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コラム:米株と長期金利の上昇が導くドル高/円安=亀岡裕次氏

[東京 29日] - これまでは、市場のリスク感覚と為替市場の動向には一定の「関係」が成立していた。具体的には、市場がリスクオン/リスクオフになると、円が他通貨に対して下落/上昇して円全面安/円全面高となり、ドル/円とクロス円全般が上昇/下落するケースが多かった。

 1月29日、これまでは、市場のリスク感覚と為替市場の動向には一定の「関係」が成立していた。具体的には、市場がリスクオン/リスクオフになると、円が他通貨に対して下落/上昇して円全面安/円全面高となり、ドル/円とクロス円全般が上昇/下落するケースが多かった。亀岡裕次氏のコラム。写真は2017年6月撮影(2021年 ロイター/Thomas White)

ところが、近年はリスクオンでクロス円は上昇してもドル/円が下落したり、リスクオフでクロス円が下落してもドル/円が上昇したりするケースが目立つ。これは、円ではなくドルの性質が変化したためだ。

<リスクオンのドル安を強めた米金利低下>

2019年には、多くの通貨の対ドル為替と世界株価が順相関の一方、円の対ドル為替と世界株価は逆相関だった(年間の相関係数は、豪ドル0.37、ポンド0.23、ユーロ0.07、円マイナス0.54)。つまり、株高のようなリスクオン/株安のようなリスクオフになると、ドルは多くの通貨に対して下落/上昇しやすいが、円はドルよりも下落/上昇しやすかった。

だが、2020年には、多くの通貨の対ドル為替と世界株価の順相関が強まり、円の対ドル為替と世界株価が逆相関でなくなった(年間の相関係数は、豪ドル0.78、ポンド0.61、ユーロ0.39、円0.02)。

ドルが、リスクオン時に売られたり、リスクオフ時に買われたりする性質を強め、円と同様の性質を持つ通貨となったわけだ。

これは、コロナショックにより世界経済が打撃を受け、米連邦準備理事会(FRB)が利下げや量的緩和といった金融緩和を行う中で、米長短金利が低下したことに起因する。ドルが低金利化したことにより、リスクオンのドル安やリスクオフのドル高が強まったと考えられる。

<米株価と金利が同調するとドル円も同調>

ただ、リスクオン時にいつも円安よりドル安が優勢となったり、リスクオフ時にいつも円高よりドル高が優勢となったりするわけではない。局面によって、ドル/円の変動パターンは異なる。

例えば、米株価とドル/円は、2020年の3─4月には逆相関(株高とドル/円下落、株安とドル/円上昇)の傾向にあったが、5─6月には順相関(株高とドル/円上昇、株安とドル/円下落)の傾向となった。株価の動きに対するドル/円の動きは、局面により方向性が変わる。

これには、金利の動きが関係している。前者の局面では米株価と米長期金利が順相関であり、後者の局面では米株価と米長期金利が逆相関だった。つまり、米国の株価と金利が同じ方向に動くと、株価とドル/円も同じ方向に動きやすく、株価と金利が逆方向に動くと、株価とドル/円も逆方向に動きやすい。

<米株価・金利上昇の割わりに鈍いドル/円上昇>

そうした観点から見ると、最近は米株価と米長期金利が順相関になるとともに、米株価とドル/円も順相関に傾き、株価とドル/円は同じ方向に動きやすくなっている。

背景には、ホワイトハウスと連邦議会の上下両院を民主党が掌握する「トリプルブルー」となり、財政拡張しやすくなったことがある。上院で民主党が60議席に達していないため、共和党は議事妨害により法案審議を遅らせることも可能だが、民主党は財政調整措置を活用して単純過半数で法案を可決することもできる。

このため財政拡張政策の実行が可能となり、景気回復期待を通じて米株価と長期金利が上昇しやすくなると考えられる。

ただ、今のところ、米株価と長期金利が上昇した割には、ドル/円の上昇が鈍い。クロス円は全般的に上昇しているので、リスクオンの円安が鈍いわけではなく、ドルが弱いためにドル/円の上昇が鈍いのだ。

ドルが弱いのは、リスクオンのドル安だけが原因ではなく、米実質金利の上昇が鈍いことも原因と考えられる。財政拡張期待が米国の期待インフレ率を高め、長期金利を上昇させてはいるが、実質金利の上昇は鈍い。景気が回復しても雇用改善が十分に進むまでは、FRBが金融緩和を続けるとの期待が強いからだろう。

<米財政拡張とコロナ感染減でドル/円上昇へ>

財政拡張期待により米長期金利が上昇しても、金融緩和持続期待により米実質金利の上昇が抑制されることでドル/円の上昇が抑えられる状況は、しばらく続くのかもしれない。

だが、財政拡張は、中長期的に株価や期待インフレ率と長期金利を上昇させるだけでなく、いずれは金融緩和持続期待を弱めて実質金利を上昇させるのではないか。

コロナ禍による供給制約がある中での需要回復は、想定外の価格上昇をもたらすケースがある。コロナ感染が抑制されて需要が回復した場合に、雇用が十分に改善(失業率が十分に低下)する前の段階で、インフレ率が上昇する可能性はあるだろう。

2020年11月3日の米大統領選挙前後に、バイデン氏勝利への期待などから米長期金利は上昇したが、ほどなくして実質金利の上昇が頭打ちとなったのは、米国で新型コロナウイルスの新規感染者数が急増したことが一因だった。この先、冬場を過ぎてワクチン接種が進むにつれ、新規感染者数は減少していく可能性がある。財政拡張に新型コロナの感染鈍化が加われば、雇用改善を伴って景気回復が進みやすくなり、インフレ率も上昇しやすくなるだろう。

今は金融緩和継続を強調している米金融当局者も、景気回復とインフレ率上昇の可能性が高まれば、過度なインフレ期待を抑えるため、遠くない将来に量的緩和を縮小する必要性について言及するのではないか。

そうなると、市場の金融緩和持続期待が後退し、米実質金利の上昇が進みやすくなるだろう。ドル安が弱まるとともにリスクオンの円安が優勢となり、ドル/円は105円を超えて上昇していくのではないだろうか。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*亀岡裕次氏は、大和アセットマネジメントのチーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て現職。

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編集 田巻一彦

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