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コラム

コラム:「グレート・アンワインド」は本当に恐ろしいか

[ロンドン 28日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミック対策で打ち出した大規模緩和を巡っては、主要中央銀行が単に巻き戻しを示唆するだけで、世界の金融市場で資産価格が急降下するのではないかという懸念がこの1年、続いてきた。しかし今のところ、現実は切迫感とはそこそこ無縁でいられている。

 新型コロナウイルスのパンデミック対策で打ち出した大規模緩和を巡っては、主要中央銀行が単に巻き戻しを示唆するだけで、世界の金融市場で資産価格が急降下するのではないかという懸念がこの1年、続いてきた。写真はさまざまな紙幣。2016年1月撮影(2021年 ロイター/Jason Lee)

米連邦準備理事会(FRB)の複数の高官は直近で、経済はなお回復途上にある上に物価高騰は一時的にすぎない可能性が高く、緩和アクセルを弱めるのは時期尚早だとの見解を示した。ただクラリダ、クオールズ両副議長らは、巨額の債券買い入れをいつ縮小するか議論を始める時期になったのではないかとも指摘した。

もしFRBが既に、緩和をいつ縮小するかについて「議論のための議論」に乗り出しているとすれば、実際の縮小時期がまだずっと先だとしても、FRBの事務方は舞台裏では、バークレイズがあだ名を付けたところの「グレート・アンワインド(大いなる巻き戻し)」に向けてやる気を高めている可能性が高い。

しかし、カナダ銀行やニュージーランド準備銀行など他の中銀が先行して今後の金融引き締めを示唆しているにもかかわらず、ここ数週間の株式と債券が比較的落ち着いているのは驚きに値する。

この1年、緩和巻き戻しを巡る不安の震源地となってきた米国債市場でも、5年債と10年債の利回りはほぼ2カ月間、実質的に横ばいで推移。債券投資家の不安心理の度合いを示すMOVE指数は2月以降の最低水準となり、株価は最高値圏に戻りつつある。

「ポスト・ロックダウン」の経済活動の急回復と並行して、FRBがテーパリング(緩和縮小)に向け地ならしに忍耐強く取り組んでいく限り、全ての想定は安心して市場に織り込まれていくだろう。

だが2013年のいわゆる「テーパー・タントラム」に比べ、そもそも今回の巻き戻しに対する投資家の懸念ははるかに弱いかもしれない。FRBがその後のプロセスを極めてスムーズに管理運営してきたというのがおおむね理由とみられる。

直近の量的緩和解除を経験した市場の熟達者なら、債券買い入れの縮小だけでなく、利払いで得られる資金や、満期になった保有債券の再投資をいつやめるかに至るまで、FRBが微妙な形で、しかし重要な意味を込めて発信したシグナル全てを覚えているだろう。

バークレイズのエコノミストチームはこのほど公表した年次「エクイティ・ギルト」調査の一環として、今回の緩和巻き戻しがどう進行するかのシナリオを複数提示。米財務省がパンデミックに関連してさまざまなレベルの債務を負担してきたことや、予想物価を巡る混乱が生じる可能性があることで、以前とはリスクの種類が異なることは認める。

FRBが8兆ドル近くに膨れ上がったバランスシートをどうやって縮小するのか。これをシミュレートする中で指摘されたある事柄で、債券市場で少なくとも長期ゾーンが比較的落ち着きを維持していることを説明できる。FRBの保有米国債では残存5年未満がかなりの部分を占めるのだ。

バランスシートの対国内総生産(GDP)比を現在の約40%からパンデミック前の19%まで再び引き下げるとして、実際に国債を売る必要はないかもしれない。満期到来分の再投資をしないことさえ決めれば、バランスシート全体はその後数年でかなり急速に縮む。

仮に来年末にFRBが差し引きで資産を積み増すのをやめると想定すると、保有米国債の5割がその後4年以内に満期を迎える。1年以内でも最大20%が償還される。

バークレイズの基本シナリオである「秩序ある巻き戻し」シナリオに基づくと、予想物価が落ち着きを維持するならば、FRBは2025年まで満期到来分の再投資を継続した上で、30年までにバランスシートをパンデミック前の規模に戻せる。

「最も確率が高いシナリオは、FRBが長期債を売らず、段階的に再投資を打ち切る展開だ」というのがバークレイズのエコノミストチームの結論だ。そうすれば金融政策運営の主要手段は政策金利や、超過準備に適用する付利、リバースレポ金利になっていくという。

まさにそうした点に関して、FRBは毎月800億ドルの米国債買い入れのテーパリングに向けた「議論のための議論」をしているのかもしれない。FRBは政策金利変更が23年より後になるとも示唆し続けている。

シティのストラテジスト、エブラヒム・ラバリ氏の基本予測シナリオは、8月のカンザスシティー地区連銀主催の経済シンポジウムで「テーパリングの警告」が発せられることだ。ただ、テーパリング観測を巡る最近の市場反応が乏しいことから、そうしたテーパリング関連の発言の大半は市場にもう織り込まれた様子もうかがえるという。もう少しはっきりとテーパリングをにおわせる場合には、市場反応は幾分大きくなる可能性も高いとしている。

当然ながら、FRBが主張するところの、ポスト・ロックダウンの物価高騰は一時的だとの見方に疑念が生じるような「混乱シナリオ」も存在する。そうした事態になるとインフレ期待が定着しかねず、FRBはより積極的な行動を通じて市場の信頼を取り戻す必要が出てくるかもしれない。

モルガン・スタンレーのチーフエコノミストだったスティーブン・ローチ氏はFRBの勤務経験もある。同氏は今週、1970年代にFRBのバーンズ議長が物価高騰を一時的と判断したのが「世紀の大誤算」だっが、今回も同じ「におい」が漂い続けていると主張する。

もっともバークレイズの見立てでは、混乱シナリオが実現する場合でも、FRBは単に満期到来債券の再投資をより早めの23年末に打ち切り、バランスシート規模のパンデミック前水準への縮小ペースをより早めるだけで、債券売りには動かない。

これからの数年は無数の「if」や「but」がさまざまな局面になお存在していく。米国の財政支出や債務管理政策はどう変化していくのか。景気回復の持続性と物価情勢はどうなるか。他の中銀はどう動くのか。FRBは政策金利に関してどのようなシグナルを送るようになるのかといった具合だ。そうだとしてもFRBのバランスシート調整は、しばしば考えられるよりも、すんなりと進むのではないだろうか。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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