[18日 ロイター] - 米通信大手AT&TT.Nは、米衛星テレビ放送最大手ディレクTVDTV.Oを485億ドルで買収する。18日に発表された買収合意によると、AT&Tは、株式と現金の組み合わせによりディレクTV株を1株当たり95ドルで買収する。16日終値86.18ドルから10%のプレミアムとなる。
このうち、現金が28.5ドル相当、AT&T株式が66.5ドル相当となる。AT&Tは買収に充てる現金について、手持ちの現金のほか、資産売却、準備中の資金調達などを利用するとしている。
買収総額は、ディレクTVの負債も含めると671億ドル。
アナリストらは、ユーザー当たりの平均売上高でライバル通信企業との競争が激化しているものの、今回の買収合意でAT&Tの配当が支援されそうだと指摘する。
マッコーリーのアナリスト、ケビン・スミゼン氏は「これは財務工作だ」と指摘。「AT&Tの比較的高いバリュエーションと低金利の恩恵を利用して買収を行うことでフリーキャッシュフローが拡大し、複数年にわたって配当が保証される」と解説した。
当局の承認を促すため、AT&Tは富豪カルロス・スリム氏が率いるメキシコの通信大手アメリカ・モビルAMXL.MXの株式約8%を売却する。
ディレクTVは米国で2000万の加入件数を抱えるほか、中南米で約1800万件の顧客を持つ。
AT&Tは、買収完了後3年目までに年間16億ドルのコスト削減効果が期待できるとしている。
<AT&Tに違約金発生せず>
また、AT&TによるディレクTV買収について、当局が買収を認めなかった場合でもリバース・ブレークアップ・フィーと呼ばれる買い手側の違約金が発生しないことで両社が合意したことが分かった。事情に詳しい関係筋が明らかにした。
一方、匿名を希望したこの関係筋によると、ディレクTVが自社の都合で身売り合意を破棄すれば、AT&Tに対して14億ドルのブレークアップ・フィー(被買収企業側の違約金)を支払うことになるという。
<懐疑的な見方も>
AT&Tのランドール・ステファンソン最高経営責任者(CEO)は声明で「これはビデオ・エンタテインメント業界を再定義するほか、新たなバンドルを提供し、モバイル機器やテレビ、ラップトップ、自動車、飛行機など複数のスクリーンで顧客にコンテンツを提供することが可能な企業を生むユニークな機会だ」と指摘。「同時に、われわれの株主とって、即時かつ長期的な価値を生み出すことになる」と述べた。
ただ、一部のアナリストや投資家の中では、米衛星テレビ加入者が頭打ちとなる中、成長鈍化に直面しているAT&TがディレクTVを買収することに懐疑的な見方も出ている。インターネットをベースとしたテレビサービスが成長しており、衛星テレビ放送の需要は向こう数年でさらに鈍化する可能性もある。
AT&Tは、買収完了後4年以内に、農村部を中心に1500万件のブロードバンド顧客を新規に獲得できるとの見通しを示している。
ディレクTVの筆頭株主は、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイBRKa.N。
ディレクTVの財務アドバイザーは、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが務めた。
一方、社内にM&A(合併・買収)チームを抱えるAT&Tもラザードから助言を受けた。
*内容を追加して再送します。
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