June 1, 2016 / 10:11 AM / 3 years ago

懸念される日本版「財政の崖」、アベノミクス相場再開に低い期待

[東京 1日 ロイター] - 安倍晋三首相が消費増税先送りと経済対策策定を決定し、日本は財政拡張路線に大きく踏み出した。市場の関心はアベノミクス相場が再開するかだが、インフレ期待は高まらず円安効果は限定的だ。

 6月1日、安倍晋三首相が消費増税先送りと経済対策策定を決定し、日本は財政拡張路線に大きく踏み出した。市場の関心はアベノミクス相場が再開するかだが、インフレ期待は高まらず円安効果は限定的だ。東証で2月撮影(2016年 ロイター/Issei Kato)

歳出規模が膨らめば、翌年度に歳出が大きく落ち込む「財政の崖」が到来してしまう。強引な景気判断の上に立った政策決定に市場の期待感は乏しい。

<BEIは低下>

為替に対する財政拡張策の影響は複雑だ。一般論では、国債増発による金利上昇や内需拡大による海外からの資金流入を通じて円高要因となる。しかし、より実践的には実質金利が左右する。歴史的に見て、常にドル/円JPY=の動きが日米実質金利差と連動しているわけではないが、最近は連動性が高くなっており、市場の注目度も高い。

実質金利は名目金利からインフレ期待を引いて算出される。財政規律の緩みも警戒されるが、日銀の大量の国債買いで名目金利の上昇が押さえられるとすれば、実質金利を決定するのはインフレ期待だ。インフレ期待が上昇すれば、実質金利が低下し円安要因に、デフレ予想が強まるようであれば、円高要因になる。

今回、消費増税延期が有力視された後のBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)<JP0019BEI=JBTC>を見ると、5月25日の0.43%に対し、31日は0.35%に低下。足元の円安は「インフレ期待よりも米利上げ期待の強まりが主要因」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏)との見方がもっぱらだ。円安なしに日本企業の業績拡大は難しく、日本株の本格的な上昇も期待しにくい。

BEIはあくまで市場のインフレ期待を測る一つのめどにすぎないが、SMBC日興証券・ストラテジストの野地慎氏は「財政拡張はインフレ期待を高めることがなければ、むしろ通貨高要因。過去のアベノミクス下では、財政悪化への不安が日本国民のインフレ期待を押し下げた」と指摘している。

<「財政の崖」に懸念>

財政出動によって景気が良くなり、株高・円安が進むという「上げ潮経路」のアベノミクス相場再開についても、市場の期待は低い。「規模ありきの補正予算では、一時的な景気押し上げ効果はあっても、持続性が乏しいことはバブル崩壊以降の景気対策が示している」(しんきんアセットマネジメント投信・運用部長の藤原直樹氏)という。

さらに相次ぐ景気対策で「財政の崖」が発生する懸念が出てきている。

1月の2015年度補正予算で3.5兆円程度、5月の震災対策で1兆円程度がすでに使われている。16年度の第2次補正予算が5兆円規模で組まれるとすると、トータルで9.5兆円。国内総生産(GDP)を2%近く押し上げることになる。

目先は良いが、問題は17年度以降。補正予算などはいずれも基本的に単年度の政策であり、効果が切れれば歳出の落ち込みによる景気下押し圧力が発生する。

それまでに日本経済が成長軌道に乗っている保証はない。「最近は、当初予算を引き締め気味に作るが、補正予算の効果が切れると景気後退を防ぐために、また補正予算を組むという繰り返しになっている」(シティグループ証券・チーフエコノミストの村嶋帰一氏)という。

<東京五輪までの「ラストチャンス」>

アベノミクスの3年間で、税収が増えたのは事実だ。国と地方の税収は、安倍第2次内閣発足前の12年度で78.7兆円だったが、16年度は99.5兆円となる見通し。14年4月の消費増税引き上げ分を除いても約13兆円の増収となる。

しかし、所得税、消費税、法人税の税収3本柱のうち、消費増税は先延ばしされ、増収は期待しにくくなった。所得税も労働人口の減少で増加は見込みにくい。あとは法人税だが、円安の追い風が止まったことで、企業の増益傾向も曲がり角を迎えようとしている。「財政の崖」を乗り切るには、再び景気対策が必要になる可能性がある。

安倍首相は消費増税先送りを決める一方で、20年度のプライマリーバランス黒字化目標を据え置いた。景気が回復すれば税収も増えるとの期待が背景にある。しかし、財源が見込めない中で、社会保障も充実させるとすれば、赤字国債増発など財政拡張路線を一段と強めざるを得ず、その先には「ヘリコプターマネー」も視界に入る。

今回、消費増税見送りを決めた背景には、新興国を中心とした強い景気後退リスクが迫っているとの景気認識がある。景気の足取りが弱い中で、増税見送り自体は市場でも評価する声が多いが、景気認識についてはコンセンサスが得られているわけではない。景気認識がずれていれば、お金の使い方も効果的に行われない恐れがある。

消費税率10%への引き上げ時期は19年10月。20年の東京オリンピックの直前だ。「宴の後」は需要の落ち込みが懸念される。それまでに日本経済を持続的な成長軌道に乗せることができるか。「今度こそラストチャンス」(ニッセイ基礎研究所・チーフエコノミストの矢嶋康次氏)かもしれない。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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