March 24, 2020 / 2:18 AM / in 6 days

コラム:コロナショックでドル安・円高にならない理由=佐々木融氏

[東京 24日] - 新型コロナウイルスの感染は欧米でも急速に拡がっており、世界の景気見通しも急速に悪化している。JPモルガンは今年の世界全体の実質国内総生産(GDP)成長率が前年比マイナス1.1%まで落ち込み、2009年以来のマイナス成長になると予想している。

3月24日、新型コロナウイルスの感染は欧米でも急速に拡がっており、世界の景気見通しも急速に悪化している。写真は米ドル紙幣とマスク。17日撮影(2020年 ロイター/Alexey Pavlishak)

こうした見通しの悪化を受けて、世界の株価も急落しており、主要国の株価指数は過去1カ月間で概ね30%以上下落している。

世界経済の状況は、明らかにリーマン・ショック時に匹敵する状況となってきていると言って良いだろう。ちなみに本論からはそれるが、「リーマン・ショック」という言い方は世界では一般的でないので、本稿ではこれ以降、世界で通用している呼び方であるGFC(グローバル・ファイナンシャル・クライシス)で統一したい。

ドル/円JPY=相場は、中国や日本では既に新型コロナウイルスの感染が拡大していた2月半ばに112円をつけた。だが、その後は感染が欧米諸国に拡大し、欧米の株価が急落する中で円高が進み、3月9日には101円台まで下落した。

しかし、それから後の2週間、欧米の株価が下落を続けている中で、あっという間に111円台まで急速に値を戻してしまった。結局、世界の株価が30%以上下落するリスクオフ環境下で、ドル/円相場はほぼ同水準を維持していることになる。

GFCの際、米株価が最も激しく急落したのは2008年9月から2009年3月の半年間で、この時、米S&P500指数.SPXは50%程度急落した。この間、ドル/円相場は109円台から87円台まで急落している。

<今回はドルと円が同程度の強さ>

なぜ、今回は当時のような円高にならないのだろうか。簡単に言ってしまえば、GFCの時も今回も、市場参加者のリスク回避志向が強まる際の定石通り、ドルと円が両方とも強い通貨となっているのだが、GFCの時はドルよりも円が大幅に強くなり、ドル/円相場は大きく下落した。ところが、今回はドルと円がほぼ同程度の強さとなっているため、ドル/円相場で円高が進まない。

世界経済の景気後退(リセッション)入りに対する懸念が高まり、市場参加者のリスク回避志向が強まる中で、ドルと円が買われるのはいつもの動きだ。市場参加者のリスク回避志向が強まると、投資家はポジションを閉じて必要以上に損失が膨らむのを回避しようとする。この結果、投資資金の出所である、ドルや円、ユーロ、スイス・フランなどが買われる。

しかし、GFCと今回では、同じく強い通貨となっているドルと円の強くなる度合いに差がある。GFCの際、ドル/円相場が上記のように109円台から87円台に急落した間の主要通貨の騰落率をみると、円が最強通貨となっており、ドルは2番目に強い通貨となっている。

ところが、2番目に強かったドルでさえ、円に対して20%近く下落している。つまり、円が圧倒的に独歩高で、2番目に強かったドルに対してさえ大幅な円高となったのだ。

一方、今回の新型コロナウイルスの世界的な拡散に伴う混乱の中、過去11カ月間の主要通貨の騰落率をみると、円がGFCの時と同様に最も強いのだが、次に強い通貨となっている、スイス・フランやドルとの差は1%程度にとどまっている。

JPモルガンが算出するドルの名目実効レートで見ると、過去2週間のドルの上昇率は、前先週末(20日)時点でプラス6.7%となり、GFC時に最も速いペースでドル上昇が進んだ2008年10月のプラス6.8%にほぼ匹敵する上昇ペースとなっている。

つまり、ドルはGFC時並みに買われている。一方、円は3月上旬までの2週間では名目実効レートベースで7%程度上昇していたが、GFC時に最も円高が加速した際は2週間で11%も上昇していたので、今回の円高はそれほど驚くようなものではない。

また、2週間で7%台という円の上昇は、GFCの例を出すまでもなく、その後も何度か発生している。結局、円はその後に世界の株価が下落を続ける中でも、円安方向に反転し、過去11カ月間でみると2%程度しか上昇していない。

つまり、GFC時と比べて何が違うかと言えば、円が当時ほど強くなっていないということになる。

<円が突出して強くならない3つの理由>

GFCの時と異なり、なぜ、今回は円が突出して強くならないかという点については、以下の3つの要因が指摘できる。

まず、1点目としては、GFCの前は世界的に円キャリー・トレードが活発化していたので、先行き不透明感が高まりポジションを閉じるために、円を買い戻す動きが拡がった。だが、今回はそもそも円キャリー・トレードが活発化していなかったので、世界の投資家も円を買い戻す必要があまりない。

2点目としては、日本からの対外証券投資・対外直接投資需要が強いことが挙げられる。また、以前のように貿易収支が大幅黒字ではないため、円高の動きが多少みられ、輸出企業が追随して円買いを行っても、輸入企業の円売りに簡単に吸収されてしまう。2007年の日本の貿易収支は14.2兆円の黒字だったが、2019年は6000億円の黒字にとどまっている。

3点目は、日本の投資家が為替リスクを避けるためにヘッジを掛けたり、対外投資を手仕舞うために円を買い戻す動きが限定的という点だ。ヘッジコストが高く、国内に金利が無い状態では、以前にと比べると、日本の投資家がそうした動きをすることのハードルが高くなっている。

つまり、GFCの時も今回も、グローバル経済のリセッション懸念を背景にドルと円がともに強い通貨となっているが、今回は、GFCの時と異なり、上記3点を背景に円がさほど強くならないのだ。

従って、今後も先行き不透明感が続き、世界の株価が下落を続けるようなことになれば、実効レートベースでの円高は続くだろう。つまり、ドル、スイス・フラン、ユーロ以外の通貨に対する円高は進みやすい。

しかし、ドル/円、ユーロ/円、スイスフラン/円相場の円高度合いは、さほど大きなものにはならない可能性が高い。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

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編集:田巻一彦

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