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コラム

コラム:EUのエネルギー禁輸、プーチン政権打倒の切り札なるか

[ロンドン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ロシアが欧州連合(EU)へのエネルギー輸出を停止したとしても、同国経済はなんとか堪え忍べるだろう。制裁の効力が及ばない準備資産を持ち、原油高が味方になる上に、国民向けの政治宣伝がうまく機能して、経済的な痛みを和らげてくれるからだ。つまり、EU向け天然ガス輸出を止めるというプーチン大統領の威嚇は、より信ぴょう性が出てくることになる。

 5月8日、ロシアが欧州連合(EU)へのエネルギー輸出を停止したとしても、同国経済はなんとか堪え忍べるだろう。写真はロシアとEUの旗のイメージ。1月撮影(2022年 ロイター/Dado Ruvic)

表面的には、エネルギー禁輸はそれがロシア側の自発的措置であろうが、EUがプーチン氏に強制した結果であろうが、ロシア財政にとって致命傷に思われる。西側の制裁によって、ロシアの今年の成長率は既に最悪でマイナス15%に沈むと予想されている。

しかしプーチン氏の財政基盤は比較的底堅いことが、今後判明してくる可能性がある。ロシア政府が昨年得た収入のうち、原油・ガスの売却は約9兆ルーブル(1250億ドル)を占めた。EU向け輸出は金額ベースでその4割前後なので、ロシアは最大で500億ドル、昨年の収入全体の15%を失う計算になる。昨年の財政黒字は70億ドルだった。

ところがエネルギー価格上昇が追い風として働く。天然ガスの場合、EU以外に転送することはパイプライン施設の問題で不可能だが、原油ならどこにでも輸出できる。そして原油と石油製品はロシアのエネルギー輸出全体の75%に達する。昨年の原油の平均価格は1バレル=71ドル前後だったが、現在は108ドル近辺。これはロシアが原油輸出を約33%減らしたとしても減収にならないことを意味している。禁輸が発動された後は原油価格が一段と上がる公算が大きく、ロシア政府が買い手に提示する必要がある値引き分を相殺してくれるだろう。

当然の話として、今年国内総生産(GDP)の15%減が見込まれることも、政府収入の落ち込みにつながり、財政赤字を拡大させる。だがそこで効果を発揮するのは、プーチン氏がウクライナ侵攻後に流布してきた国内向けの政治宣伝だ。ロシア政府は「御用メディア」を駆使し、国民に今は厳しい局面だとの印象を浸透させ、昨年200億ドルを拠出した医療費などを思い通り削減しやすい環境を整えつつ、490億ドルの国防費は聖域化している。プーチン氏としては、ルーブル安を誘導してルーブル建ての輸出収入を増やすという手もある。

最後にプーチン氏の手元には、米政府が現金化を阻止しようとしている金準備およそ1400億ドル相当を差し引いても、西側の制裁の影響を受けない準備資産が1600億ドル前後存在する。この準備資産と、プーチン氏が予算内に蓄えていた予備費約500億ドルをつぎ込めば、輸出先を見直してインドないし中国向けを拡大する態勢が整うまでの時間稼ぎは可能だ。

結局エネルギー禁輸はロシアに打撃を与えても、プーチン氏の政治体制をひっくり返すには力不足ではないだろうか。だから西側へのエネルギー供給を止めるぞというロシア政府の警告を、ばかげた脅しだと一笑に付すことはできない。EUがロシア産エネルギーの輸出封止に動いたとしても、この悲劇的な戦争がすぐに終わる展開は期待薄だ。

●背景となるニュース

*EUは8日、石炭、木材、化学品などの輸入禁止を盛り込んだ対ロシア制裁を採択した。

*ロシアのプーチン大統領は3月31日、買い手がルーブルで支払わない限り、天然ガスの供給を停止することを定めた大統領令に署名した。

*ウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊ブチャでロシアが戦争犯罪を行ったとの非難が国際社会から強まる中で、EUはロシアからのエネルギー輸入をさらに縮小するよう迫られている。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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