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COLUMN-〔インサイト〕ドル離れの危険な兆候=信州大・真壁氏

 サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅ローン)問題に関連して、金融市場が不安定な展開が足元で続いている。その背景には、有力ヘッジファンドの多くが12月末の決算を控えて、ポジションの整理を行っていることがある。RMBS(住宅ローン担保債券)やCDO(債務担保債券)の価格下落に伴い、彼等は保有していた株式の手仕舞い売りを行い、円売りのポジションを巻き戻している。そうしたオペレーションによって、世界的に株式市場が不安定な展開を続け、為替市場ではドルが売られ、ユーロ買い、円の買い戻しが入っている。

 <基軸通貨ドルの信認低下>

 そうした金融市場の動きの中で、最も注目すべきポイントはドルの下落傾向だろう。ドル下落の主な要因は、ヘッジファンドの短期的なポジション調整に加え、基軸通貨であるドルの信認が少しずつ低下していることがある。今年8月のサブプライム問題の発生に伴い、投資家の心理の中で「ドル下落が続くかもしれない」との感覚が現実味を増している。ヘッジファンドのマネジャー連中にヒアリングしても、中・長期的視点から、ドル下落リスクに備えてドル建て資産のポーションを減らしているという声が多い。

 中・長期的なドル下落傾向については、既にいくつかの兆候が顕在化している。米国財務省が発表している対米証券投資の推移を見ると、米国への投資資金流入に変調が起きていることが分かる。今年6月、対米証券投資は約1209億ドルの買い越しだった。つまり、海外から多額の投資資金が米国の金融市場に流れ込んだのである。ところが、7月には買い越し額は192億ドルと大きく減少した。

 その後、サブプライム問題が顕在化した今年8月には639億ドルの売り越し、つまり、投資資金は米国から海外へ流出したことが分かる。9月にはやや持ち直したものの、買い越し額は264億ドルと低水準を続けている。いずれサブプライム問題が落ち着けば、米国への投資資金の流入はある程度回復するとは考えられる。しかし、この問題が完全に片付くまでには、まだ時間を要するだろう。

 また、今回の問題が、投資家心理の中にドル下落リスクのファクターを植えつけたことは間違いない。一度意識されたリスクファクターは一種のフレーミング効果となって、投資家の頭の中に残る可能性は高い。それは、結果的にドルのボラティリティー(予想変動率=リスク)を引き上げることになる。投資家がリスクの高い通貨の保有を控える行動は当然の帰結だ。

 <準備通貨、決済通貨としてのドル保有に変化>

 また、市場関係者の間では、「中国やロシアなどが、外貨準備をドル以外の通貨や金に分散させるオペレーションを続けている」との見方は有力だ。

 最近では、それらの国に加えて、アジア諸国などの中でも、そうしたオペレーションに追随する動きも目立っているという。さらに、産油国にもドル離れの動きが顕在化している。ドルペッグ制をとっている湾岸の有力産油国の間では、ドル下落による原油代金の目減りや、輸入物価の上昇に伴うインフレを懸念する見方が台頭している。

 既に、クウェートは今年5月にドルペッグ制を廃止しており、12月上旬にカタールで開催される湾岸主要産油国首脳会議では、バスケット方式に移行することが検討される見通しだ。わが国についても、一部原油価格の支払いが円建てに移行しているケースもあるようだ。こうした動きに伴い、世界中で使用される決済資金の中で、ドルが占める割合は顕著に低下傾向をたどっているといわれている。

 <ソブリン・ウエルス・ファンドの重要性の高まり>

 今後、こうした傾向が加速するようだと、中・長期的にドルの余剰感が高まる可能性がある。それが現実味を帯びてくると、従来米国に流入していた投資資金が減少し、米国の金融システムをパスせず、世界中の収益機会を目がけて配分されることになるだろう。

 その一つの兆候が、ソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)の重要性の高まりと考えられる。具体的には、資本蓄積が進む産油国などが多額の資金を、米国の金融システムをバイパスして、直接、新興国などに投資することになる。そうしたマネーフローの割合が高まると、米国の株式や債券の市場には大きな影響が出るはずだ。キャピタリゼーションの大きい米国市場が変調を来たすことになると、その波は世界の主要市場に及ぶことになる。

 米国金融システムの優位性を考えると、そうした事態がすぐにやってくることは考えにくいものの、そのリスクは頭のどこかに入れておいたほうがよいだろう。従来米国を中心にオペレーションを行っていたヘッジファンドの有力マネジャーの一部は、すでにその活動拠点をロンドンなどに移している。機を見るに敏い彼らがそうした行動をとることには、相応の意味があるはずだ。

 真壁 昭夫 信州大学 経済学部教授

(28日 東京)

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