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再送:〔特集:縮む個人消費・下〕力不足の総合経済対策、自律回復なお見通し難

 [東京 28日 ロイター] 「消費に点火していれば、景気拡大はもっと長く続いただろう」(農林中金総研・主任研究員の南武志氏)──。1960年代後半の「いざなぎ景気」を超えて戦後最長となった今回の景気拡大局面を振り返り、専門家にはこうした見方が少なくない。内閣府の調査によると、今拡大局面での消費の伸びは年率プラス1.5%で、いざなぎ景気のプラス9.6%、バブル景気のプラス4.4%と比べて大きく見劣りする。 景気拡大にブレーキがかかっている現在、個人消費を回復させる環境づくりは一段と難しくなっている。

 消費が伸び悩んでいる最大の理由は、賃金が上昇しなかったことだ。給料の伸びを比べると、いざなぎ景気の114.8%増、バブル景気の31.8%増に対し、今回の景気拡大期では逆に0.8%減少した。「所得が伸びないのに消費が落ちなかったのは、貯蓄を削ってきたため」(連合総合生活開発研究所 鈴木不二一副所長)。内閣府によると、96年度に10.4%あった貯蓄率は、その後徐々に低下、06年度には3.2%まで落ち込んでいる。

 <下押し圧力、さらに強まる可能性>

 先行きについても、個人消費への逆風はさらに強まる可能性が高い。内閣府が13日に発表した4─6月期国内総生産(GDP)は、13四半期ぶりに財貨・サービス輸出が前期比マイナスに転じ、比較的底堅く推移していた消費支出も06年7─9月期以来の減少になった。消費縮小の主因は、ガソリンや食料品の急激な値上がりだ。 みずほ総研シニアエコノミストの太田智之氏は「4─6月期消費は、うるう年要因を除いても弱い。電力やガソリンの使用量、外食も減少している」と物価高の影響を指摘する。

 仮にガソリンや食料品価格の上昇が一段落したとしても、消費者の購買力がどこまで高まるかは不透明だ。消費の先行きを占う要因のひとつである企業収益をみると、これまでの拡大を支えてきた外需に急速に陰りが出てきており、輸出や生産の増加は当面期待できない。また原油などの資源価格が、やや落ち着いたとはいえ高水準で推移する状況が続けば、今後、企業収益の悪化、設備投資・雇用の引き締めなど、消費や景気の下押し圧力が強まる可能性が高い。

 それに加えて、将来の生活への不安が家計のやりくりに影を落としている。都内で勤務する40代の男性は「これからリストラの波が来るかもしれず、先行き不透明なので、無駄な出費は極力避けている。ゴルフは完全にやめた」と話す。年金問題や後期高齢者制度をめぐる混乱は、潜在的な雇用不安とあいまって、消費者心理を冷え込ませ、財布のひもをさらにきつく締めさせる作用をもたらしている。

 <総合経済対策、効果は未知数>

 統計だけをみると、所得環境悪く、マインドも悪いのに、消費はほぼ横ばいを維持している。これについて、ある政府関係者は、「オリンピックもあり、テレビ・ビデオなどの需要が一時的にある」ことに加えて、所得が減少しても、急には消費を減らさない、いわゆる「ラチェット効果」で支えられていると指摘する。しかし、今後の見通しについては、「雇用情勢が弱含み、実質所得が下押しされる結果、当面、個人消費の回復は見込みにくい」(与謝野馨経済財政担当相)状況だ。

 複合的な下押し圧力に直面している個人消費を回復軌道に乗せる処方せんはあるのか─。 政府は8月末にも、物価高への対応など3つの柱を軸にした総合経済対策を決定する。対策には、中小企業の資金繰り対策や高速道路料金の引き下げ、農林水産業対策、低炭素社会の実現に向けた施策などが盛り込まれる方向だ。

 雇用の7割を占める中小企業向けの活性化策について、伊吹文明財務相と二階俊博経済産業相は27日、中小企業の資金繰り対策として信用保証制度の拡充を含め、補正予算で4000億円を措置することで合意した。さらに、与党の公明党は、低所得層に恩恵がむかう定額減税を求めているほか、連合が「中低所得者を中心とする所得税減税」を、日本経済団体連合会も「子育て世帯を中心とする所得税減税」を主張している。 

 しかし、これらの対策が消費拡大の決定打になるとの見方は少ない。減税について言えば、厳しい財政事情の中で財源を確保する難しさに加え、「(減税などで)財政が破たんに近づいたと思えば、消費者は減税分を消費に回さない」(みずほ総研の太田氏)からだ。中小企業対策についても、基本的には原油など原材料価格の上昇で痛みが表面化している業界の支援を意図した「一時しのぎ」という冷ややかな反応もある。

 政府・与党内にも、現在の経済環境では、需要喚起策の効果は限定的との声が目立つ。自民党の財政改革研究会・事務局長などを務める後藤田正純衆議院議員は、21日のロイターとのインタビューで「(定額減税で)消費に(お金が)回るかは、これまでの経験からも難しい。消費に回らずに、貯蓄に回れば何の意味もない」と指摘した。政府内には、大規模な赤字国債発行や恒久減税が困難ならば、所得の少ない世帯を対象とした一時的な減税が次善の策になりうる、との見方もある。

 <高齢化対策、女性活用、外国人受け入れが有効>

 個人消費を活性化するには、さらに抜本的な施策が必要との声は少なくない。焦点になるのは、高齢化対策や女性の就労拡大だ。引退後の団塊世代が消費のリード役になるには、生活不安の解消が不可欠。農林中金総研・主任研究員の南氏は「後期高齢者医療制度で公的資金を入れるとか、年金受給額の物価スライドを適切に運営する」ことなども対策として考えられると指摘する。

 「スウェーデン、デンマークに学ぶ高齢化社会の消費拡大」というリポートをまとめた三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、高齢者に並び女性の労働参加が、労働力の供給と同時に所得の増加を通じて、個人消費の増加にもつながると提言した。子育て支援などを通じて女性の労働参加を促進すれば、雇用者が100万人程度増加し、賃金上昇を通じて個人消費の増加に寄与する、という考えだ。

 一方、内需刺激策として、外国人の受け入れ拡大への期待も大きい。日本政府観光局によると、1─6月の訪日外国人旅行者数は前年比10%増の433万7000人となり、上半期としては過去最高を記録した。韓国、台湾、中国、香港などアジア諸国や豪州、カナダ、ドイツ、フランスなど欧州からの訪日客が増加したという。ビジット・ジャパン・キャンペーンの宣伝効果、航空便の拡充、豪ドルやユーロなどに一部の外貨に対し円安だったことなどが奏功した。同局では、2010年までに訪日外国人旅行者数1000万人の実現を目指している。

 なかでも購買力が高いのは、「日本のバブル期にみた消費意欲がある」(J.フロントリテイリング)といわれる中国からの観光客。家電量販店のビックカメラ3047.Tによると、銀聯(ぎんれん)カード(中国内の銀行がネットワークを組んで運営しているカード)での決済金額は昨年6─7月に比べて10倍以上に伸びた。購入単価も5万円程度と通常の1万円を大きく上回る。ドン・キホーテ7532.Tでは、免税対応や銀聯カード決済機能の拡大など、外国人観光客向けサービスの拡充を7月に発表している。

 国内景気の拡大局面が終わる中で、財政運営や雇用情勢はさらに厳しい環境に直面している。個人消費を呼び戻すには、減税など短期的な刺激策だけでなく、自律的回復を促す長期的な政策展開が必要になっている。

 (ロイター日本語ニュース 児玉 成夫記者 武田 晃子記者;編集 北松 克朗)

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