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〔焦点〕日本企業に資本増強の波、市場は希薄化より企業の存続可能性に着目

 [東京 26日 ロイター] 世界的な金融危機をきっかけにした深刻な景気後退の影響を受け、日本企業は大幅な損失計上を迫られ、その傷口を手当するための公募増資が急増する情勢だ。これに対して市場は、株式の希薄化懸念よりも企業の財務健全性への取り組みを評価する声が優勢で、増資を表明した企業の株価は概ね底堅く推移している。背景には「百年に一度」の経済危機を迎えて、市場参加者の目が企業の存続可能性に集まっているという状況がありそうだ。ただ、中長期的な成長プランを示し、それを実現しなければ公募増資は単に既存株主に甘える調達に終わり、企業が資本市場から相手にされなくなるリスクもはらんでいる。 

 <09年度の公募増資、わずか2カ月で08年度実績を上回る水準に>

 「これから秋にかけて複数の大手企業が、水面下で公募増資の準備を進めている」──。証券会社の引受担当者らはこう打ち明け、日本企業の公募増資の拡大を予想する。クレディ・スイス証券の大楠泰治・投資銀行本部長は、資本調達に前向きなセクターとして、電機や自動車・自動車部品関連、機械、化学などを挙げる。

 2009年度に入って日本企業のエクイティファイナンスでは、公募増資が大きく伸びている。8000億円の新株発行を登録した三井住友フィナンシャルグループ8316.Tのほか、東芝6502.T、みずほフィナンシャルグループ8411.Tの3社を合わせると、公募増資の規模(計画)はすでに約1兆7000億円に上る。日本企業の公募増資は低迷が続き、05年度に4兆5482億円(231件)と直近のピークを打って以降、減少の一途だった。ところが、09年度は発行登録を含めるとわずか2カ月で、08年度の実績1兆0085億円を上回った計算になる。

 通常、公募増資は景気見通しが明るく、株式相場が堅調に推移している時期に盛況を迎える。相場が堅調なら、調達したい金額に向けて新たに発行する株式数を少なく抑えることができ、1株利益の希薄化を抑えられる。しかも、調達資本をテコに業績を伸ばし、株価の上昇に結びつけ、株主に還元する成長シナリオも描きやすい。当然、投資家の買い意欲も強くなる。

 足元の環境はそうした「公募増資の定石パターン」からは程遠い。にもかかわらず、増資ラッシュの動きは止まりそうもない。この背景について、証券会社の引受担当者は「現在の動きは、平時の公募増資とはやや異なる」と指摘した上で「調達によってその企業が存続するか否かを重点的に加味して、将来の成長性を見極める傾向が出ている」(大手証券)と分析する。現在、市場が重視するのは、新株発行で希薄化が起きるリスクよりも、企業のバランスシートのリスクというわけだ。

 増資を決断した企業側にも、差し迫った事情があった。2009年3月期決算発表を終え、赤字計上の結果、自己資本が大幅に毀(き)損した企業が資本増強の必要性に直面していた。最近、欧州の機関投資家とミーティングを重ねたある日本株のストラテジストは、過去に例をみない厳しい経営環境に立たされた企業経営者が「一時的に大幅な希薄化はあったとしても、公募で資本を増強し会社が生き延びる方がましと考え、市場もいったんそれを容認している」ことが、大規模な公募増資の増加要因と分析する。

 公募増資が見直されてきた背景には、希薄化を抑えるために日本企業が取り組んできた資本と負債の中間的要素を持つハイブリッドのような複雑な商品が、サブプライム問題を契機に投資家層に受け入れられにくくなってきた面もある。野村証券金融経済研究所のストラテジスト、西山賢吾氏は「普通にエクイティを取るようになったのはある意味健全な流れ」と現在の資本調達の動きを評価する。

 <投資家層にリスクマネー供給余力も>

 増資計画を発表後、当該企業の株価は希薄化分を織り込んで下落するのがこれまでのパターンだ。しかし、今までのところ大きく売り込まれる事態には発展していないケースが多い。

 5月8日に公募増資の計画を発表した東芝6502.Tは、今年度も業績が赤字となる見込みだが、約3100億円・希薄化率27%の大型増資にもかかわらず8日終値の361円に対し、25日の終値は334円。市場は大型の資本増強がいずれ行われることを予想し、株価は今年2月に204円まで値を下げていた後ということもあるが、それに比べると高い水準で推移している。

 みずほフィナンシャルグループ8411.Tの予定する増資額は最大で6000億円・希薄化率は22%に及ぶが、増資計画を発表した5月15日の終値237円から大きく売り込まれることはなく、25日終値は228円と一進一退の値動きが続いている。

 バークレイズ・キャピタル証券の投資銀行部門共同責任者、須長英明氏は、投資家は将来の大型増資を予想し、大幅な希薄化が懸念される銘柄を「すでにエグジット(売却)し終えているだろう」と話す。その後は、公募増資を発表した銘柄が一本調子に売られるわけでもなく、米国の金融機関のストレステストの結果や、にわかに経済の底打ち感も見られる中で、長期投資を想定している投資家は「今が割安とみて買い手に回っている」とも指摘し、株価の底堅さを裏付けている。

 公募増資を計画する企業にとっては「投資家が投資リスクを許容できる環境になりつつある」(須長氏)のも大きな支援材料だ。加えて「いったん蓄えた現金を投資に回す機会として、増資に応募する動きも出てきている」と須長氏は指摘しており、市場の需給バランスが取れている点も強調している。

 <成長シナリオなき駆け込み増資にはしっぺ返しも>

 とはいえ、公募増資は既存株主の利益を一時的に犠牲にすることには変わりはない。このため「早く資本調達を実施した方が勝ちと駆け込むだけでは、投資家は歓迎しない」(大手証券)という声も出ている。

 野村証券金融経済研究所の西山氏は、これまでに発表された公募増資の規模や件数は、市場が吸収できる規模と評価するが「今後、さらに増えてくれば玉石混交となる可能性がある。ここから先は選別の時代になるかもしれない」と警鐘を鳴らす。企業が明確な成長シナリオを打ち出し投資家が納得できなければ、公募増資への応募は減り、資本調達が十分にできない可能性も指摘している。

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 (ロイターニュース 江本 恵美;編集 田巻 一彦)

 ※(emi.emoto@thomsonreuters.com;03-6441-1816;ロイターメッセージング:emi.emoto.reuters.com@reuters.net)

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