September 28, 2018 / 7:38 AM / 24 days ago

アングル:高齢者主人公の漫画に脚光、80代の恋愛も リアルな姿に共感

[東京 28日 ロイター] - 漫画が文化の1つとして認められ、国際的にも高い評価を得ている日本で今、最も新しいジャンルに注目が集まっている。高齢者を主人公にした漫画、それも、かわいそうな弱いお年寄りではなく、生き生きと人生を謳歌(おうか)し、冒険にさえ挑む高齢者を描いた作品だ。

 9月28日、漫画が文化の1つとして認められ、国際的にも高い評価を得ている日本で今、最も新しいジャンルに注目が集まっている。写真は『傘寿(さんじゅ)まり子』の作者、おざわゆき氏。8月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

日本社会の高齢化が進むにつれ、こうした漫画の需要が高まっている。主人公と同年代の読者だけでなく、将来の自分の姿と重ねあわせようとする比較的若い人たちにも、その人気は広がっている。

学習院大学法学部の遠藤薫教授(社会学)は、高齢化が進む日本社会では「若者中心の社会とは異なる新しい社会的問題や個人の悩みが、大きく浮かび上がってきている。そんな高齢社会のリアリティを描く漫画が、作者からも読者からも求められている」と話す。

しかも、現在60代以上の年代は「子どものころから漫画に親しみ、青年期に漫画の市民権を拡大した漫画フロンティアの世代。自分たち自身の表現として、漫画というメディアはぴったりとしていると感じられているのだろう」という。

『傘寿(さんじゅ)まり子』は80歳の主人公、作家の幸田まり子が、4世代が同居する窮屈な家を出て、一人暮らしを始めるストーリー。ネットカフェに泊まったり、昔あこがれていた男性と再会し、恋に落ちたりもする。

作者のおざわゆき氏は「私が想定していたのは、何かを切り開いていくようなおばあちゃん。元気があって、問題を何とか自分なりに解決していくようなおばあちゃんを描きたかった」という。

そして、漫画の役割について「ニュースを見ていると、年を取ることに暗い話題ばかりが多くて、みんなこれからどうなるんだろうなという不安を持っている」。こういう人たちや「独身で過ごしている人で、今後、家庭を持たないかもしれないと思っている人たちが、1人で生きることを、もやもやと考えるときに、まり子を読んで一筋の光が見えた、私もこんなふうに生きたいと言ってくれる。そこでちょっと気持ちが軽くなる、そういう存在のマンガになっているのではないか」との見方を示した。

<より身近な存在>

これまで、漫画はスポーツ、料理から歴史、戦争まであらゆる題材を扱ってきた。しかし、高齢者はその中では脇役で、愛されるおばあちゃんや介護が必要な老人、あるいは尊敬される人物として描かれてきた。

1990年代初めの漫画『ジジメタルジャケット』では、ヘビーメタルバンドを組む老人たちが描かれているが、彼らは特別な存在だ。

兵庫教育大学大学院助教の永田夏来氏は、この漫画について「高齢者は出てくるが、サプライズとしての要素。老人だがかっこよくてちょっと変わったスーパーヒーロー」だったと話す。

一方、鶴谷香央理氏の『メタモルフォーゼの縁側』では、70代の女性とオタクな10代の少女がボーイズラブ漫画によって結びつき、友情を育てる。携帯電話でメッセージをやりとりし、カフェ巡りをし、漫画のファンイベントに出かける。傘寿まり子の主人公は80歳だが、孤独を感じて家出する心情は万国共通だ。

鶴谷氏は、漫画に登場する高齢者は、以前は「ステレオタイプな年寄り像か、それをひっくり返したキャラクターだった」が、最近では、より現実に近い身近なキャラクターになったと分析する。鶴谷氏の場合、亡くなった祖母の思い出を手がかかりにしていると言う。 

1983年から続く「島耕作」シリーズで知られる漫画家・弘兼憲史氏。主人公の島耕作は現実世界と同じように年を取り、白髪となって電機メーカーの会長まで上り詰める。

弘兼氏は1995年に、中高年層を描く漫画の草分けとなる「黄昏流星群」の連載を開始した。この漫画は高齢者の恋愛や、それにまつわる人間ドラマを描いている。

「普通にその辺で暮らしているおじちゃん、おばちゃんたちが、普通に恋をするというのを描いてみたかった」と弘兼氏はロイターのインタビューで語った。「読者は、自分の身近な話題を欲しがるので、こういう中高年のラブストーリーというのは、ちょうどいい時代かと思っている」。

このシリーズを始めたきっかけは、同年代の友人と居酒屋でお酒を飲んでいる席で、人生50年ほど生きてきたが、やり残したことはないかという話になった時、みんなが「もう1回だけ、燃えるような恋がしてみたい」と話したことだったという。

「年を取ると、夢を持たないし希望も持たない、もうこれ以上何もしなくていいやと思う人が増えてくるが、そうではなく、まだまだ恋もできるし、いろんなことができますよ、と一種のエールを送る漫画になっている」と弘兼氏は話した。

<増える需要>

文化庁の賞も受賞した『黄昏流星群』はすでに57巻まで発行され、都内の書店では、書棚に並ぶとたちまち売れていくという。

その他の中高年向けの漫画も、売れ行きは好調だ。講談社によると、『傘寿まり子』の販売部数は、電子版を含み50万部に上っている。

鶴谷氏の漫画の読者の1人は、SNSに「あの歳で何か新しいことを始めることは本当にすごい。うらやましい」と投稿した。別の読者は、5人からこの漫画を読むよう勧められたと投稿した。

TSUTAYAの書店販売員・栗俣力也氏によると、高齢者漫画は昨年ごろから人気が出始め、「今年になってから、それが顕著に出てきた」という。読者の年齢層は高齢者に限らず若い人も含まれ、性別では女性と男性の偏りがない。

タイトルを言って作品を探す客もいれば、「高齢者が主役の漫画はあるか」という聞き方をされることもある。

栗俣氏は、この傾向は続くどころかさらに増えていくと予想する。現在は、需要に対して供給が間に合っていない状況で、高齢者漫画のコーナーは今は設けていないが、「これから数が増えてくれば、作らなければならない」とみている。

人気の理由はなにか。学習院大学の遠藤氏は言う。「現在の高齢者漫画には、人生の機微や繊細な心の動き、思うようには行かない人生への洞察、自分も含めて弱いものたちへのいたわりが豊かに描き出されている」──。

そして、こうした漫画作品が多く描かれることにより、暗い将来として考えられがちな「高齢社会」を、互いに思いやり合い、助け合い、長い人生経験を踏まえた人びとの絆を大事にする、優しく心豊かな社会にできるかもしれない、と遠藤氏は指摘した。

 9月28日、漫画が文化の1つとして認められ、国際的にも高い評価を得ている日本で今、最も新しいジャンルに注目が集まっている。写真は弘兼憲史氏、9月撮影(2018年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Elaine Lies、宮崎亜巳 編集:田巻一彦

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