[北京 11日 ロイター] - 中国は自動車販売台数が世界最大で、電気自動車(EV)の普及が他を圧して先行しており、外国メーカーが利益を上げる上で極めて重要な市場だ。しかし、自動車の規格や基準に関しては透明性の不足などさまざまな問題が指摘されている。折しも中国当局は規制の世界で存在感を高めており、自動車メーカーは対応に苦しんでいる。
欧州連合(EU)商工会議所が9月に公表した報告書は、中国の自動車規制に関する問題点として、透明性の欠如、新規則実施までの猶予期間の不足、「政策や規格の立案プロセスへのアクセス」を巡る不平等などを挙げた。
この報告書は、具体的な事例には触れていない。だが、中国の規制策定過程への不満が噴出し、規制面、とりわけEV規制の分野で拡大する中国の影響力への対応にメーカーが苦慮している様子を浮き彫りにしていると、自動車業界の関係者は指摘する。
これまでは、欧米の基準を満たしていれば中国の規制当局の承認を得るのはそれほど難しくなかった。中国当局が欧米の規制を参考にしていたためだ
しかし、今や中国はEV規制で世界の先頭に立っている。2020年は全世界のEV販売の約4割を占め、市場規模は巨大化。しかも中国当局はさまざまな業界で、国際的な標準化を率先して進めようと意欲的に取り組んでいる。
<VWの混乱>
独フォルクスワーゲン(VW)の技術陣は昨年、高額の費用をかけて、電動スポーツタイプ多目的車(SUV)「ID.4」のバッテリーパックの設計をあわててやり直さざるを得なくなった。その事例は、中国の自動車業界に潜む不安材料を如実に示している。
関係者2人によると、このバッテリーパックはVWとドイツ政府の熱管理テストに合格していた。だが、衝突後の5分間にEVが発火する可能性を極めて低くすることを目的とする、中国で計画された要件を満たしていなかった。
原因は、新基準の適用開始時期について中国政府から情報が得られていなかったことにある。だが、VW本社の頑迷な姿勢も無関係ではないという。中国の規制当局が、これまでのようにVWの言い分を聞き入れてくれるわけではないことを、本社は認識していなかった。
VWは中国に責任者を派遣して情報を収集、技術者による専門チームを編成し、約6カ月かけて軌道修正の道を探った。
最終的には、当初予定していた軽量のアルミ製バッテリーパックを、設計の異なる、より重いアルミ・スチール製パックに変更。シャーシの設計も修正した。
関係者は「既存のモデルの主要部品の変更は、新しいモデルを作るよりも難しいことがある。ID.4はその好例だ」と話した。
<時間的余裕と透明性の向上>
外国メーカーの幹部は、中国当局が規制の策定プロセスの透明性を改善し、好ましくない不測の事態を引き起こさないようにもっと努力すべきだと訴える。
メルセデス・ベンツ(中国)の研究開発責任者、ハンス・ゲオルク・エンゲル氏は先月、中国での車両開発と検査の課題として、新規制施行後に対応のための時間的余裕がないことを挙げた。
また、外国メーカーの幹部によると、新規制案に関する最初の会議には中国メーカーだけが招かれ、外国メーカーは後からしか参加できないことがあるという。
<グローバル化>
中国政府は昨年、国際的な標準化戦略「中国標準2035」の概要を発表。国際標準の設定をめぐり、主導権を握るまではいかなくとも、発言力を高めることを目指している。
自動車試験機関の中国汽車技術研究センター(CATARC)は6月、国連の運輸関連機関が置かれているジュネーブに事務所を開設。インドネシア政府のEV政策に協力し、ウズベキスタンやベラルーシなどの国と定期的な協議も行っている。
中国環境保護省の当局者は9月に開かれたCATARCの年次総会で、排出ガス規制の分野で世界的な影響力を高めることは、中国製のエンジン、部品、試験装置の輸出にも役立つと述べた。
規制にまつわる不測の事態を回避するため、外国メーカーは中国の研究開発(R&D)拠点への投資を増やしている。
ダイムラーの中国担当責任者、フベルタス・トロスカ氏は、北京のR&D拠点の開所式で「中国の重要性を念頭に置けば、中国からの要求を絶対に見逃さないようにするつもりだ」と述べた。
(Yilei Sun記者、Brenda Goh記者)
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