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[東京 10日 ロイター] 欧州債務危機を発端としたデレバレッジが止まらない。金融機関や投資家が処分売りする対象は、ギリシャ国債からイタリア、スペインなどに裾野を広げている。見切り売りで国債価格が下落し、追加損失回避に向けた更なる保有資産の処分売りを招くという「負のスパイラル」が進行するなか、欧州では金融規制の強化という新たな不安定化要因が加わった。年末を控えた本邦投資家の間でも、ポジションの保守的評価が進み、欧州ソブリン債の選択的圧縮が進んでいる。
<レバレッジ5倍で元手がゼロ>
イタリアの政治空白を受け、欧州中央銀行(ECB)が買い支えているはずのイタリア国債10年物(クーポン4.75%)の利回りIT10YT=TWEBが9日、7.48%まで上昇し、市場から「持続不可能」と刻印される水準となった。イタリア国債の利回りは今年2月から約3%上昇しており、価格ではおよそ18%安となる。
「レバレッジ5倍で購入していた投資主体を想定すれば、3%の利回り上昇で、計算上、証拠金のほとんどをき損することになる」とデリバティブ・アナリストの高山剛氏は言う。「こうした状況に直面すると、投資主体は経営の健全性維持のため、当該資産を処分する、もしくは、CDS等で保険をかける選択を迫られる」(同)という。
<大き過ぎて救えないCDS問題>
資産処分とCDS、2つの選択肢のうち1つを潰したのが、最近のギリシャに対する国際スワップデリバティブ協会(ISDA)の判断だ。ISDAは10月27日、欧州の首脳と銀行側がギリシャ債務の民間負担を50%に拡大することで合意したことについて、「任意参加である限り、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の決済につがる信用事由のトリガーとなる可能性は低い」との見解を示した。
「CDSが保険としてワークしていないことが、欧州国債の売りを加速させている」とSMBC日興証券・金融市場調査部のシニア債券為替ストラテジストの野地慎氏は指摘する。
ただ、「今更ギリシャのCDSをデフォルト認定し、CDSの発動を求めれば、欧米のCDS発行者に危機が波及するばかりか、スペインやイタリアに一段と投機的な売りが広がるリスクがあるため、CDSの取り扱いは既に、大き過ぎて救えない領域に入ってしまった」と東海東京証券のチーフエコノミスト、斎藤満氏はいう。
<ECBとEFSF>
ECBはユーロ圏国債価格の大幅下落を防ぐため、セーフティーネットを敷き、前週は95.2億ユーロ(1兆円余)のソブリン債(主にイタリア国債)を購入した。
しかし、市場では「イタリア国債の利回り上昇が止まらないのは、ECBの買い入れ規模が足りないという証(あかし)。同国債の市場残高は1.8兆ユーロ程度あるが、これをECBが全て買い上げる必要があるだろう」(SMBC日興証券の野地氏)との意見も出ている。
「突発的リスクとしては、ギリシャが突然デフォルトすることが最も懸念される」とみずほ総合研究所金融調査部、上席主任研究員の新形敦氏は言う。
「もしリスクが現実となれば、アジアや米国など海外投資家によるイタリアやスペイン国債の投げ売りを引き起こしかねない」と同氏は指摘し、「イタリア、スペインまで波及すると、国債残高が大き過ぎるため、ECB単体で、いつまで、どこまで買い支えられるかについて、不確実性が増す」とした。
欧州金融安定ファシリティー(EFSF)は、12月までに機能し始める可能性があるとされるが、EFSFが7日に発行した10年債の発行利回りは独連邦債に177bpものプレミアムが上乗せされた水準となり、前回発行時(今年1月)の50bpプレミアムと比較すると大幅に上昇した。
「EFSF債の信用が低下し、これを購入した日本政府を含む投資家は既にその評価損を抱える羽目となった」と東海東京証券の斎藤氏は言う。「このため投資家は、EFSF債への投資にも慎重になっている」(同)状況だ。
<資金ひっ迫>
為替スワップ取引では、一部の欧州金融機関がドルを調達する際の上乗せ金利「ドル・プレミアム」が108bp付近と再拡大している。同プレミアムは一部の欧州金融機関に対して市場が要求する信用リスク見合いの上乗せ金利で、9月初めには一時70bp台まで低下していた。
「欧州銀行の資金繰りが度々ひっ迫する背景には、周辺国向けエクスポージャーというバランスシートの資産側の問題に加え、金融危機以来指摘されてきた、資金調達面というバランスシートの負債側に問題がある」とみずほ総研の新形氏は言う。
「欧州銀は一般に安定的とされる預金に比べ、逃げ足が速く不安定とされるCPや社債などの市場経由での資金調達の比重が大きい」と同氏は分析する。
<金融規制強化>
欧州金融界を中心とするデレバレッジ行動にさらに拍車をかけているのが、新たな金融規制の動きだ。
欧州の金融機関は、中核的自己資本(Tier1)を2012年6月までに9%に拡充することが求められている。欧州委員会が「健全性のアピールのために」(金融機関)設定した自己資本比率9%は、信頼性を回復させるためには重要な措置だが、期限までにさらに欧州銀を中心にデレバレッジが進行する可能性がある、とみられている。
<本邦投資家>
財務省のデータによると、本邦投資家は8─9月の2カ月間でイタリア国債を4681億円売り越した。また、最上級格付けを失うことが懸念されたフランス国債は6月からの4カ月間で1兆1536億円売り越している。他方、ドイツ国債は8月に6919億円売り越した後、9月に2388億円買い越している。さらに、流動性と換金性を求めて米国債への投資は9月に1兆8812億円と急拡大した。
「欧州債務危機について正確な情報が不足する中、時間だけが年末に向けてカウントダウンされている。欧州債務危機の解決が長期化すると保守的に考えれば、金融機関は年末の着地点をを想定し、ポジションの保守的評価、それに伴うロスカットにつながりやすい」とみずほ証券リサーチ&コンサルティング投資調査部副部長、小原篤次氏は話している。
(ロイターニュース 森佳子 編集:伊賀大記)