[東京 17日 ロイター] - 仮想通貨交換業への新規参入が難しくなっている。体制整備コストの上昇と仮想通貨の価格低迷に伴う収益悪化が重しとなり、マネーフォワード3994.Tは参入延期に追い込まれた。金融庁と協議した経験や資金力などから、大手金融グループの傘下でないと新規登録は困難だとの見方も出ている。
<「撤退ライン」迫り、延期を決断>
「撤退ライン」割れの蓋然(がいぜん)性が高くなり、取締役会で決議した――。15日夜、都内で会見したマネーフォワードの辻庸介社長は、仮想通貨関連事業への参入延期をこう説明した。撤退ラインは、同社が参入方針を決めた際に設定したクリアすべき経営上の基準で、これを満たさない場合は、事業の継続性に疑問符が付きかねない。
ただ、会見で辻社長は、撤退ラインに関する具体的な言及は避けた。
マネーフォワードが参入方針を発表したのは2018年5月。金融庁でフィンテックの政策立案を担当していた神田潤一氏が同社の100%子会社、マネーフォワードフィナンシャルの社長に就任したことで、業界では「次の新規登録はマネーフォワードになるのではないか」との見方が出ていた。
しかし、マネーロンダリング防止対策などの体制整備にかかるコストの上昇と、仮想通貨の価格低迷がマネーフォワードを参入延期に追い込んだ。神田社長は会見で、18年9月にザイフで発生した仮想通貨流出事件で当局が求める体制整備の水準が上がり「ここまで整備すればいいというところが、なかなか見極めることができなかった」と述べた。
<上がる当局の目線>
マネーフォワードが挙げた参入延期の理由は、仮想通貨交換業者に共通する課題だ。今秋に金融活動作業部会(FATF)の第4次対日相互審査を控え、金融庁は交換業者にもマネロン防止体制の強化を求めている。
コインチェックは、マネロンに悪用されるリスクが高いモネロなどの仮想通貨の扱いを取りやめた。だが、金融庁幹部は「仮想通貨そのものが、マネロンの温床だ。匿名性の高い通貨をやめればいいというものでは決してない」との見方を示し、各社の取り組みを注視している。
マネロン防止体制の確立のためには、本人確認、疑わしい取引の洗い出しが継続的にできる体制作りに加え、内部監査体制、サイバーセキュリティー対策など広範な体制整備が必要となり、多額のコストがかかる。
今年1月に登録業者になったコインチェックは、体制整備にかかるコストがかさみ、3四半期連続で税引前損失となった。
昨年6月、金融庁はマネロン防止体制に不備があった仮想通貨交換業者6社に対し、資金決済法に基づいて行政処分を一斉に出したが、まだ1社も処分解除となっていない。それどころか「マネロン防止の出発点となる、リスクの特定もまともにできていないところがある」(金融庁幹部)のが実情で、金融庁は危機感を募らせている。
<厳しさを増す「懐事情」>
体制整備のためのコスト上昇とともに、仮想通貨取引業者を圧迫しているのが、市況の低迷だ。2017年の登録制開始前からビジネスを展開していた一部の業者は、急騰する前のビットコインを保有していたため、新規投資に動きやすかった。
しかし、ビットコインは現在、5000ドル台で、17年12月につけた約2万ドルの最高値の4分の1程度の価格に下落。「業者の懐事情は厳しくなっている」(金融庁幹部)とみられている。仮想通貨の価格変動率の拡大や価格の上昇基調がなければ、利用者の取引量拡大も見込みにくい。
その一方、金融庁は新規参入を希望する会社の審査を強化している。1月にはコインチェック、3月には楽天ウォレットとディーカレットが新規に登録業者となった。
しかし、コインチェックと楽天ウォレットは、制度開始前からビジネス展開していた「みなし業者」で、実質的な新規参入はインターネットイニシアティブ3774.T傘下のディーカレットのみ。
仮想通貨交換業の登録を目指し、金融庁に照会してきた業者は約120社。このうち、役員面談、書類審査、訪問審査からなる「登録に向けた主要プロセス」に入ったのは「7―8社程度」(金融庁幹部)だという。
マネーフォワードに立ちはだかった2つの難題に、新規参入組は立ち向かうことになる。「当局との対話を円滑にこなし、資金力もある大手金融グループの傘下でないと、新規登録は難しいのではないか」(業界関係者)との声が出ている。
和田崇彦 編集:田巻一彦
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