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アングル:冬の光熱費高騰に悲鳴、南欧目指す「エネルギー移民」

[マドリード/リスボン 28日 ロイター] - ビクトル・バーラモフさん(50)の仕事はソフトウエア開発。毎朝、アフリカ大陸の沖合に浮かぶ、陽光あふれるスペイン領の島で仕事に取りかかる。ウクライナでの戦争により光熱費が高騰し一冬を過ごすことが厳しくなったため、第2の故郷であるポーランドを離れたのだ。

 ビクトル・バーラモフさん(写真)の仕事はソフトウエア開発。毎朝、アフリカ大陸の沖合に浮かぶ、陽光あふれるスペイン領の島で仕事に取りかかる。ウクライナでの戦争により光熱費が高騰し一冬を過ごすことが厳しくなったため、第2の故郷であるポーランドを離れたのだ。写真はスペイン領カナリア諸島の海岸近くで11月9日撮影(2022年 ロイター/Borja Suarez)

より暖かく低コストの生活を追求しているのはバーラモフさん1人ではない。南欧諸国の観光当局が、生活コスト高騰の危機に乗じて、北の国々に住む人たちに国外で冬を過ごすメリットを宣伝しているからだ。

バーラモフさんは2カ月前、妻と10代の娘を連れてポーランドのバルト海沿岸からスペイン領カナリア諸島のグラン・カナリア島に移った。今後数カ月はここに滞在する予定だ。

ロシア生まれのバーラモフさんは、「ここに移ったのは経済危機のせいもあるが、もっぱら戦争の状況のせいだ」と語る。

2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、8月には一部のエネルギー価格が過去最高の水準に上昇した。その後、価格は落ち着いたとはいえ高止まりする可能性が高く、厳しいインフレを招いている。

バーラモフさんは、2016年以来住み続けたポーランドのグダニスクを離れれば、毎月250ユーロ(約3万6000円)の家賃を節約でき、光熱費とインターネット通信料全て込みでも140ユーロで済むと試算した。ポーランドでは、電気料金だけで200ユーロ払っていた。

今は節約したお金を外食に費やし、昼休みには海岸の散歩を楽しんでいるという。

「現実は期待以上だった」とバーラモフさん。

カナリア諸島の冬の平均気温は摂氏20度。カナリア自治州政府は9月にソーシャルメディア上でのキャンペーンを開始し、バーラモフさんのようなリモートワーカーや、英国、ドイツ、スウェーデンなど各国の年金生活者に移住を呼びかけた。

同自治州のヤイザ・カスティーヤ観光局長は、「この冬、欧州が大きな経済不安に見舞われることは周知の事実だが、カナリア諸島では逆にこの状況を活かしたい」と語り、カナリア諸島を「経済災害の避難所」と表現した。

他の南欧諸国も可能性を見出している。

ギリシャ観光相は9月、「欧州を悩ませる今回の大規模なエネルギー危機をチャンスに変える」ため、オーストリアとスウェーデンをはじめとする北欧諸国を歴訪した。

ポルトガル観光局もキャンペーンを展開し、ルイス・アラウホ局長は北欧からの冬季観光客に対する期待は「非常にポジティブ」だと述べた。

アラウホ氏の楽観は、観光データにも裏付けられている。

賃貸住宅の検索エンジン「ホームトゥゴー」がロイターに提供したデータによれば、英国、ドイツ、オランダといった諸国では、スペイン、ギリシャ、ポルトガルの冬季宿泊施設に関する検索件数がそれぞれ昨年比36%、13%、3%増加した。

スペインのホテルチェーン「メリア」のガブリエル・エスカレル最高経営責任者(CEO)によれば、この冬はカナリア諸島の短期賃貸マンションやスイートルームに2─3カ月にわたる予約が入っており、スカンジナビア諸国からの来島者が目立っているという。

<「冬の避寒地」、その先も>

観光客や移住者はドイツからもやってくる。ウクライナ侵攻以前のドイツはロシア産天然ガスへの依存度が高く、冬季にエネルギー不足が発生する可能性が危惧されている。

他国からの入学者が増えている学校の中でも、グラン・カナリア島のドイツ人学校には、今年、他国から40人の入学志願者が集まった。正確な数字は示されていないが、例年よりも多い数だという。

カナリア諸島のシェアオフィス事業者レピープルによれば、11月の予約はすでにいっぱいで、残りの冬も80%が埋まっているという。

レピープルで利用枠を確保した1人、ドイツ人フリーランサーのハイコ・シェーファーさん(31)は、クリスマスまで滞在する予定だ。

「昨今の物価上昇で、なるべく南へと向かう人は多い」とシェーファーさん。「この島は冬季の避寒地だ」

カナリア自治州観光局によれば、航空各社は同諸島行きの座席数を31%増やす予定だ。

ドイツとカナリア諸島の間で運航する主要航空会社、TUIフライは、10%程度の増便を予定していると発表。エネルギーコストは南に向かう人々を増やす「心理的要素」だと説明した。

民泊サイト運営大手の米エアビーアンドビーは、南欧における冬季の滞在施設に関する検索件数が、4月から6月にかけて3倍に増加したと明らかにした。

<自宅引きこもりか、移住か>

とはいえ、欧州北部で暮らす大多数の人々にとって、生活コストの上昇により旅行というぜいたくさえ難しくなった昨今、南に向かうなど夢のまた夢だ。

英国の小売統計では、こうした人々は南に向かう代わりに、羽毛布団やスロークッカー、電気毛布といった暖を取るための商品を買い込んでいる。

だがその一方で、恒久的な移住を決意した人もいる。

英イングランド南部ケント州出身のナターシャ・カルデイラスさん(28)とその家族は、クリスマス直前に、夫の故郷であるポルトガルに引っ越す予定だ。エネルギー価格が決定打になったという。

カルデイラスさんは、暖かい気候のおかげで、英国にいる時よりも暖房を使う時間が短くて済むだろうと考えている。英国での暖房費は月額約200ポンド(約3万3000円)で、今後も上昇しそうだ。

「エネルギー危機以前から、気候のいいポルトガルに住みたいとは思っていた」とカルデイラスさん。「でもエネルギー危機のせいで、暖かいポルトガルに住むことで得られる安心感がいっそう増している」

不動産コンサルタント企業ゲット・プロパティーズのムラト・コスカンCEOは、生活コストの危機について、英国民がこれを機に国外脱出を決意する「トレンドを後押しした」と話す。

「ピークはこれからだと思う」と同CEOは言う。「この冬は厳しくなるだろうから」

(Catarina Demony記者、Corina Pons記者、翻訳:エァクレーレン)

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