[ロンドン 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州中央銀行(ECB)は、物価高と信用不安に挟まれて非常に苦しい立場に追い込まれた結果、最も危険な道を選択した。結局、主要政策金利の中銀預金金利を従来の予定通り50ベーシスポイント(bp)引き上げて3%とすることを決定。その理由として挙げられたのは、根強いインフレだった。だが金融の不安定化と景気減速によって、彼らは間もなくよりハト派的な路線が妥当だと納得するかもしれない。
ラガルド総裁は会見で、ECBの2つの使命、つまりインフレとの対決と金融システム安定化を懸命に区別して見せようとした。まず前者について、ECBが今回公表した今年のユーロ圏のエネルギー・食品を除くコア消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率見通しは4.6%と、目標とする2%の2倍以上の伸びで、昨年12月時点の見通し(4.2%)から上振れした。
次に後者に関して、ラガルド氏は2008年の金融危機以降に実施された銀行改革の成果を高く評価するとともに、欧州銀行業界に流動性不足は発生しておらず、万が一それが起きてもECBは大規模な流動性供給手段を行使する用意があると発言した。
この1週間足らずで米連邦準備理事会(FRB)とスイス国立銀行(SNB)という2つの主要中銀が相次いで、金融危機拡大を予防するための措置を講じざるを得なかったが、ECBが発したメッセージは明快だ。すなわち現時点では、銀行救済よりインフレ退治が大事ということに尽きる。
しかし物価高抑制と金融安定化という2つの使命はすぐにも一体化するのではないか。中銀預金金利は8カ月にわたる一連の引き上げで08年以降最も高い水準に達し、来年と25年のユーロ圏の成長率を押し下げるだろう。ラガルド氏もこれを認め、大幅な金利上昇は住宅ローンの負担増や企業の資金調達環境引き締まりという形で実体経済に影響を及ぼし始めていると指摘した。
ECBは来年と25年のユーロ圏成長率見通しをともに1.6%と、それぞれ1.9%と1.8%だった12月時点から下方修正した。そうした景気の下振れがたとえ破滅的な銀行破綻につながらないとしても、銀行にかかるストレスは強まり、融資の消極化に伴う信用収縮を加速させかねない。
今回の利上げに対して銀行株の反応は乏しかった。また次回のECB理事会は5月なので、従来の前のめり的な利上げ路線の軌道修正を検討する時間的余裕はそれなりにある。実際、銀行への逆風がさらに激しくなるか、景気減速が一段と鮮明になれば、ラガルド氏は政策運営の修正に追い込まれるのではないか。
●背景となるニュース
*欧州中央銀行(ECB)は16日の定例理事会、政策金利を50ベーシスポイント(bp)引き上げることを決めた。米銀の経営破綻をきっかけに金融市場に動揺が広がったにもかかわらず、物価上昇率見通しが2025年まで目標を上回っている状況を踏まえ、前回理事会で示唆していた通りの利上げ幅を実行した。これで主要政策金利の中銀預金金利は3%と、08年終盤以降で最も高い水準になった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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