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焦点:ロシア製ワクチン、データ不備で欧州商機逃す可能性も

[パリ 13日 ロイター] - ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の承認が欧州などで遅れている背景には、欧州連合(EU)の規制に基づき規制当局が求めた実証データを開発者が提供できていない実態があるとみられる。現時点でスプートニクVの安全性と有効性に疑いは生じていないが、データが提出されないことによる審査の遅れにより、ロシアは競合メーカーに主要市場を奪われる可能性がある。

 7月13日、ロシア製の新型コロナウイルスワクチン「スプートニクV」の承認が欧州などで遅れている背景には、欧州連合(EU)の規制に基づき規制当局が求めた実証データを開発者が提供できていない実態があるとみられる。写真はオランダ・アムステルダムの欧州医薬品庁(EMA)の建物。2020年12月撮影(2021年 ロイター/Piroschka van de Wouw)

<データ不備で審査に数カ月の遅れ>

ロイターは先月、欧州医薬品庁(EMA)が6月10日までにスプートニクVの臨床試験データを提出するよう開発者側に求めたが期限が守られず審査が遅れたと報じた。EMAは6月初めの時点で製造上のデータをほとんど受け取っておらず、提供された臨床データも不完全なものだった。

EMAに近い筋の情報に基づくと、提出されていない臨床データの中でも特筆すべきなのは、治験中に発生した副反応を記録した「症例報告書」だ。偽薬を投与された人々の反応をどう追跡したかも報告されていないという。

EMAは3月にスプートニクVの正式審査を開始しており、当初は5月か6月に使用承認の可否を決める予定だったが、関係者によると、審査完了は夏以降にずれ込むと予想されている。

これとは別に、スプートニクVが承認された場合、国内で使用・製造するかどうかを見極めるためにフランスがモスクワに派遣した科学者チームの調査でも、ワクチン製造の基材、いわゆる「マスターセルバンク」がEUの規制を順守していることを示すデータが得られなかった。

EMAは審査の詳細についてのコメントを控えつつ、全ての申請者に同じ基準を適用しており、コロナワクチンの承認には「安全性、有効性、品質について詳細な情報」が必要になるとの見方を示した。

データの不備は欧州以外でもスプートニクVの拡販に影響を与えており、ブラジルでは州知事らから要請のあった緊急輸入申請の許可が政府から下りず、緊急承認などで購入を急いだスロバキアやハンガリーでも保健当局はデータが不十分だったことを指摘している。

<安全性に疑いなし、問題は「経験不足」>

EUの審査に詳しい筋によると、スプートニクVが安全で有効なワクチンであることを疑う理由は見つかっていない。2月に医学誌「ランセット」に掲載された国際的な科学者らの調査結果では、有効性が90%を超えることが示されている。

スプートニクVを開発したロシア国立ガマレヤ研究所とやり取りした複数の人物は、データ提供が繰り返し遅れている原因は、外国当局との交渉経験の不足にあるとみている。「(ガマレヤの科学者らは)EMAのような規制機関と協力するのに慣れていないようだ」(関係者)という。

スプートニクVの海外販売に携わる政府系ファンド「ロシア直接投資基金(RDIF)」は、前述のロイターの記事について、偽情報キャンペーンの一環としてスプートニクVに害を与えることを目論む匿名情報を基にした「虚偽の、不正確な主張」を含んでいると反発。根拠は明らかにしなかったが、スプートニクVが「西側の医薬品ロビー」によって攻撃を受けている可能性を示唆した。

RDIFによると、スプートニクVは60カ国以上で登録されている上、アルゼンチン、メキシコ、ハンガリーなどこのワクチンを既に使用している国々の調査により、安全性と有効性が示されており「深刻な有害事象は報告されていない」という。

フランス科学者チームの指摘については、「スプートニクVのセルバンクはEMAの要件を完全に順守している」と説明。EMAと緊密に協力しており、EMAの調査団が製造施設を訪問済みで、「既に完了した査察の結果、何ら大きな批判的コメントを受け取っておらず、このワクチンの安全性と有効性に疑問を呈する問題提起はなかった」としている。

<ウシ胎児血清巡る疑惑>

スプートニクVは、EUに承認申請がされる前から障壁に直面していた。

昨年11月にフランス政府が派遣した科学者チームの調査結果に詳しい関係者4人のうち3人によると、調査した書類にはマスターセルバンクを培養するために使用されたウシ胎児血清の由来が記されていなかった。ウシ胎児血清は世界中でワクチン開発に広く利用されているが、1980年代に牛海綿状脳症(BSE)が拡大して以来、欧州と北米の当局は開発者に対し、安全な素材を使っていることを示すよう義務付けた。

ここでもやり取りは円滑に進まなかったとみられ、関係者4人のうちフランスの科学者セシル・チェルキンスキー氏は、マスターセルの安全性について質問した際のロシアの開発者側の回答に「不満」を感じたと述べている。

チェルキンスキー氏はその後、ロイターの取材を受けた5月以降、スプートニクVがマスターセルとウシ胎児血清に関して潜在的な問題を抱えていることは「科学的に反証された」と説明。「スプートニクVが多くの国々で国民一般に接種された今では、その無害性を疑うのは難しくなった」と話している。

RDIFはロイターの取材に対し、ガマレヤは「追跡不可能なウシ血清をセルバンクの準備に使ったことは決してない」と主張。スプートニクVのセルバンクが、BSEのような症状に関連するタンパク質、プリオンを含んでいないことは外部調査により検証済みだとしている。

(Michel Rose記者、Polina Ivanova記者、Emilio Parodi記者)

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