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コラム:23年末のドル125円・日経平均3万円、米中のピボットが導火線に=池田雄之輔氏

[東京 9日] - 2022年の流行語大賞の「金融市場版」があったら何が選ばれるか──。「ピボット」が最有力ではないだろうか。今年急浮上したこの用語は「転換」と訳すのが標準だが、軸の周りをくるりと回転するという元の意味を踏まえると、方針転換ないし「豹変」(ひょうへん)のニュアンスがある。

 2つの「豹変」の実現可能性をどう見積もるかによって、2023年の株価シナリオが、大方決まってしまうと言えるかもしれない。池田雄之輔氏のコラム。写真はドルと円の紙幣。2017年6月撮影(2022年 ロイター/Thomas White)

このキーワードがにわかに使われるようになったのは今年3月、米連邦準備理事会(FRB)が7年ぶりの利上げ開始に踏み切った直後からだった。市場は、早々にdovish pivot つまり「ハト派転換」を話題にし始めた。この用語は8月、11月にも多用され、そのたびに、日米株価はバリュエーション主導の株価回復を演じた。

続いて10月以降、2つめの「ピボット」は中国共産党大会の閉幕以降に急速に流行した。ここでは、ゼロコロナ政策の方針転換への市場の期待が盛り上がり始めたのである。11月から中国株は急反発を示し、世界的に株価上昇のけん引役となった。

<23年は「円高・株高」現象か>

これら2つの「豹変」の実現可能性をどう見積もるかによって、2023年の株価シナリオが、大方決まってしまうと言えるかもしれない。

「株価はどう決まるか」という本源的な問いへのシンプルな答えは、「企業業績とバリュエーション」、あるいは「EPS(1株当たり利益)X PER(株価収益率) の掛け算」である。

さらに、2つの項目にマクロ面から大きな影響を及ぼす最大の要因をそれぞれ挙げれば、企業業績=世界景気、バリュエーション=金融環境、と整理できる。そして日本株にとっての2大要因といえば、「中国景気と米金融政策」と単純化しても間違いではない。

パウエルFRB議長、中国の習近平国家主席の2人が方向転換すると、何が起きるか。「2つの豹変」の実現は、日本市場において「円高・株高」という、比較的珍しい組み合わせをもたらす可能性が高いとみている。

まず、米金融政策姿勢が、タカ派からハト派に転換すると仮定した場合、日米金利差は縮小するため、ドル安・円高に作用することに異論は少ないだろう。加えて、引き締めスタンスから解放されれば、日米ともに株価はバリュエーションの面から支えられやすいと見込まれる。

中国経済のリオープンも、実現すればグローバル景気・企業業績見通しを改善させ、株高要因になる。やや複雑なのは、ドル/円レートへの影響だが、1) 日本のインバウンド需要への貢献(経常黒字拡大)、2)人民元高による円およびアジア通貨への連れ高効果、3)供給ボトルネック解消によるインフレ押し下げ(日米金利差縮小)──という3点からは、いずれも円高方向への作用が見込まれる。

「円高・株高」は、過去の経験に照らすと両立しにくいように思われるかもしれない。しかし、2020年1月のコロナショック以降、「円安・株高」ないし「円高・株安」という従来の関係はすでに弱まっている。

生産拠点の海外シフトなどによって「日本企業の体質が変わった」という緩やかな影響ではなく、コロナ禍がもたらした景気―金融政策のずれが根本原因である。

さらに、その背後にはモノ消費とサービス消費の逆行、という世界共通の異常事態がある。

コロナ禍は旅行・外食などのサービス消費の激減と、「巣ごもり」による家具・家電製品など耐久財需要の急増をもたらした。FRB、欧州中銀(ECB)、日銀はいずれも、危機に陥ったサービス産業(商店街の零細企業・店舗を含む)に寄り添い、マクロ経済全体を防衛する観点から、積極的な量的緩和策(日銀はETFの購入増額)を打ち出した。

その結果、日米金利差は急激に縮小した一方、上場企業の業績はデジタル関連の財・サービスに「巣ごもり特需」の追い風が吹き、2020年度下期からV字型の業績回復をたどった。20年4月から12月にかけて、円高・株高の相場が成立している。

逆に、2021年9月から今年10月にかけての基調は円安・株安となった。欧米ではリオープンが進ちょくするなかでインフレの波が財からサービスへと広がり、日銀を除く主要中銀の急激な利上げを招いた。

日米金利差拡大によりドル/円は、150円まで円安が進む。しかし、上場企業の業績は巣ごもり特需のはく落、中国サプライチェーンの機能不全、部品・資材不足などにより減速が目立ち始めた。

コロナショック以降、為替と株価の関係は、「円高・株高」から「円安・株安」と転換したが、2023年は「円高・株高」への再転換が有力だろう。すでに今年11月以降、その兆候が見え始めている。

注目したいのは海外投資家の動きだ。「円高・株高」が進行する局面では、ドルベースの投資家(主に長期運用主体)にとって日本株の魅力が大幅に高まる環境だからだ。実際、11月には1ドル148円から138円へと10円の円急騰が生じたにもかかわらず、この間の外国人投資家の日本株買いは1兆2873億円の買い越しと、20年11月以来の規模を記録している。

<注意したい期待先行のリスク>

ただし、この冬場は日本株がいったん逆風にさらされるリスクが残っている。「2つのピボット」には「期待先行」の面が見られるためだ。

第1に、FRBは年末商戦にしっかりとブレーキがかかったことを確認するまでは、株高による消費浮揚効果を歓迎せず、本格的なハト派転換を控えたい意向がうかがえる。

第2に、中国リオープンから日本の輸出セクターへの波及の遅れがある。長江商学院のサーベイによると、中国企業の設備投資意欲は今年6月の上海ロックダウン解除後も停滞しており、11月には腰折れの様相を呈した。機械など日本からの輸出も来年の春先までは弱含みとなる公算が大きい。

第3に、日本企業全体としての業績下方修正リスクがある。22年7─9月期決算では、22年度下期に利益率が大幅改善することが会社予想の前提になっていることが明らかになった。巣ごもり特需のはく落とともにモノの価格転嫁は計画未達となる一方、原材料コスト上昇の影響は時間差の関係で23年1─3月期までは利益下振れ要因となる公算が大きい。

<日本株、ヘルスケアなど3業種に注目>

日本株が上昇基調に入る時期としては、世界景気への回復期待が安定する2023年春先を想定している。その理由として、1)主要国の年末商戦後の在庫調整、2)春節明け後のゼロコロナ政策撤廃による中国景気回復、3)北半球の気温上昇に伴うエネルギー及び地政学リスクへの警戒感の後退──といった要因が挙げられる。

2023年の有望セクターとしては、ヘルスケア、ロボット・空圧機器、食品の3業種に注目している。2023年は年間を通じて世界的なインフレ傾向は沈静化し、FRBなど主要中銀のハト派化が進みやすいことが総じてグロースを選好する理由となる。

一方、輸出の回復については春先以降にずれ込むことを踏まえ、まずは海外景気に対するディフェンシブ性を優先したい。ヘルスケアは、グロースプラスディフェンシブという2つの特性を兼ね備えている。食品はディフェンシブ、ロボット・空圧機器はグロースという基準に合致する。

「円高・株高」のシナリオを描き、2023年12月末のドル/円は125円、日経平均株価は3万円を予想している。

編集:田巻一彦

*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

*池田雄之輔氏は、野村証券の日本のマクロ、株式投資戦略を統括するチーフ・ストラテジスト(マネージング・ディレクター)。1995年東京大学卒、同年野村総合研究所入社。一貫してマクロ経済調査を担当し、2019年より現職。「野村円需給インデックス」を用いた、円相場の新しい予測手法を切り拓いている。5年間のロンドン駐在で築いた海外ヘッジファンドとの豊富なネットワークも武器。現在、テレビ東京「モーニングサテライト」に定期的に出演中。著書に「円安シナリオの落とし穴」(日本経済新聞出版社)。

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