[ロンドン 23日 ロイター] - 新興国市場の企業利益が大幅増加し、株価の上昇に弾みがついている。投資家はトランプ米政権の保護主義的政策というリスクをひとまず棚上げし、株式に投資している。
MSCI新興市場株指数は昨年、4年ぶりに年間で上昇に転じた。今年に入って既に10%上昇し、過去1年間の上昇率は40%に達した。
より多くの投資家が買いに加わっている兆候が見られる。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが世界の機関投資家を対象に実施している調査によると、1月は新興国市場株が6%のアンダーウエートとなっていたが、今月は5%のオーバーウエートに転じた。
昨年の株価上昇は、コモディティー価格の上昇と米連邦準備理事会(FRB)が利上げを遅らせたことが主な要因だった。現在は、トランプ政権の約束する積極財政と減税の効果が新興国にも波及するとの期待がある。
その上、トランプ氏が「国境税」の導入をちらつかせて諸外国の為替政策を批判したことは、ドル高ではなくドル安につながった。
さらに重要なことに、新興国市場の景気は明るさを増している。国際金融協会(IIF)がまとめた指数によると、昨年末時点で新興国の経済成長率は4年ぶりの高水準に加速した。
これに石油と金属収入の安定化が加わり、新興国の株主資本利益率(ROE)は昨年、数年ぶりの低水準から回復した。
トムソン・ロイター・エスティメーツによると、MSCI新興国株指数を構成する企業の1株当たり利益は今年15.2%増加する見通しだ。
ピクテ・アセット・マネジメントのシニア・マルチアセット・ストラテジスト、スプリヤ・メノン氏は「一方にはトランプ大統領絡みの懸念があるが、企業利益や経済成長など新興国市場のファンダメンタルズに目を向けると、大幅な改善が見られる」と語る。
メノン氏によると、新興国の1株利益の伸び率見通しは先進国を3─4%引き離しており、見通しがさらに上方修正される余地もある。
クレディ・スイスのアナリストは、新興国市場株が一段と上昇するとみる根拠を3つ挙げている。コモディティ価格の上昇、鉱工業生産の回復、生産性の向上だ。
同行によると、中国、ブラジル、ロシアの各国では過去10年間で初めて生産性の伸びが賃金の伸びを上回っている。新興国市場全体で見ても5年ぶりに上回った。つまり単位労働コストが下がっているということだ。
<リスク>
ただ、新興国市場株の上昇にはリスクもある。米国の金利は上昇しており、トランプ米政権の保護主義的政策も懸念される。
新興国市場株に強気のファンドの多くは、当面はトランプ氏の政策による景気浮揚効果に着目しながらも、具体的な政策が明らかになるのを待っているところだ。
モルガン・スタンレーによると、MSCIアジア株指数を構成する企業のうち、2割以上の企業は売上高の20%以上を米国から得ている。
ピクテのメノン氏はテールリスクが「非常に大きい」とみて、リスクヘッジのために期間の長い米債を買った。「当社は新興国市場のデータが示す状況の割には慎重なポジションを取っている」という。
(Sujata Rao記者)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」