October 9, 2018 / 2:22 AM / 2 months ago

コラム:大規模住宅供給、価格高騰に「焼け石に水」の訳

[ロンドン 3日 ロイター Breakingviews] - ロンドンでもサンフランシスコでも、住宅価格について住民に質問するといい。ほとんどすべての人が、ひどく悲惨な状況を口にするだろう。

 9月3日、ロンドンでもサンフランシスコでも、住宅価格について住民に質問するといい。ほとんどすべての人が、ひどく悲惨な状況を口にするだろう。写真はロンドンの住宅街。2017年撮影(2018年 ロイター/Stefan Wermuth)

最もありふれた結論は、ありとあらゆる住宅が高すぎるから大規模な住宅建設しか解決手段はない、というものだ。

だが、それは必ずしも正解ではない。

ほとんどの財・サービスについて、こうしたシンプルな分析は理にかなっている。豚肉の価格が上昇して生産コストを十分上回るならば、養豚農家は喜ぶだろう。だがやっかいなことに、おそらく彼らは、もっと多くの豚を育てようと判断してしまう。すると通常、価格は下がり、豚1頭あたりの利益は減少してしまうだろう。

需要と供給に関するこのようなサイクルは、ミクロ経済学の初歩の初歩であり、程度の差こそあれ、多くの産業で通用する。ところが住宅は、このことが該当しない商品の1つなのだ。

住宅を巡る経済学が豚肉と異なる原因は、「マネー」だ。特に、実際に住宅が建っている土地に対して支払われているとエコノミストが考える「マネー」だ。これが、価格のうち建設コストを超過している部分である。言い換えれば、養豚農家が利益と呼ぶもの、資産エコノミストが帰属土地コストと呼ぶものである。

居住用住宅のインフレ調整後価格に見られる近年の変動のほとんどすべてが、土地コストの上昇によるものだ。

正確には、1950年から2012年にかけての14カ国における住宅価格の上昇のうち、81%が土地コストの上昇分であり、残りが建設コストの上昇である。この計算は、カタリナ・ノール氏、モリッツ・シュラリック氏、トーマス・スティーガー氏が2014年にダラス連邦準備制度銀行のために実施した、実に入念な調査によって得られたものである。

土地とマネー、豚とマネーというそれぞれの関係は非常に異なっており、前者のほうがはるかに関係深い。全体的な価格が大きく上昇しない限り、豚肉向けの消費金額は、食費全体から支払われるものであり、その総額は相当に固定されている。要するに、ベーコン代が増えれば卵代が減るのだ。

住宅価格の土地部分に関しては、およそ厳格と呼ぶに値する制約は存在しない。土地購入に使われるマネーのうち、あまりにも多くの部分が、銀行による住宅抵当ローンという形でそのためだけに用意されるからだ。実質的には、建物自体が耐久消費財、実体投資であるのに対して、土地は株式、債券、オリジナル美術作品のような金融資産なのだ。

こうした資産の価格は、通常の経済的価値とはほとんど関係なく、買い手がどれほどの金額を支払う能力と意思を持っているかという点に深く根付いている。

購入に回せるマネーの供給が多ければ多いほど、そして購入しようという熱気が高いほど、価格は上昇する。美術作品の価格に関しては上限は存在しない。住宅に関しては、賃貸居住者や住宅ローンの借り手に、支払いを増やす能力や意志がなくなってしまった時点で価格上昇は止まる。

金利が低ければ、養豚農家も融資を受けてもっと繁殖牝豚を購入し、生産頭数を増やそうという気になる場合がある。だがそれは、低金利が住宅購入者に与える影響とはとうてい比較にならない。彼らは一般に、購入価格そのものより、月々の支払額に関心を注ぐからだ。

さらに、価格を押し上げる住宅購入資金がどこか別の源泉から供給される場合もある。たとえば香港の場合、住宅価格高騰の主な原動力となったのは、中国本土からの遊休資金の流入だった。

マネーの柔軟性がこれほど高いだけに、住宅の場合は豚肉に比べて、物理的な住宅供給の変化が価格に与える影響は遥かに小さくなる。ケース・シラー指数で見ると、2000年1月から2005年2月にかけて、年間の米新規住宅着工件数は35%も急増したのに、米国の平均住宅価格は79%も上昇した。過去5年間では、着工件数が40%増加したにもかかわらず、価格は31%上昇している。

もちろん、マネー総額が変わらないのに供給が少なくなれば、価格上昇の幅がさらに大きくなるのはほぼ確実である。結局のところ、平均価格とは、住宅購入に充てられるマネーを販売される住宅の戸数で割ったものに等しい。建設が増えれば、この割り算の分母の部分が大きくなる。

逆に、都市計画やゾーニング規制が新規建設を制限していたのであれば、規制緩和によって、ロンドンやサンフランシスコの住宅価格はほぼ確実に下がるだろう。どれくらい下がるのだろうか。もし建設ブームによって新築住宅が増えるだけでなく、ローンの貸し手や投機家の熱意も沈静化するのであれば、下げ幅は大きいだろう。この場合、鍵となる分数において、分母が大きくなる一方で(またそれが原因となって)、分子が小さくなるからだ。

とはいえ、住宅価格に対するマネーサプライの影響がこれほど大きいからこそ、住宅価格のトレンドは、新築住宅をどれくらい建設すべきかという明確な指標には必ずしもならない。

この問題に関心を寄せる政策担当者は、むしろ、価格よりも、住民生活の質を測るマネー以外の指標に注目するほうがよいだろう。こうした指標の候補としては、人口増加率や住居の平均建築年数、住民1人当たりスペース、そして典型的な通勤所要時間などが挙げられる。

政策担当者は、この問題について真剣に考える一方で、住宅市場に向けられたマネーの大量流入が社会的な一体性に与える影響についても懸念することになるのではないか。

結局のところ、住宅価格の急騰は「持てる者」と「持たざる者」の格差を必然的に拡大する。まずは自宅所有者と賃貸居住者、そして市場高騰以前に余裕を持って購入できた層と、苦しい家計を抱える新規購入層の格差だ。

Slideshow (3 Images)

住宅供給の増大が格差縮小に役立つ可能性はあるが、住宅は豚肉とは違う。マネー流入が続く限り、新規供給の効果は限定的だろう。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below