[ロンドン 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 新型コロナウイルス感染拡大は世界中で狂乱的な買いだめの動きを引き起こし、その結果、見向きもされなくなっていた食品ブランドの人気が復活している。ロックダウン(都市封鎖)が続く中、消費者はいま、紅茶の「PGティップス」や冷凍スナック「ホットポケッツ」などの確保に躍起となっている。
こうした変化は、ユニリーバULVR.LUNA.ASやネスレNESN.Sなど大手食品メーカーの首脳に対し、優先的な事業として何に取り組むべきか、課題の見直しを迫っている。
保存食や冷凍食品は、英国をはじめ各地のスーパーの棚からすっかり消え失せ、ロックダウン下の人気の強さが証明された。市場調査会社ニールセンによると、これらの食品の販売は、長らく伸び悩んでいた昨年までに比べて大きく跳ね上がった。新型コロナ流行前の世界で、人々がより健康的で加工されていない食品を好んでいたのとは非常に対照的だ。
保存食事業の価値を再評価する、という動きが出る可能性もある。現在約30億ユーロの売上高がある「リプトン」「PGティップス」などのユニリーバの紅茶ブランドは、売却先を決める競争入札を銀行が改めてお膳立てできれば、もっと熱心な買い手が出現するかもしれない。
一方で投資家側は、どういう事業を売却の対象にすべきか、再検討を促すかもしれない。ユニリーバのアラン・ジョープ最高経営責任者(CEO)は、「何かを象徴」していないブランドは売り払うと表明してきた。しかし、(コロナ禍が終息しても)ロックダウンの記憶が残る世界では、冷凍食品や備蓄食品の補充に動く消費行動には「目的がある」と考えることもできるだろう。
ユニリーバは近年、高価格のスキンケア用品や洗浄用品のブランドを相次いで取得してきた。もちろんこれらは「手の届く範囲」の高額品とはいえ、生活必需品とはいい難く、消費者が財布のひもを締めれば成長は望みにくい。逆に同社が以前に手放すブランドの候補とみなしていた「クノール」は、長年信頼を築いていたスープの素などを提供しているだけに、景気悪化局面で事業を支える役目を果たしてくれることが分かるだろう。
一方、ネスレのマーク・シュナイダーCEOは、自身が掲げた「栄養・健康・ウエルネス」に集中する戦略の中に、既にドッグフード事業まで押し込んでいた。そうであれば、「ホットポケッツ」をはじめとする冷凍食品やスナック類を、たとえ米国部門での増収率が昨年は1桁だったとしても、同様に戦略的な事業であると宣言するのはさほど難しいことではないはずだ。
生鮮食品の供給に不確実性が増した世界においては、古くさい保存食や冷凍食品にもまだ居場所があるのではないか。大恐慌以来、目にしたことがないような景気悪化を想定し始めている大手食品メーカーにとって、いまは事業構成の再構築どころではないかもしれない。それでも事態が落ち着いてきた段階で、首脳陣は自社の事業として何を残すべきか、何を手放すべきかを再検討することになるだろう。
●背景となるニュース
*ユニリーバのアラン・ジョープ最高経営責任者(CEO)は今年1月、同社が事業構成の点検を続けており、「リプトン」「PGティップス」といった紅茶ブランドの戦略的な見直しに着手したと明らかにしていた。
*ネスレは、物言う投資家のダニエル・ローブ氏が経営改革を提言した2018年以降で、総価値約150億ドル相当の資産処分を発表している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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