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アングル:船の「盲点」突くサイバー攻撃急増
2017年8月12日 / 00:12 / 3ヶ月後

アングル:船の「盲点」突くサイバー攻撃急増

[ロンドン 7日 ロイター] - 船舶の衛星ナビゲーションを狙ったサイバー攻撃のリスクは、各国を第2次世界大戦の無線技術に由来するバックアップ・システムの開発に向かわせている。

 8月7日、船舶の衛星ナビゲーションを狙ったサイバー攻撃のリスクは、各国を第2次世界大戦の無線技術に由来するバックアップ・システムの開発に向かわせている。パナマで昨年5月撮影(2017年 ロイター/Carlos Jasso)

船舶は、衛星信号の送受信に頼る全地球測位システム(GPS)や他の類似装置を使用するが、ハッカーによる電波妨害に弱いと多くの専門家は指摘する。

世界貿易の約9割は海路を通じて行われている。海上交通路の混雑は激しさを増しており、危険が高まっている。航空機とは異なり、船舶にはバックアップのナビゲーションシステムがなく、もしGPS機能が停止した場合、座礁するか、他の船と衝突する恐れがある。

韓国は「eLORAN」という地上系電波航法技術を用いた代替システムを開発中だ。米国も同システムの開発を計画している。また、英国とロシアも無線信号を使う同テクノロジーの導入を検討している。

こうした動きは、船舶ナビゲーションシステムの混乱が近年、相次いで発生していることを受けてのものだ。そのような事態に意図的な攻撃が関与しているかは不明だ。気象の影響が、衛星信号の消失につながる可能性もあると専門家は指摘する。

韓国は昨年、数百隻もの漁船が、北朝鮮のハッカーからGPS信号に妨害を受け、予定より早く帰港したと主張。一方、北朝鮮はそのような嫌疑を否定している。

黒海で今年6月、1隻の船が、GPSシステムが妨害され、同海域にいる20隻以上の船が同様の被害に遭っていると、米沿岸警備隊のナビゲーションセンターに通報した。

米沿岸警備隊の当局者らも、船舶に搭載されているGPSへの妨害によって、2014年に数時間、ある港での活動に障害が生じたことを明らかにした。また、その翌年にも別の港で同様の被害が起きたとしているが、どの港かは明らかにしていない。

2017年6月にデンマークの海運・石油大手モラー・マースク(MAERSKb.CO)のITシステムを直撃し、世界中で大ニュースとなったサイバー攻撃は、ナビゲーションに関わるものではなかったが、テクノロジーに依存し、相互につながる海運業界にハッカーがもたらす脅威を浮き彫りにした。同攻撃は、世界中の港務に障害を起こした。

eLORANを推進する取り組みは、同システムを自国の安全を守る手段として捉える各国政府が主導している。信号を送受信する基地局ネットワークの構築や、無線航法が当たり前だった何十年も前に造られた基地局の改修には、大規模な投資が必要となる。

「GPSの父」として知られ、その主な開発者である米国人エンジニアのブラッド・パーキンソン氏は、バックアップ・システムとしてeLORAN装備を支持してきた1人である。

「eLORANは2次元で、局地的で、精度で劣るものの、全く異なる周波数で強力な信号を発する」と、元米空軍大佐であるパーキンソン氏はロイターに語った。「意図的な電波妨害やなりすましへの抑止となる」

<韓国の基地局>

サイバー専門家は、GPSや全地球航法衛星システム(GNSS)の問題点は、2万キロ以上離れた上空から送信される弱い信号にあると指摘。広く入手可能で安価な装置で妨害することが可能だという。

第2次世界大戦中に考案された地上系電波航法システム「LORAN」を改良したeLORANの開発者は、GPS信号よりも平均で推定130万倍も強い信号を発するため、妨害するのは困難だとしている。妨害するには、強力な送信機と大規模なアンテナ、そして大量の電力が必要になり、容易に検知できるという。

海上保安当局者によると、サイバー攻撃の脅威は、衛星システムに切り替える船舶が増えた過去10年で着実に増加。船員のあいだで従来のスキルが失われ、海図用紙はほとんど使用されなくなった。

「あくまでも私見だが、われわれはGNSSやGPSに頼り過ぎている」

こう語るのは、P&Oフェリーズで安全管理責任者を務めるグラント・ラバサッチ氏だ。「良いナビゲーションというのは、クロスチェックできるシステムであり、独立した2つの電子システムをもつにこしたことはない」

韓国海洋水産省のリ・ビョンゴン氏は、同国政府が2019年のeLORANの試験稼働に向け、基地局3つの建設に着手していると明らかにした。その後、基地局の数を増やしていく計画だ。だが、西方沖にある江華島の住民の反発に遭っているという。

 8月7日、船舶の衛星ナビゲーションを狙ったサイバー攻撃のリスクは、各国を第2次世界大戦の無線技術に由来するバックアップ・システムの開発に向かわせている。写真は英仏海峡を渡る貨物船。昨年1月撮影(2017年 ロイター/Toby Melville)

「基地局建設には、約13万2200平方メートルの土地が必要だが、島民は高さ122─137メートルのアンテナ設置に強く反対している」と、リ氏はロイターに語った。

米下院は7月、運輸長官にeLORANの基地局建設を許可する条項を含む法案を通過させた。

「この法案は上院に送られる。われわれは法制化されることを期待している」と、eLORANを支持する米非営利団体のダナ・ゴワード氏は述べた。「(トランプ)大統領がこの条項に署名するのに何ら問題はないとみている」

ジョージ・W・ブッシュ、オバマ両大統領の政権時にもeLORAN建設は約束されていたが、実現には至らなかった。だが今回は機運が高まっている。

コーツ米国家情報長官は5月、今後数年で通信衛星システムへのサイバー攻撃の脅威が世界的に高まると上院の委員会で指摘。

「GNSSやGPSへの妨害能力が高まる可能性が非常に高い」と同長官は語った。

<なりすまし>

ロシアは、海上交通路ができつつある北極地方でeLORANの一種である「eChayka」という名のシステム開設を目指していたが、現在、その計画は頓挫している。

「われわれにそのようなシステムが必要なのは明らかだ」と、ロシアの「インターナビゲーション・リサーチ・アンド・テクニカル・センター」のワシリー・レドコズボフ氏は言う。「だが、eChaykaとは別の課題がある。(ロシアは)現在、財政的機会にあまり恵まれていない」

コストが多くの国にとって大きな問題となっている。一部の欧州当局者は、同地域の衛星システム「ガリレオ」が、他のシステムよりも妨害に強いと主張する。

しかし、多くのナビゲーション技術専門家は、同システムもハッキング可能だと指摘。「ガリレオは特になりすましには役立つだろうが、これも似たような周波数で非常に弱い信号だ」と、前出のパーキンソン氏は語った。

多くの国がバックアップ・システム構築に消極的であることは、世界的に統一された無線ネットワーク構築がまだ当分先の話であり、複数の国土や共有水路をまたいだ、異なる無線の有効範囲で対応しなくてはならないことを意味している。

英国とアイルランドの一般灯台公社はeLORANの試験を実施したが、信号ネットワークの構築に必要になる無線基地を設置している欧州の国々の関心を集めることに失敗し、計画は後退した。

フランス、デンマーク、ノルウェー、ドイツは皆、旧来の無線基地局を運用停止、あるいは廃止する決定を下した。

英国は、イングランド北部にeLORANの送信機を1つだけ保有している。

英米企業のタビガは、ポジショニング、ナビゲーション、タイミング(PNT)ソリューションを提供するeLORANネットワークの商業的運用を目指している。

「タイミングサービス提供には、少なくともあと1つ送信機が英国に必要だろう」と、同社の共同創設者であるチャールズ・カリー氏は指摘。同テクノロジーの使用に向け、英国政府にコミットさせる必要があると付け加えた。

英政府でイノベーションを担当する部署で衛星ナビゲーションやPNTの改革にあたるアンディ・プロクター氏は、「顧客として関与するか否かにかかわらず、われわれは商業サービスの運用支援を検討する」と語った。

ただし、政府の現在の方針は「eLORANのように大規模なインフラは運用しない」ことだと同氏は付け加えた。

(Jonathan Saul記者 翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

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