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コラム:米利上げ加速、日本の外需グロース株とインバウンド銘柄は好対照の展開に=池田雄之輔氏

[東京 15日] - グローバル株式市場は再び米国発の「インフレショック」に見舞われている。9月13日発表の8月米消費者物価指数(CPI)は食品・エネルギーを除くコアベースで前月比プラス0.6%と、市場コンセンサスの同0.3%を大幅に上回るサプライズとなった。

 海外景気・金融政策いずれの面からも影響を受けにくく、日本独自の強みがあるテーマとしては、リオープン/インバウンドの魅力が一層高まっている。写真は、羽田空港に到着した香港からの観光客を出迎える日本の商店・観光会社の人々。6月26日撮影(2022年 ロイター/Issei Kato)

米国株は、欧米両中銀の0.75%利上げについて「8日の欧州中銀(ECB)は乗り切った、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に対しても織り込んだ」と、悪材料出尽くしムードで急反発していたところだった。

<米CPIショックの内実>

しかし、楽観シナリオの大前提だった「米インフレピークアウト」が実現せず、足元をすくわれた格好だ。

6月10日にもCPIおよび期待インフレ率(ミシガン大調査)が上振れとなり、グローバル株は急落を強いられた。株式市場はインフレシナリオの見立てが甘過ぎるのか。そうは言いきれない面もある。

米インフレ指標が市場コンセンサスを上回っている確率を数値化した「サプライズ指数」は低下傾向が強まっており、市場がインフレ面で失望する頻度が下がっていたのは確かだ。同指数にさらに先行する形で、ISM製造業サプライヤー納期指数が低下傾向を維持していることも注目される。

これは供給制約が徐々に解消することによって財の需給逼迫が和らいでいる方向性を示している。今回のCPIはさておくとしても、インフレ指標は上振れしにくくなってくるという楽観シナリオは中長期的には生きている。

しかし、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が8月26日、ジャクソンホールから送ったメッセージを再度思い出す必要がある。「インフレファイター」としての決意表明の様相を呈したあの講演は、「お説教」にも近いスタイルだった。

導入部分でいきなり「メッセージは直接的だ」と言及。インフレ鎮静化と安定が「最優先(overarching)」、「基盤(bedrock)」、「無条件(unconditional)」だと、従来になく強いキーワードで断言した。

チャートも一切使わず(昨年は7個)、市場にハト派的な解釈をはさむ余地を与えなかった。一方的なプレゼンスタイルで、景気悪化の犠牲もいとわない強硬姿勢を印象付けた。

<FRBのJOLTS重視が鮮明に>

念頭にあったのは、賃金上昇率が高止まりするリスクだったとみられる。労働需給としての指標性が高く、イエレン前議長が「ダッシュボード」にも組み入れていた雇用動態調査(JOLTS)の未充足求人率をみると、7%前後という異例の高さが過去1年間続いている。

賃金指標として、アトランタ地区連銀が作成している賃金上昇率トラッカーに着目すると、9カ月程度の時間差を伴って求人率の影響を受けていることがわかる。JOLTSは今後、米金融政策ひいては日米株価の先行きを占う重要指標だろう。頻度の高い指標としては週次の新規失業保険申請件数も、常時点検対象となる。

現時点でFRBは、米国の景気および労働需要の減速に満足しておらず、ブレーキを緩められない状況と考えられる。年末商戦に向けても過熱は回避したい意向だろう。FRB高官は明言こそしないものの、株高による消費喚起効果を歓迎していない可能性がある。

日本の企業業績の観点からは、米国の耐久財消費の行方は重要である。コロナ禍で巣ごもり等による「超過消費」がPC関連やAV機器などで発生している点には注意したい。

<グロース株とインバウンド銘柄>

米金融政策からの日本株インパクトをどうみるか。8月後半から米実質金利が再上昇するとともに、グロース株が苦戦しているが、目先は調整余地が残っている。日本株のバリュー/グロース相対株価が織り込んでいる米実質金利水準は、過去の相関関係をベースに判定すると、0.2%程度にとどまっており、実際の1.0%前後とは大きなかい離が生じているからだ。

米国株の株価収益率(PER)が米実質金利との見合いで割高となっていることを合わせて考えると、目先、米国株に連動しやすい日本のグロース株には調整圧力が働きやすい状況と言える。

一方、海外景気・金融政策いずれの面からも影響を受けにくく、日本独自の強みがあるテーマとしては、リオープン/インバウンドの魅力が一層高まっている。我々は2023年半ばにも、訪日外国人客数がコロナ前の水準(年間3200万人ペース)を回復すると見ていたが、政府のインバウンド促進姿勢はここにきて想定以上と言える。

株価の観点からは、関連銘柄が織り込む訪日外国人客数の水準が3000万人を依然下回っていると計算している。コロナ前に市場が急拡大していたことも踏まえ、アップサイドは大きいと見ている。

なお、欧米株式市場では空運など旅行関連銘柄が低迷しているが、もともと観光産業が成熟しており、成長率が低かった点で日本とは状況が異なる。訪日外国人客数は2012年からコロナ直前の19年までの7年間で、実に3.8倍という急成長の途上にあったのだ。

<株高なき円安の意味>

為替と株価の関係についても整理しておきたい。ドル/円は1998年8月以来の円安水準である140円超えに至った一方、日本株は年初からのレンジ相場が続いている。過去20年間、円安は株高を伴うことが多かったが、今回はそうなっていない。

株価に対する「円安効果」は、円安そのものの理由によって大きな差が表れる。1)日銀のサプライズ緩和型、2)世界景気拡大型、3) インフレ加速型─と3タイプに分類した場合、今回は3)に相当することになる。

1)は流動性供給によるバリュエーション上昇(2013─14年)のアベノミクス初期)、2)は外需(数量)見通しの改善をともなう業績引き上げ(典型例は2016年後半のトランプラリー)がそれぞれ見込める。

これに対し、3)の円安による株高効果は、主に為替換算と円建て輸出額の増加という価格面での押し上げに限定され、数量効果が発揮されにくい。現状では、FRBがインフレ退治を最優先していることにより、むしろ外需見通しは悪化している面がある。「株高なき円安」は今後、日本企業が直面する「向かい風」の予兆と言えるかもしれない。

野村ではドル/円の一層の上振れリスクはあり得ると想定しつつも、150円を超えるような持続的なドル高・円安局面になるとは見ていない。金利先物市場ではすでにFRBによる4.25%までの利上げ局面が織り込まれており、日米金利差の面からの追加的なドル高作用には限界が近づいていると考えている。

足元でドル/円は当面の利上げ局面だけを見に行っている状況だが、ひとたび利上げのピークに近づけば2024年以降の利下げを織り込みながら、徐々にドル安・円高に転じるというメインシナリオを描いている。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*池田雄之輔氏は、野村証券の日本のマクロ、株式投資戦略を統括するチーフ・ストラテジスト(マネージング・ディレクター)。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫してマクロ経済調査を担当し、2019年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「モーニングサテライト」に定期的に出演中。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

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