February 21, 2019 / 7:45 AM / a month ago

焦点:薬の「費用対効果」、政府が新制度導入へ 高額薬に備え

[東京 21日 ロイター] - 政府は今年4月、薬の費用対効果を評価する新たな制度を導入する。高齢化の進展やさらなる高額薬の承認が見込まれる中、膨張する医療費を抑制するのが狙いだ。だが、社会保障制度の維持を大義に、政府が薬剤費を狙い撃ちにすることへの業界の反発は根強い。企業の開発意欲を損なわず、国全体の経済成長につなげる好循環を構築できるかが課題となる。

 2月21日、政府は今年4月、薬の費用対効果を評価する新たな制度を導入する。高齢化の進展やさらなる高額薬の承認が見込まれる中、膨張する医療費を抑制するのが狙いだ。写真は都内で昨年12月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)

<高齢者に高額薬>

国立がん研究センター中央病院に勤める後藤悌医師には、80歳代の患者にがん免疫薬のオプジーボを投与した経験がある。オプジーボは小野薬品(4528.T)と米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMY.N)が共同開発した薬剤で、その効果とともに価格の高さでも話題を呼んだ。保険適用された当初、患者1人当たりの金額は年間3000万円超とされていた。

日本では、患者の自己負担は1─3割で、同じ月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合には、一定程度が払い戻される制度もある。厚生労働省によると、2016年度の医療費は患者負担が全体の11.5%で、残りの約9割が保険料と公費で賄われている。

「高齢の方にオプジーボを使うメリットがあるかどうか。世間の人に聞けば、恐らくほとんどの人が無いと言うだろうが、患者さんやその家族はみんな使いたいと言う。それを私たちが断る権利は無い」と後藤医師は話す。

日本の医療費は増加の一途をたどる。高齢化に加え、医療の高度化に伴って薬や医療機器の価格が上昇していることが背景にある。政府が昨年示した試算では、2040年度は68.5兆円と、18年度比で約75%増える見通しとなっている。

医療保険財政への負荷を踏まえ、政府は来年度から新薬の費用対効果を測る制度を導入する。「増分費用効果比」(ICER)は、英国などでも用いられている手法。健康な1年を生きるのに、既存薬と比べてどの程度の追加費用がかかるかを測定し、分析結果によって薬価を上下に調整する。

だが、こうした分析に詳しい米国研究製薬工業協会のケビン・ハニンジャー氏は、ICERそのものの欠点を指摘する。「例えば、私が関節リウマチを患って、物を書いたり、タイピングもできなくなったりしていたところ、ある薬によって症状が改善したとする。その結果、仕事に復帰し、税金を納め、家族の面倒を見ることができるようになっても、こうしたベネフィットはICERでは捕捉できない」と語る。

<薬価下げに依存する政府>

費用対効果評価は、あくまで新薬が保険適用された後に用いることにしている。ただ、昨年12月の経済財政諮問会議で示された「改革工程表」では、保険適用を判断する際にこの分析の活用を検討することが盛り込まれ、一部の業界関係者を驚かせた。

現在は、安全性や有効性が確認されれば、その薬は原則として保険適用されることになるが、「費用対効果が低い」ことを理由に保険適用されないことになれば、薬へのアクセス制限にもつながる。

日本希少がん患者会ネットワークの真島喜幸理事長は「将来的に保険適用するところで評価分析が使われるようになれば、がん患者会としては本当に勘弁して欲しい事態だ」と主張する。

政府に対する製薬業界の警戒感も強い。安倍晋三政権は2016─18年にかけて、社会保障費の伸びを5000億円に抑える目標を掲げたが、3年間のうち薬価改定の年に当たる16年と18年は、抑制に必要な額の大半を薬価引き下げに頼った。

一方で、医師の技術料を含む「診療報酬本体」は引き上げたことから、製薬業界からは不公平を訴える声も出た。それでも、製薬会社にとって「医師は顧客のようなもので、強く不満を言いにくい」(国内製薬大手)のが実情だ。

<高額薬の定義>

厚労省の審議会は20日、スイス製薬大手ノバルティス(NOVN.S)の白血病治療薬「キムリア」の製造・販売を了承した。この治療法は、免疫反応の司令塔となるT細胞を患者の血液から取り出し、がん細胞を攻撃しやすくなるよう遺伝子を改変した上で体内に戻す「CAR─T細胞療法」と呼ばれる。

米国では47万5000ドル(約5200万円)の価格が付いた。日本でも「それに近いものになるのではないか」(政府関係者)とみられ、価格への注目が集まっている。

ただ、単価が高いものだけが「高額薬」とは言えない。安くても患者数が多ければ、財政への影響は大きくなるからだ。キムリアの対象患者は国内で250人程度とみられ、財政にかかる負担は限定的との見方もある。

冒頭の後藤医師は「例えばインフルエンザの薬は、熱が1日早く下がるだけで、子どもや妊婦さんなどを除けば人の命を救うわけではない。費用対効果の話をする時に、単価の高い薬だけを対象にするのは矛盾しており、他の薬でも議論すべきだ」と指摘する。

梅川崇

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