January 24, 2020 / 8:37 AM / 23 days ago

コラム:リスクオンの円安傾向どこまで続くか=亀岡裕次氏

[東京 24日] - 昨年来のドル/円JPY=の上昇は、ドル高によるものではない。米連邦準備理事会(FRB)が発表するドルの実効為替指数(米国の主要貿易相手国・地域の26通貨を対象とした広義のドル指数)は、2019年9月3日をピークに下落に転じ、2020年1月17日にかけて2.7%下落した。これは主に第1段階の米中通商合意への期待を背景にした「リスクオンのドル安」だ。

 1月24日、新型コロナウイルスに対する懸念がリスクオフの円高を招いているが、円高の期間や規模は限定的となるのではないかと、大和投資信託の亀岡裕次氏は指摘。写真は2017年6月撮影(2020年 ロイター/Thomas White)

リスクオンはドル安よりも大きな円安を招きやすい。今回もドル安を上回る「リスクオンの円安」により、ドル/円は同期間に105.94円から110.16円へと4.0%上昇した。つまり、円が最弱通貨で、円よりもドルが強く、ドルよりも他通貨が強くなった。クロス円の上昇率がドル/円の上昇率を上回る典型的なリスクオンの相場パターンである。

<リスクオン持続のカギは景気動向>

では、リスクオンの円安は持続するのだろうか。最近、新型コロナウイルスの感染拡大懸念がリスクオフの円高を招いている。予断を許さないが、中国の春節を経て感染が急拡大することがなければ、世界経済への悪影響が限定的とみなされて円高圧力は低減し始め、円高の期間や規模は限定的となるのではないか。ドル/円が108円を割り込む可能性は小さいと見ている。

今後の市場を左右する要因として、米中通商合意が約束通りに履行されるか否かがある。履行されなければ、米国が再び中国に対して追加関税などを用いて通商圧力を強める可能性があるからだ。ただ、米国は大統領選を前に通商摩擦を再燃させたくないだろう。また、中国の対米輸入拡大や知的財産権保護などの履行状況の確認には時間を要するので、当面の市場動向には影響しにくいはずだ。

そうなると、市場を左右する要因としては、世界的な景気動向が重要になる。米中通商摩擦が多少なりとも緩和するなかで、企業や消費者の心理が楽観に傾くことで実体経済が上向くか否かが、リスクオン持続のカギを握ることになるだろう。

<米国景気に底打ち感出てくる可能性>

世界景気のなかでも、市場を左右しやすいのは米国の景気動向である。米国ではこれまで、貿易摩擦の悪影響により設備投資や製造業景況感が低調に推移する一方、株高(資産効果)の好影響により個人消費や非製造業景況感が堅調に推移してきた。今後は、製造業の悪化が波及するように、非製造業の景況感が悪化するのだろうか。それとも、非製造業の堅調さが波及するように、製造業の景況感に底打ち感が出てくるのだろうか。どちらかと言えば、後者の可能性が高いように思える。

第一に、中国の対米輸入拡大(2年間で2000億ドル、うち製品780億ドル、農産品320億ドル、エネルギー520億ドル、サービス380億ドル)が米国の生産活動にプラスに働くからだ。対中輸出拡大が見込めるとなれば、少なからず米国企業の生産や設備投資が誘発され、米国経済の押し上げ効果が期待できるだろう。

第二に、昨年10月にかけてのFRBの利下げとともに市場金利が低下したことが、住宅投資を回復させているからだ。昨年12月の米住宅着工件数(年率)は、市場予想の137.5万件を大幅に上回る160.8万件となり、2006年12月以来13年ぶりの高水準となった。住宅投資の回復は米国の生産活動にプラスに働くはずである。

<ドル安による米国景気へのプラス効果も>

第三に、昨年9月以降のドル安が米国景気にプラスに働き始めた可能性が高いからだ。米国の貿易は輸出入ともにドル建て比率が高いため、ドル安になった場合のドル建ての輸出物価や輸入物価の上昇効果は小さい。そのため、輸入物価上昇によるインフレで米国の個人消費が抑制される効果は小さい。その一方で、ドル安になった場合、貿易相手国通貨建ての輸出物価や輸入物価の低下効果は大きい。そのため、貿易相手国が米国からの輸入数量を増やし、米国の輸出数量が増える効果は大きい。したがって、ドル安から若干のタイムラグを置いて米国の生産活動にプラス効果が表れやすい。

実際、ドルの実効為替が下落すると、その3カ月程度あとに発表される米経済指標が市場予想を上回り、エコノミック・サプライズ指数が上昇する傾向にある。今年に入り、米国のエコノミック・サプライズ指数が上昇し始めているのも、昨年9月以降に進んだドル安の効果が一因と考えられる。少なくとも今年3月にかけては、ドル安効果によって米経済指標が市場予想を上回る傾向が強まりやすいはずだ。

<夏場にかけ112円シナリオ>

米経済指標の予想以上の改善は、リスクオンの円安に作用すると同時に米金利上昇のドル高に作用する可能性もある。そうなると、ドル/円が上昇しやすくなる。

すでに米長期金利から米株式益回りを差し引いたイールド・スプレッドが高く、株価は金利との裁定関係においての割高度が強まっているが、景況感が改善すると期待成長率が高まるので、大幅ではない株高と金利上昇ならば両立しやすい。イールド・スプレッドが多少上昇しても株価が下落に転じるリスクは抑えられるだろう。

また、米利上げ期待が台頭するほどの景況感回復でなければ、長期金利の上昇幅が大きくなる可能性は低い。米金利上昇が大幅でなければ、ドル実効為替が顕著に上昇して米国景気にマイナスに働き始めることもなく、リスクオンの円安が持続しやすいだろう。

一方、インフレ懸念や金融当局者の発言によって米長期金利の上昇幅が大きくなると、株価が下落しやすく、リスクオフの円高になりやすい。ただ、今のところ、米国のインフレ懸念は小さく、金利上昇が株安・円高を招く可能性は低い。今年夏頃にかけて円安が進み、ドル/円が112円程度へと上昇する可能性は十分にあるだろう。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*亀岡裕次氏は、大和投資信託のチーフエコノミスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2019年10月より現職。

(編集:橋本浩)

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