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アングル:欧州の金融ハブ争奪戦、伏兵アムステルダムが先行

[アムステルダム/ロンドン 18日 ロイター] - 英国の欧州連合(EU)離脱に伴う欧州の金融ハブ争奪選は、もっぱらフランクフルトやパリが有望視されていた。しかし、実際にはレース序盤に伏兵のアムステルダムが先行する番狂わせが起きている。

2月18日、英国の欧州連合(EU)離脱に伴う欧州の金融ハブ争奪選は、もっぱらフランクフルトやパリが有望視されていた。アムステルダムで1月撮影(2021年 ロイター/Piroschka Van De Wouw)

先週に公表されたデータによると、オランダの首都・アムステルダムは、今年1月に欧州の1日当たりの株式総取引高である400億ユーロに占める比率が約20%とブレグジット(英国のEU離脱)前の同10%弱から上昇。欧州最大の株式取引拠点としての地位をロンドンから奪った。

アムステルダムは株式取引以外の分野でも密かにライバルを出し抜いており、世界の金融取引市場で大きな力を誇った17世紀の姿を思い起させている。

データによると、アムステルダムは企業上場拠点として年初来の実績がロンドンを抜き欧州トップで、ユーロ建て金利スワップ市場でも首位に立っている。

ロンドン証券取引所(LSE)傘下の株式取引プラットフォーム、ターコイズのロバート・バーンズ最高経営責任者(CEO)はアムステルダムについて「トレーディングの文化が丸ごとある」と述べた。「大きな機関銀行がいくつかあり、専門性の高いトレーディング会社があり、リテールのコミュニティーは活発だ。欧州大陸の中心にも位置している」と言う。ターコイズはブレグジット後の拠点としてパリではなくアムステルダムを選んだ。

取引所運営会社・CBOEヨーロッパによると、同社は数週間以内にアムステルダムで株式デリバティブ事業を立ち上げる計画。CBOEヨーロッパのデービッド・ハウソン社長は、他の都市を差し置いてアムステルダムを選んだ理由について、欧州のこの業界にとって「実質的な成長」が見られるからだと述べた。

また、市内で英語が広く使われていることや、一部の欧州諸国が自国企業を優遇しているのに対し、アムステルダムの規制が国際的な投資家寄りである点も理由に挙げた。

しかし、こうした事業の進出は、アムステルダムに金融取引による税収やインフラ向け投資の増加をもたらす可能性がある一方で、今のところ「雇用ブーム」は起きていない。アムステルダムに拠点を移す企業の多くは専門性が高く、従業員数が少ない傾向があるためで、例えば、ターコイズのアムステルダム部門の職員数はわずか4人だ。

オランダ外国投資庁によると、ブレグジットに伴いアムステルダムに拠点を移す金融サービス企業が創出した雇用は1000人程度。英国の国民投票でEU離脱派が勝利した2016年以降、ロンドンからEUに移動した雇用者数は7500─1万人と推計され、アムステルダムはこのほんの一部を獲得したに過ぎない。ロンドンの金融セクターの雇用者数50万人に比べれば「大海の一滴」だ。

銀行職員の賞与を制限するオランダの法律などが障害となり、従業員数の多い投資銀行の多くは欧州大陸の別の都市を目指している。

銀行幹部からは、株式やデリバティブの取引がアムステルダムに移っている最近の動きは、ロンドンにとって脅威ではないとの見方もある。

バークレイズのジェス・ステーリーCEOは18日、「今ロンドンで運用されている主な資本プールは半年前、1年前と同じだ。だから『ロンドンが厄介なことになった』と言い切れるほどの大脱出が起こっているとは思わない」と述べた。

<先行する理由>

リフィニティブのデータによると、今年に入ってアムステルダムで実施された新規株式公開(IPO)は総額34億ドルで、欧州の株式上場ランキングでトップに立つ。ポーランドのインポストがIPOで28億ユーロを調達したほか、スペインのフィンテック企業、オールファンズなどがアムステルダムでの上場を計画している。

銀行筋によると、中欧や東欧のハイテク企業の少なくとも3社がアムステルダムでの上場を検討している。

特別買収目的会社(SPAC)2社の案件に関わっている銀行筋によると、オランダの規制は米国に最も近いため、世界全体に魅力をアピールしやすい。

ユーロ建て金利スワップ市場では、アムステルダムとニューヨークのプラットフォームがロンドンからの流出分の大半を手中に収めた。IHSマークイットのデータによると、ロンドンのシェアは昨年7月に40%弱だったが、今年1月には10%余りに低下した。

さらにインターコンチネンタル取引所(ICE)は二酸化炭素(CO2)排出権取引を年内にロンドンからアムステルダムに移す予定で、アムステルダムはこの分野で欧州の重要拠点になるだろう。

<銀行の賞与規制>

アムステルダムによるブレグジット便乗の手法を2016年から分析してきたオランダ外国投資庁は、この都市が優位に立てる金融セクターをいくつか特定した。広報担当者は「われわれは専門的な分野に的を絞った。トレーディングとフィンテックだ」と述べ、強みとしてレスポンスの速いデジタルトレーディング用インフラを売り込んできたと明かした。

広報担当者は的を絞った背景として、オランダには銀行賞与を規制する法律があるため、大手投資銀行はフランクフルトやパリに拠点を置くという事情にも言及した。

特定分野に集中するオランダの取り組みは、拠点を移す企業の数に反映されているのかもしれない。シンクタンクのニュー・ファイナンシャルの暫定データによると、ブレグジットに対応してロンドンからアムステルダムに全体もしくは一部の事業を移した企業は47社で、パリの88社、フランクフルトの56社を下回っている。

移転先にアムステルダムを選んだのはCME、マーケットアクセス、トレードウェブなどのトレーディング関連企業。オーストラリア・コモンウェルスなどの一握りの銀行や資産運用会社もアムステルダムに移転する。

一方、JPモルガン、シティ、モルガン・スタンレーなど大手投資銀はフランクフルトを選び、パリは銀行や資産運用会社を迎え入れた。

<判定は時期尚早>

ニュー・ファイナンシャルのマネジングディレクター、ウィリアム・ライト氏によると、アムステルダムは移転企業数こそが少ないが、仲介やトレーディング、取引所、フィンテックなどの分野でのリードが鮮明だという。

しかし、アムステルダムの序盤での成功は、割り引いて考えるべきかもしれない。ブレグジットでこれまでに最も大きな打撃を被ったのがトレーディング分野で、この事業は移転が容易だからだ。

ライト氏は「ブレグジットの影響に関して最初に出てきたデータは、主にトレーディング関連だ。だからアムステルダムが特にうまくいっているように見えている」と分析。「そしてIPOに関してはあまりに時期尚早なため、アムステルダムが勝ったとは宣言できない」と言う。

一方、オランダ金融市場庁(AFM)の幹部は、世界最古の証券取引所を擁するアムステルダムは明らかに魅力的だと指摘。「ここには昔からトレーダーの群れがいた。トレーダーは一カ所に群れたがるものだ」と語った。

(記者:Tommy Wilkes、Toby Sterling、Abhinav Ramnarayan、HuwJones)

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