January 27, 2015 / 2:37 AM / 4 years ago

焦点:ドラギ総裁、どのようにECBを量的緩和に導いたか

[ロンドン 26日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が22日、1兆ユーロを超える規模の国債買い入れ型量的緩和(QE)を発表した時点で、彼はECBが最後の手段を行使したことをよくわきまえていた。

 1月26日、ECBのドラギ総裁が22日、1兆ユーロを超える規模の国債買い入れ型量的緩和(QE)を発表した時点で、彼はECBが最後の手段を行使したことをよくわきまえていた。ECB本部で22日撮影(2015年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

総裁は会見で、この量的緩和が失敗した場合にどんな事態が起きるのかとの質問を受けると「われわれが持っているのはプランAである。以上」とだけ答えた。

ECBに対してはかれこれ1年以上も前から、ユーロ圏の物価やインフレ期待の下振れ、さらに景気停滞を食い止めるために思い切った措置を取るよう要求する声が、エコノミストや他の中央銀行関係者から上がっていた。

だがECBがこうした措置に踏み切ることにはドイツの政治家や影響力の大きいドイツ連銀が強く反対していたため、ドラギ総裁が実際に動けるようになったのは、ゆっくりと時間をかけて辛抱強くECB理事会内で働きかけを続け、ようやく自身の案について圧倒的な支持を得られるようになってからだった。

以下に、内部のまったく足並みがそろなわかったECBがどのようにして、大半の投資家が想定してたよりも大胆でオープンエンドの性格が濃いQEを打ち出すに至ったかを記していく。

これはQEの決定に関与した6人への取材に基づいており、ECBの政策検討過程に関する守秘義務のため発言はすべて匿名となっている。

<政策決定を小分け>

ドラギ総裁が最初に用いた作戦は、政策決定をいくつかの問題に小分けしていくというもの。それがQEに向けて幅広いコンセンサスを最も得やすい戦略だと考えた。

総裁はまず、ユーロ圏加盟国すべての国債を出資比率に応じて流通市場で買い入れるという原則について、金融政策としての正当性を有するとの合意を得ようとした。

これは先に進む上で不可欠の基本前提であるばかりか、ドイツの公式な形の反対を無効化する。

QE決定に参加したある人物は「わたしにとって最も重要だったのは、ドイツ出身者を含めた理事会メンバー全員が国債買い入れは合法だと同意することだった」と話した。

この原則について全員一致の支持を得たところで、議論は次の段階に進むことができた。つまり国債買い入れの時期と手順、特に各国中銀の間でどのようにリスクを分担するかという点だ。

ドラギ総裁はそこで、欧州連合(EU)が協同で発行した債券と欧州投資銀行の債券のみ相互化し、国債購入に伴う残り80%のリスクは各国中銀が負担するという妥協案を提示した。この案に対しては一部の中銀関係者やアナリストが、QEの効果だけでなくECBの信認を弱めかねないと懸念している。

ただある関係筋は「ドラギ総裁は、われわれの多くは債務相互化で欧州の財政・政治が統合されるのを見たいが、それは政治的な決定であり、選挙を経ていない中央銀行当局者が裏口から実現させるべきではないと主張した」と明かした。

リスクの大半をECBから隔離するという今回のQEで最も議論が大きかった部分は、ドイツのメルケル首相とドイツ連銀に対する譲歩で、「ドイツのヒステリーを静めるための設計」だった、と別の関係筋は指摘する。また同筋は、もしもどこかの加盟国がデフォルト(債務不履行)を引き起こせば、ユーロ圏の中銀間でリスクを共有せざるを得ない以上、こうした取り決めは実質的な意味はないとも付け加えた。

ドラギ総裁は14日にベルリンでメルケル首相と非公式に会談し、自身の意図を伝えた。会談内容を知らされたある関係筋によると、メルケル氏は、緩和マネーが投機バブルを生むことや各国政府が痛みを伴う改革の手を緩めてしまうことへの懸念を表明したものの、ECBの独立性を尊重する意向を示したという。

この関係筋は「会談目的はメルケル氏にECBが温めている政策を通知し、メルケル氏にマイナス方向の驚きを与えないようにすることだった」と述べた。

<衝撃と畏怖>

債務相互化の問題が決着すると、ECB理事会メンバーは当初の提案より大規模で前倒しされた形の国債買い入れに合意できるようになった。

初めに検討されていたのは総額5000億ユーロという規模だったが、21日にECB理事会の中心メンバーで構成される役員会に正式に提出されたのは月額500億ドルで期間22カ月、計1兆1000億ユーロ。さらに理事会の最中に、月額600億ユーロに増やされ、期間は最低19カ月で計1兆1400億ユーロとなった。

QE決定に関わった別の関係筋は「主な変更点はより前倒しになったことで、市場に『衝撃と畏怖』を与えようとした。このプログラムは準オープンエンド型で、必要なら追加で買い入れる余地をこっそりと維持した」としている。

ドラギ総裁が自身の考えを実現する上では、物価とインフレ期待への下押し圧力が加速しつつあることを示す材料が数多く出てきたことが追い風になった。

また欧州司法裁判所の法務官が、ECBの無制限債券買い入れ策「OMT」について原則合法との判断を示したことも大きかった。ドイツの政治家が、ECBがマイナス金利でドイツの預金者から金を奪うとともに、ドイツの納税者から南欧の周縁国に信用リスクを移転していると相次いで批判していることに対抗するには、OMTの合法判断はどうしても必要だったのだ。

あるECB政策担当者は「OMTの合法判断で随分とやりやすくなった。ドイツがQE反対の論陣を張るのがずっと困難になった」と述べた。

<対話重視が奏功>

ドラギ総裁は、他の理事会メンバーに対して政策決定で独断専行せずに協力を求めるとあらためて請け合ったことで、事態を打開できた面もあった。

昨年10月には、24人の理事のうち7人が全面的なQEの行使なしでECBのバランスシートを拡大する政策に反対票を投じ、さらに数人がドラギ氏の秘密主義的な指導態勢について支持を保留した。

だが逆にこれによって不透明感が払しょくされ、ドラギ総裁はECB本部のインナーサークルに入っていない理事会メンバーとより緊密に協議し、議論の機会を増やしていくと約束した。

QE決定に詳しいある人物は「われわれは結束を示すことを決め、ドラギ氏はそれ以降もっと率直になっている。昨年11月以来、理事会は方向性がより鮮明となり、透明性は高まった」と語る。

今回のQE決定に際しては、正式の投票は実施されなかった。その代り、ドラギ総裁は個々の問題ごとに賛否をまとめ、ECBの使命の範囲内でQEに正当性を与えることへの理事会の全員一致による支持を発表するという内容で、合意を形成した。

あるECB当局者によると、ルクセンブルク出身でドイツに近いタカ派のメルシュ理事が考えを変えて、最終的に決定を支持したことが合意形成に寄与したという。

QEを支持した理事会メンバーの中には、果たして有効に機能するかどうか疑問を持つ向きもある。

それでも決定に関与した1人は「市場の期待と、デフレの瀬戸際になってもはやQEを温存したままでいられないという点から、ほかに動きようがなかった」とこぼした。

理事会メンバーのうち、ドイツ、オランダ、オーストリア、エストニア各中銀総裁とドイツ出身理事の5人は、QE実施のタイミングに反対した。オーストリア中銀のノボトニー総裁は、「個人的には、このプログラムについて考え、本当に必要なのか(見極めるため)、もう少し待つことを提案すべきだったのではないかと思う」と発言。オランダ中銀のクノット総裁は、ECBが「かなりの副作用がある強力な薬」を使ったことに懸念を示した。

一方、クーレ専務理事は世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、想定時期までにQEの目標を達成できなかったどうなるのかと聞かれると、「われわれが望むような目標を実現できないならば、その際は期間を延長しなければならなくなるだろう」と述べた。

(Paul Taylor記者)

*見出しを修正しました。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below