しやすくなる。

<短期的な円安進行は限定的か>

それでも、短期的な円安進行は限定的なのではないか。今後も米国が中国に対し、知的財産権侵害や技術移転強要などの構造問題の解決を迫るためには、関税カードを温存する必要があるので、対中姿勢を大幅には軟化させず、なるべく関税撤回を小幅にとどめるはずだ。そうであれば、世界的に景気は急速には改善しにくいだろうし、海外金利上昇やリスクオンによる円安は大幅には進みにくいだろう。

また、9月まで続いたドル高が米製造業に悪影響を与えており、製造業関連の景気指標は低迷を続けている。為替が変動してからその影響が景気指標に表れるまでに3カ月程度のタイムラグがあることからすると、少なくとも年内は指標が改善しにくい。当面は米景気指標の低迷が、米長期金利とドル円の上昇を抑える要因となるだろう。

9月から11月にかけて米長期金利の上昇幅のわりにドル円の上昇が進んだのは、米株価上昇など市場がリスクオン傾向にあり、それが円安に働いたからだ。米中摩擦が緩和すればリスクオンの円安は続きやすくなるが、すでに米中合意期待で株高が進んできただけに、景気が低迷しているうちはリスクオンの円安は大幅には進みにくいだろう。日米金利差とドル/円の相関関係から大きく逸脱してドル/円が上昇するとは考えにくい。米中合意しても当面、日米10年国債金利差は2.1%を上限、ドル/円は111円を上限に推移しやすいとみる。

<米国の関税撤回次第で中長期的な円安も>

とはいえ、米中通商協議の展開次第では、中長期的に円安が進行する可能性がある。トランプ大統領は大統領選に向け、米製造業からの支持率アップのためにも関税軽減を進める必要があると考えるかもしれない。米国は、中国の知的財産権保護などの構造問題対応が検証可能で実効性のあるものと判断できれば、さらに対中関税を軽減する可能性はあるだろうし、市場では第2段階合意への期待が高まることが考えられる。

また、来年には米景気回復と支持率アップのために、トランプ政権が中間層の所得税減税などの財政政策を打ち出す可能性が高い。民主党の議席が過半数を占める米議会下院が政権案をどこまで容認するかという問題はあるが、市場の景気回復期待とリスクオン志向を誘発し、円安に働きやすいはずである。

今年は実効為替ベースのドル高進行が米製造業に悪影響を与えてきたが、10月以降はドル高が頭打ちとなっている。リスクオン局面で人民元など多くの通貨が対ドルで上昇したからだ。トランプ政権が強硬な通商政策を改めることによってドル高是正が進めば、米製造業に好影響を与え、それが新たなリスクオン要因となる。つまり、リスクオンのドル安と米景気回復が好循環を起こすことで、リスクオンが中長期的に続く可能性があるだろう。リスクオン局面では、ドル安(ドル実効為替の下落)が進みやすいが、ドル安以上に円安となって円安・ドル高が進みやすくなる。

<米国が日本に円安阻止要求のリスク>

ただ、そうなると、対日貿易赤字が大きい米自動車業界などからは、円安・ドル高への不満が高まりやすい。日米通商協議は自動車分野が未決着だ。米国が日本の自動車に追加関税を課したり、輸出規制を要求したりする可能性は低いだろうが、日本に対し円安阻止のための為替条項を要求する可能性はあるだろう。リスクオンでは、人民元高・ドル安になりやすいので、米国と中国の通貨摩擦が強まる恐れは小さい一方、円安・ドル高になりやすいので、米国と日本の通貨摩擦が強まる恐れはある。円安・ドル高が進んだ場合には、トランプ政権の通貨政策の標的が日本に向くリスクに注意が必要だろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

亀岡裕次氏

*亀岡裕次氏は、大和投資信託のチーフエコノミスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2019年10月より現職。

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編集 橋本浩

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