November 27, 2015 / 7:43 AM / 4 years ago

コラム:米利上げ後のドル円上昇は望み薄か=亀岡裕次氏

[東京 27日] - 各国金融政策の違いで為替相場の見通しが立てられることがある。確かに金融政策は金利変化を通じて為替を変動させる要因だが、中銀が金融引き締めをしている国の通貨がいつも上昇し、金融緩和をしている国の通貨がいつも下落するとは限らない。

為替には、短期金利だけでなく、先行きの金利見通しを反映する長期金利や市場のリスク許容度などが深く関わっているからだ。

海外に目を向ければ、欧州中央銀行(ECB)の追加緩和と米連邦準備理事会(FRB)の利上げが近づいているとみられるが、その通りに金融政策が実行された場合、為替相場はどうなるのだろうか。2004年にFRBが利上げを開始した局面での市場・経済動向と今回を比較しながら、今後の展開を考えてみたい。

<米株価がドル円を左右、FRBの利上げペースにも影響>

まず、米国金利と為替の関係について振り返る。前回の景気拡大局面(01年11月―07年12月、73カ月間)では、FRBは04年6月30日に最初の利上げを行った。

利上げ期待の高まりとともに米金利は4月から上昇したが、米10年国債金利は5月14日の4.90%、米2年国債金利は6月8日の3.10%を高値に低下基調に転じ、ドル円も5月14日の114.9円を高値に低下基調となった。つまり、利上げ開始の約1カ月半前に米10年国債金利やドル円がピークアウトしたのだ。

米2年国債金利は利上げに連動するように再び上昇していく一方で、米10年国債金利は低下基調が続いたが、利回り曲線のフラット化が緩和して10年国債金利が上昇基調に転じた後の05年10月(利上げ開始から16カ月後)に、ようやくドル円は114.9円の高値を超えた。

06年6月にかけて2年物や10年物の米国債金利はともにフェデラルファンド(FF)金利の高値5.25%と同程度まで上昇するなか、ドル円は05年12月に121.4円の高値をつけた。結果的に10年などの米長期金利動向がドル円を左右した。

今回も同様のことが言えそうだ。米2年国債金利は11月6日に0.96%の高値をつけ、現在もその近辺にある。一方、米10年国債金利は同日に6月高値よりも低い2.37%まで上昇後、2.22%へと反落している。そして、ドル円の動きは10年国債金利と似ている。短期の米金利は利上げ過程で上昇しやすいが、それだけでドル円が上昇するとは限らない。景気が好転して市場が織り込むFRBの利上げペースが高まらないと、長期の米金利は上昇せず、ドル高・円安は進行しにくいだろう。

次に、リスク許容度を反映する株価と為替の関係を振り返る。米利上げ開始前後の米株価とドル円の動きに順相関(リスクオンで円安、リスクオフで円高)は認め難く、ドル高・米株安、ドル安・米株高という逆相関のケースが比較的多くみられた。世界景気拡大を背景とするリスク選好がドル売り・高金利通貨買いを招き、株高時のドル高・円安の進行を抑える一因となった。

また、米本国投資法が04年10―12月のドル安、05年のドル高に寄与し、株価に影響した面もあった。ただし、長期的には景気拡大で株高が続く状況だったことが利上げ継続を可能にし、最終的に利上げ前よりもドル高・円安を進める要因になったとも考えられる。

今回は、米株価とドル円が明らかに順相関だ。世界的に景気が減速するなかで比較的景気が好調な米国のドルが買われやすい傾向にあるが、そうした状況下で株高時にドル高・円安、株安時にドル安・円高が進みやすいことがわかる。ドル円の動向は、株価動向にもかかっているのだ。

利上げしても株価が上昇するようなら利上げは進みやすく、米長期金利とドル円は上昇しやすい。逆に利上げすると株価が下落するようなら利上げは進みにくく、米長期金利とドル円は下落しやすい。どちらになるかは、景気動向と株価のバリュエーションがカギを握ろう。

<株高抑制で米長期金利とドル円も上昇しにくい>

米国の製造業は、新興国を中心とする世界景気減速の影響をすでに受けている。米供給管理協会(ISM)の製造業購買担当者指数(PMI)は10月に50.1まで低下し、拡大・縮小の分岐水準に接近した。マークイット発表の米製造業PMIは10月に改善したが、11月は再び悪化して13年10月以来の低水準となった。これは、ドル高による米製造業の競争力低下だけが原因ではなく、世界的な需要減退の影響を受けているからだ。

米製造業PMIとの相関が高い経済協力開発機構(OECD)加盟国と主要新興6カ国の景気先行指数は、長期トレンド(=100)を大幅に下回り、悪化が続いている。米製造業の景況感は悪化傾向が続く可能性が高い。

外需不振でも米景気が堅調に推移してきた理由は、個人消費を中心に内需が成長を支えてきたからだ。製造業PMIが悪化する一方で、非製造業PMIは堅調に推移してきた。だが、個人消費にも資産効果の面で不安要素がある。米国の住宅価格と株価を加重平均した資産価格の3年移動平均乖離(かいり)率はプラス幅が縮小しており、消費者センチメントが今年に入って悪化した一因とみなせる。資産効果がさらに減退すると米消費者は財布のひもを締めるようになり、米景気減速の引き金になりかねない。株価動向が米景気を左右する要因となるだろう。

株価のバリュエーションは株価動向を左右する一因となる。米10年国債金利からS&P500種株式益回りを差し引いたイールドスプレッドはリーマン危機前よりも低い。これは、米国の潜在成長率とともに期待成長率が低下したこと、世界経済の成長が鈍化してリスクプレミアムが上昇したことが原因だ。イールドスプレッドが13年以降の高値を更新して上昇する可能性は低いだろうし、長期金利が大きく低下しない限り、株式益回りの低下余地、つまり株価収益率(PER)の上昇余地は小さいことになる。

それでも1株当たり利益(EPS)が増加すれば株価の上昇余地は生まれるが、米国企業の予想EPSはドル高や世界景気減速の影響を受けて減少傾向にある。つまりは当面、米株価の上昇余地は限定的で、資産効果の減退が続く可能性が高い。雇用は増えても個人消費が減速するリスクがある。利上げしても株価上昇と景気回復が進み、利上げも続いて米長期金利とドル円が上昇するという展開にはなりにくいだろう。

なお、09年6月に始まった米景気拡大期間は15年12月で78カ月となるが、戦後11回の平均は58カ月、1975年以降5回の平均は71カ月、82年以降3回の平均は95カ月である。

<インフレ期待低迷も米金利とドル円の上昇を抑制>

米国のインフレリスクが高まって長期金利とドルを押し上げる可能性も低い。FRBが12月に利上げする場合、その理由は労働需給の引き締まりから賃金上昇を通じたインフレが広がるリスクを抑えようとするものだろう。ただし、14年半ば以降、ドル高(実効為替上昇)と商品安が米国の期待インフレ率と現実のインフレ率を低迷させてきた。2003―06年とは状況が大きく異なる。

仮に米景気が減速して株価や長期金利が下がっても、リスクオフのドル買い・高金利通貨売りからドルの実効為替は下落しにくいだろう。また、世界景気減速が引き続き商品安に作用しやすい。米国のインフレ期待が低迷した状況は続き、名目・実質金利の上昇は進みにくく、ドル円も上昇しにくいとみられる。

*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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