[19日 ロイター] - 欧州は来年、天然ガスの備蓄確保がこの冬よりもはるかに厳しくなる。ロシア産の供給が8月下旬以降大幅に落ち込み、この冬の備蓄減少を回復させるのが容易ではないためだ。エネルギー価格が高止まりし、各国はこれまで避けてきた配給制の導入を迫られる恐れもある。
数カ月にわたるエネルギーコスト高騰で弱体化した政府にとって、有利な価格で締結した長期契約によらないスポット市場での調達は負担が重い。
欧州連合(EU)は今年、11月のピーク時に96%の備蓄率を達成し、冬に備えて十分なガスを確保。また例年になく穏やかな天候に恵まれ、各国はガス消費を抑制できた。しかし12月に入ると寒波に襲われ、今後の課題の厳しさに注目が集まっている。
国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は先週、「EU諸国は、今回は冬を前に備蓄を満たすことができた。しかし来年もそうなるとは限らない」と警鐘を鳴らした。
IEAの試算によると、欧州は次の冬にガスが300億立方メートル近く不足する恐れがある。これは2021年の総需要の約7%に相当する。
<備蓄率>
ロシアは2月にウクライナ侵攻して欧米から制裁を受ける前には、欧州のガス供給の約40%を担っていた。このうちパイプラインによる供給の約65%がドイツと結ぶノルドストリーム経由で、残りはウクライナ経由。ウクライナ経由は供給が続いているが、ウクライナ戦争に終結の兆しはなく、先行きは危うい。一方ノルドストリーム経由の供給は8月末から停止しており、破壊工作によるとみられる障害のため、近い将来再開される見込みはない。
ウッド・マッケンジーのアナリストによると、来年は気温が上がる4月から9月末までの在庫回復期にロシア産の供給が最大250億立方メートル減少する。つまりこの冬が終わった段階の備蓄水準が次の冬のための作業の大きさを左右することになる。
エナジー・アスペクツのアナリスト、レオン・イズビッキ氏は欧州の備蓄が来年3月末までに約550億立方メートルまで落ち込み、備蓄率は足元の約84%から50%強に下がるとみている。
EU欧州委員会によると来年11月1日までに備蓄率を90%に高める必要がある。来年の平均ガス価格を1メガワット時(MWh)当たり95ユーロと想定すれば、備蓄率をこの水準に達成するために欧州が負担する費用は約580億ユーロ(約8兆2000億円)で、今年分の見通しとほぼ変わらないとイズビッキ氏は指摘する。
<価格を決める天候と需要>
天然ガスは価格高騰で消費抑制が広まっている。アナリストの話では、別の燃料への転換、省エネ、生産抑制など幅広い対策により10月と11月に消費が前年比で約4分の1減った。
ティメラ・エナジーのシニアアナリスト、ルーク・コッテル氏は、「来年も引き続き需要削減に焦点が当たる」と予想する。
例えばドイツの自動車大手メルセデス・ベンツは再生可能エネルギーの使用を増やし、年内にガス消費を最大50%減らす計画。欧州各国の小売業者は照明を暗くし、画面広告を停止。一部企業はガス価格高騰で採算が悪化し、エネルギー価格の安い地域に生産をシフトしている。
需要をどれだけ減らせるかは天候にも大きく左右される。今月初めに欧州で気温が低下した際、ドイツのエネルギー規制機関の連邦ネットワーク庁はガスの節約が初めて目標を達成できなかったと発表した。
<供給の奪い合い>
供給を増やす手段が液化天然ガス(LNG)の導入なのは明白で、ドイツ、ポーランド、オランダなどがLNGターミナルを建設または拡張している。
米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、欧州と英国のLNG輸入能力は来年末までに2021年比で約25%増加する見込み。
しかし輸入能力があるからといって供給が保証されるわけではない。今年は、需要減少と価格高騰により中国の買い手がLNG のスポット市場を敬遠、アジア向けの一部が欧州に向かった。しかし来年も同じ流れになるとは限らず、そうなれば欧州では激しいLNG争奪戦が展開され、コストは上昇するだろう。
コンサルタント会社ユーラシアのディレクター、ヘニング・グロイスタイン氏は天然ガス価格について、「顔面を殴られ、発作的頭痛に見舞われた今年8月と異なり、来年は慢性的な頭痛に悩まされる」と予想した。
(Susanna Twidale記者、Marwa Rashad記者、Emily Chow記者)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」