[1日 ロイター] - 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で米国の消費財市場は様相が一変した。大きな理由は在宅勤務の普及だ。ロイターがさまざまな消費財の需要や価格の動向を分析した結果、衣料や食品まであらゆる消費財で、長年有効だった消費モデルが新型コロナ危機で激変したことが分かった。
ノースウエスタン大学のピョートル・ドボルチャク准教授は「供給と需要について何でも分かっていたが、基本的にそうした情報は全て投げ捨ててよい。消費者の行動がまったく変わってしまったからだ」と話した。
この変化に乗じて一部の企業は驚くべき価格競争力を身につけ、値上げしたり、値引きを中止したりしている。
<インスタントコーヒー、ヨガパンツなど売れ筋に>
コロナ禍が拡大する中、1年前と比べて消費が大幅に増えたのはインスタントコーヒー、卵、薄切りハム、ケチャップ、チーズなど。ただ、景気の見通しが非常に不透明なのに、ナイキNKE.Nの「エアマックス」やルルレモンLULU.Oのヨガパンツ、ルイヴィトンLVMH.PAのハンドバッグなど一部の高級品で需要が高まるという、一見不思議な現象も起きている。
エコノミストによると、これは多くの市民が外出して買い物することができず、手元の現金が増えているためだ。自宅待機を命じられた従業員ですら、連邦政府の支援策により賃金相当額の失業給付が受けられる。
ミシガン大のニルパマ・ラオ準教授は「もちろん大規模なレイオフが起きているが、多くの人々は賃金と所得を維持している」と述べ、彼らが職を失っていなかったら、可処分所得はさらに増えていたのではないかとの見方を示した。
<メーカーにもコスト増の圧力>
ニールセンのデータをバーンスタインが分析したところ、「フォルジャーズ」や「ダンキン」など、JMスマッカーSJM.N製インスタントコーヒーに対する消費者の支出は、8月8日までの4週間に前年同期比で平均8%程度増えた。
クラフト・ハインツKHC.Oのソースとタイソン・フーズTSN.Nの薄切りハムへの支出もそれぞれ10%近くと、5%程度増加した。家庭用食品の需要増を考えれば筋は通っている。
一方で、小売業者や大手メーカー側については、新型コロナ危機で多数の死者が出る中で、広告宣伝費を削り、利益を増やしているとの批判も聞かれる。
コンサルタント会社ストラテジック・リソース・グループのバート・フリッキンジャー氏は「大手メーカーが利益を得て懐を豊かにしている半面、消費者は商品の値上がりによって過去前例のない圧力を受けている」と解説する。
ただ一部の専門家は、新型コロナ流行への対応でメーカーもコスト増に苦しんでいるとみている。
例えば、コロナ前は多くの人が通勤・通学途中にコーヒーを買っていた。在宅勤務の拡大に伴い、メーカーはコーヒーを出荷する際、外食店向けの20ポンド(9.1キロ)入りの袋を一般家庭向けの小さい包装に切り替えざるを得なくなっている。卵の出荷も外食店向けの仕様から一般家庭向けのパックへと変わった。
しかし、メーカーが需要増を当然と受け止めて値上げすれば、しっぺ返しを食らいそうだ。
パンデミック期間の大半で、ペットボトル入りの水や使い捨ておむつは値上がりしたが、需要は落ち込んだ。自宅の水を飲めればわざわざボトル入りは買わないし、自分で乳児の面倒を見るならば再利用可能やノーブランドのおむつで済むという。
<「代替効果」で新たな散財>
ロックダウンにより多くの人は旅行や外食、映画館に行かなくなった。出掛けたり、子供を学校に送ったりすることもなく、ガソリンの消費量が減っている人も多い。そのために浮いたお金を別のことに散財しているようだ。
ウィスコンシン大学のマイケル・コリンズ教授はこうした動きを「代替効果」と呼んでいる。「人々が新たに大金を得たかのように振る舞っているのは明白だ。私も今はまったく外食していないから、使い道のない新たな所得が数百ドル生じている。このお金を別の分野の消費に回せる」という。
高額なナイキのスニーカー「エアマックス」の販売好調はこの代替効果で説明可能だろう。データ分析によると、ナイキはエアマックスの7月のオンラインでの在庫販売比率が約63%で、前年同期の10%から大幅に上昇。エアマックスの平均価格は前年同期から10.5%上昇した。
ウェブサイトによると、ルイヴィトンの高級ハンドバッグ「ネヴァーフルMMモノグラム」の価格は5月初旬以来、5%上昇した。ルイヴィトンを傘下に持つLVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは、パンデミック期間3回目の値上げをしたにもかかわらず6月以来、販売が上向いている。
ところがこうした動きは限定的だ。バーバリーの女性用トレンチコートは需要が鈍り、7月の在庫販売比率は前年同期の14%からわずか3%に低下した。
<変化の先行きは不透明>
先行きの不透明感は強い。米国内の新型コロナ流行と経済的な打撃の全体像は見通せないままで、国民や消費者の行動がいつ元の状態に戻るのか、あるいは本当に元に戻るのかもはっきりしない。
ミシガン大のラオ准教授によると、この不確実な状態の終わりが分からないため、食品メーカーは工場の生産工程を変える設備投資に二の足を踏んでいる。
実際には、国民が経済的により強い痛みを感じ、消費需要やメーカーの価格決定力が数週間、もしくは数カ月で変化するかもしれない。米政府による失業保険への週600ドルの加算は7月末で期限が切れた。収入がなくなれば、消費者の行動は景気後退期に即したものになり、消費は削られるだろう。
ウィスコンシン大のコリンズ教授は、春以降、住宅ローンやクレジットカード、学生ローンの返済が猶予されていることも消費者の支えになっていたと指摘。「最終的に返済猶予が停止され、人々は再び財布のひもを締め始める可能性がある」と話した。
(Nick Carey記者、Richa Naidu記者、Siddharth Cavale記者)
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