[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ユーロ圏は間もなく、約10年間にわたる欧州中央銀行(ECB)の大盤振る舞いの「ツケ」を払わなければならない。金利上昇により、ECBが2014年以降買い入れてきた債券のポートフォリオが「損失製造機」と化している。損失の分担方法を巡ってユーロ圏諸国の間で大きな緊張が生じかねない。
ECBが新たに「刷った」マネーで債券を購入し、その結果生まれた市中銀行の準備預金は今、3兆9000億ユーロに達している。ECBはこの準備預金に現在2%の利息を支払っている。来年は利息の支払いが総額約780億ユーロとなる計算だが、追加利上げがあれば額はさらに膨らむ。支払い額は、今より金利がずっと低かった時にECBが買った債券から得られる利息収入を超えている。
ECBが購入した債券から生じる損失は、ユーロ圏においては特に厄介な問題になりそうだ。量的緩和(QE)の批判派は、この損失をもってQEがリスクの高い道具であることの証拠と見なすだろう。
ベルギー国立銀行(中央銀行)は今後5年間で損失が90億ユーロに達しかねないと警鐘を鳴らした。他のユーロ圏中銀もECBへの資本拠出割合に応じて同様の損失を分担するとすれば、5年間の損失総額は3040億ユーロに上る可能性がある。このうち80%を各国中銀が、残りの20%をECB自体が引き受ける義務がある。
痛みを分け合う方法は3つある。第1に、各国中銀が過去10年間に蓄積した引当金を使う方法だ。ECBによると、引当金の総額は約3000億ユーロ。ただし、中銀によって引当金へのアプローチに大きな差があるため、引当金の準備状況には強弱があるだろう。しかも中銀は引当金を食いつぶしてしまうのを嫌がりそうだ。
第2の選択肢は、政府が介入することだ。中銀は破産宣言ができないが、資本がほとんどない、もしくは債務超過の状態で運営していれば信用が傷付きかねない。しかし、市中銀行に金利を支払うために税金で多額の資本増強を行うとなれば、政治的な騒動に発展する恐れがある。フランスのように大規模な銀行システムを持つ国々や、多額の債務を抱えるイタリアなどは抵抗するかもしれない。
第3の、もっと現実的な選択肢は、ECBが準備預金に適用する金利を下げることで市中銀行への支払いを減らす方法だろう。つまり一部の準備預金にだけ中銀預金金利を適用し、残りの準備預金にはもっと低い金利を導入する手法だ。ただ中銀当局者からは、この方法では金融政策の波及効果が薄れかねないと懸念する声もある。
ECBのマイナス金利政策によって10年近くも低い利益に苦しんできた市中銀行は、金利上昇に際しても矢面に立つことになる。仮に中銀が市中銀行を「罰する」ことがないとしても、代わりに政府から課税されるリスクは高まる。
●背景となるニュース
*ECBは15日、主要政策金利の中銀預金金利を1.5%から2.0%に引き上げることを決定した。インフレ率が目標の2%に戻ると確信できるまで、今後数カ月にわたって「着実なペースで大幅な利上げを行う必要性が残っている」とした。
*ECBの最新予想では、今年のインフレ率は8.4%、来年は6.3%、2024年は3.4%、25年は2.3%。
*ECBは併せて、資産買い入れプログラムの下で購入した債券のポートフォリオを、来年3月から毎月約150億ユーロ減らし始めると発表した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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