September 21, 2018 / 1:17 AM / a month ago

コラム:リーマン破綻10年、霧晴れぬ「危機発生メカニズム」

[ロンドン 19日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 10年前のリーマン・ブラザーズ経営破綻で、経済政策に関する基本的な提言の1つが正当化された。すなわち巨大な金融機関が倒れたなら、必ず経済にお金を流し続けろということだ。

9月19日、10年前のリーマン・ブラザーズ経営破綻で、経済政策に関する基本的な提言の1つが正当化された。ニューヨーク証券取引所で撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)

そもそもは当時、リーマンほどの巨大銀行がつぶれるのを避けるための手を打った方がより賢明だったかもしれない。その前後に他の多くの金融機関に対して行ったように、リーマンも完全国有化ないし部分的な国有化は可能だった。

ただ少なくとも、リーマン破綻後の政策対応は適切だった。エコノミストのほぼ満場一致の助言に従い、政府は弱い銀行に資本を注入するとともに、金融システムにコストゼロの資金を供給。この思い切った行動により、「グレート・リセッション(大不況)」が1929年の大恐慌の再現へ転じる事態が避けられたのは間違いない。

だから危機対応は、エコノミストが解明していることの一つと言える。しかしなお未解明の分野も多くある。2008年以降、マクロ経済に関して生まれた大きな論点は、実はどれも答えが出ていない。

まずは大不況の原因から。リーマンが、米不動産バブルの破裂で沈んでしまったのは疑問の余地がない。よく分からないのは、このバブルがどうして発生したのか、そしてその破裂が世界的に深刻な影響をもたらした理由だ。

BREAKINGVIEWSに寄稿するエドワード・チャンセラー氏は、中央銀行の低金利政策元凶説を熱心に提唱するものの、他の専門家から非常に多くの異論が唱えられている。

問題を引き起こした可能性として最初に出てくるのは、銀行の資本不足や不十分な規制、バンカーらの向う見ずさと貪欲さのほか、デリバティブの不透明な利用とその野放し状態などだ。さらに国内の過剰なレバレッジ比率や、金融機関同士や国境を越えた無制限の資金移動も指摘される。

市場機能重視派は政府からの不経済な要求をやり玉に挙げ、かたや政府を信頼する人々は金融市場の安定に対する期待が非現実的なのだと批判している。

コンセンサスらしきものはなく、それゆえに今の世界経済がどれほど危機を招きやすいのかに関する意見もばらばらだ。1つだけ確かなことがある。何が起きたとしてもエコノミストなる人たちは「私がそう言ったではないか」と口にするだろう。

金融危機後しばらくは、最新の金融手法が問題を招いたとの見方が総じて受け入れられたように見えた。もっともそうしたコンセンサスがあったとしても、長続きしなかった。

確かに債務担保証券(CDO)の荒っぽい値動きは消え、危険なサブプライムローンを裏付けとする証券のシニアトランシェにトリプルA格付けが付与されることもなくなった。だがデリバティブ市場は全体としては活況が続いている。国際決済銀行(BIS)が3年ごとに実施している調査によると、2016年のデリバティブの出来高は07年を52%上回った。当局が市場拡大を不安視する様子はなく、新たに導入した中央清算制度がリスクの大半を取り除いたと自信を持っている。

08年初めもバブルやレバレッジを真剣に心配していたエコノミストはほとんどいなかった。原油価格が過去10年でほぼ10倍になっていたこともあり、多くはむしろ物価上昇リスクの方を懸念していたのだ。金融市場に生じ始めていたストレスに対処するため07年に始まった利下げを巡って、最も悲観的な向きは1970年代のスタグフレーションの再現につながると主張していた。

既に判明している通り、08年の米国の物価上昇率のピークは5%で、その時期はリーマンの破綻と同じ9月だった。もちろんリセッションを回避していた場合、物価上昇が加速し続けたどうか知ることはできない。今になっても10年前に比べて物価と賃金のメカニズムについてエコノミストの理解は進んでいないのだから。

実際のところ、ほとんどの西側諸国におけるインフレ圧力の欠如は、経済学の専門家にとって悩みの種になっている。有力な理論に基づけば、労働力不足と貨幣の入手のしやすさは物価と賃金を押し上げ、現実のどの先進国で観測できるよりもずっと大きなインフレ圧力が醸成されるべきなのだ。

もう1つ、08年当時に多くのエコノミストにとって大きな懸案となっていたのは米国の経常赤字の規模だった。対国内総生産(GDP)比は06年のピークの5.8%から低下しつつあったが、08年当時でもなお5%近いと予想されており、世界的な不均衡や中国の膨大な貯蓄の危険性を巡る話題には事欠かなかった。

ところが米国の赤字は、リセッションとその後の景気回復の初期に人知れず縮小し、13年の対GDP比は2.1%となった。以降は赤字が拡大しているが、大幅ではない。国際通貨基金(IMF)は今年の対GDP比を3%と予想している。

では経常赤字が実体経済や金融システムにとってどんな意味があるのか。トランプ米大統領は、自分は分かっていると自信満々だ。しかし大半のエコノミストは途方に暮れている。

対照的に金融危機後の景気回復が異例の緩やかさとなっているわけに関しては、重々承知していると思っているエコノミストが多い。

それでも残念ながら足並みは全くそろっていない。説明理由は財政出動が控えめ過ぎ、金融政策が慎重過ぎ、銀行のリストラが不十分、低調な人口の増加、消費者の先行き懸念などあまりも多岐にわたり、どれ一つとしてこれは信頼できると思わせてくれるものがない。

要するに08年の経済を覆った霧はほとんど晴れていないのだ。研究者から見れば、これはより多く学べる格好の機会を提供してくれるだろうが、それ以外の全ての世界にとっては不安要素でしかない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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